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「80年分の知のアーカイブ」岩波新書解説総目録について

 岩波新書総目録を買いました。

 これがなかなかすごい内容で、1938年の創刊から2019年までに出された岩波新書をすべて網羅した総目録なのです。

 帯には、「80年分の知のアーカイブ」と謳われていますが、正にそんな内容で、出版年月順にタイトル、著者名、概要説明がずらりと並んでいます。

 巻末には昭和13年の岩波新書発刊に当たっての岩波茂雄の言葉から、歴代の「刊行の辞」が収録され、書名索引・著訳編者名索引ももちろん付いています。

 この内容で税込み1,100円は安い!と思うかどうかは、その人次第。

 普通、目録って書店でタダでもらえますもんね。目録を売っちゃうところがさすが、岩波書店って感じでしょうか。過去には「岩波文庫総目録」も出ているようです。

 ちなみに私は即買いしました。

 ペラペラと眺めているだけでも楽しいですし、日本を代表する岩波新書の歴史がこれ一冊にまとまっているというのは、なかなかの史料価値ではないでしょうか。

 欲をいえば、発刊時点で絶版かどうかが分かるようになっていれば最高でした。それが分かれば、古書店で絶版本を探す際にとっても便利だったと思いますので。

 それにしても、岩波茂雄の「岩波新書を刊行するに際して」を読むと時代を感じます。

 「天地の義を輔相して人類に平和を与え王道楽土を建設することは東洋精神の神髄にして、東亜民族の指導者を以て任ずる日本に課せられた世界的義務である」

 これが書かれたのが昭和13年ですから「東亜民族の指導者」という表現などは「大東亜共栄圏の確立を目指す」としていた軍部の思想と一致していますね。軍部に気を使ったのか、それとも岩波茂雄氏をもってして、そう信じていたのでしょうか。

 それでも現状を批判し、文化をもって世の中を良くしていきたいという思いも読み取れます。

「驕慢なる態度を以て徒に欧米の文物を排撃して忠君愛国となす者のごとき徒に与することは出来ない。」

「武力日本と相並んで文化日本を世界に躍進せしむべく努力せねばならないことを痛感する。」

 そして、岩波新書の発刊目的をこう綴っています。

「今茲に現代人の現代的教養を目的として岩波新書を刊行せんとする。」

「岩波文庫の古典的知識と相俟って大国民としての教養に遺憾なきを期せんとするに外ならない。」

 この「現代的教養」を提供していくという考え方は、現在の岩波新書まで脈々と受け継がれている考え方だと思います。

 昭和13年といえばに日中事変から太平洋戦争に突入していこうとしている時期です。

 目録を見ると、そんな中岩波新書の第1号として発刊されたが「奉天三十年」クリスティ著。中国の民衆の中に入って生活したイギリス人牧師の自伝です。

 やがて敵国となるイギリス人牧師の自伝を1冊目に選んだところに、岩波書店の思いを感じます。

 この発刊のときには9冊が出版されています。

 それが終戦前年の昭和19年には1冊になります。

 この辺りに戦争の激化による出版状況の変化を見ることができます。当時は軍部の検閲もあったのでしょうか。

 そんなふうにこの目録を見ていくと、岩波新書を通じて、その時代の空気を感じることができます。

 そんな読み方も面白いですね。

 また、古本屋さんで岩波新書を探すときの参考にしたり、買った本にマーカーでチェックを入れていくのも楽しそうです。

 この総目録はきれいに読むのではなく、真っ黒になるまで使い倒すことに、楽しさがあるのではないでしょうか。

 総目録を手にしながら、そんなことを考えました。

 



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