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「ほんとうのリーダーのみつけかた」

 「ほんとうのリーダーのみつけかた」(梨木香歩著・岩波書店)を読んだ。

 著者の梨木さんが、少し前にブームになった「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎著・岩波文庫)を意識して書かれた「僕は、そして僕たちはどう生きるか」の文庫化に当たって、2015年にジュンク堂池袋本店で開催されたトークセッションを書籍化したものである。

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 「新型コロナウイルスが世界中に蔓延するという、僕たちが経験したことのない危機的状況の中、非常時というかけ声のもと、みんなと同じでなくてはいけないという圧力が強まっている」と梨木さんは言う。

 確かに、街を見渡すと、真夏なのにみんなマスクをして歩いている。もちろん人前で話すときや混雑したところへ行くときは、感染症対策としてマスクをすることは大切だと思うが、そんなに人が歩いていないところでも、みんなマスクをしている。僕自身、うっかりマスクを忘れてしまったので、マスクなしでスーパーに入ったところ、時々、変な視線を感じたり、居心地の悪さを感じたことがある。

 「私と小鳥と鈴と」という金子みすゞの詩の中に「みんなちがって、みんないい」という言葉がある。梨木さんは「みんなちがって、みんないいって、ほんとにそう思ってる?」と問いかける。「みんなちがっていたら、不安でははない?みんなおなじで、みんなあんしん、っていうのが、今の日本の空気なんじゃないかと思います」と。

 僕が感じたのも、この同調圧力なんだと思う。もちろん、マスクを忘れた僕が悪いんだけど、なんか居心地が悪いというのは、僕自身もみんなと同じほうが安心だと感じていたんだろう。

 でも、なんかちょっと怖いと感じた。日本が戦争にひた走った昭和初期の頃、あの頃に人生を生きていた人たちは、自分たちの未来にあんな悲惨な戦争が待ち受けているとは、もちろん知らなかっただろう。でも、戦争へ向かいそうな空気はあったんだと思う。そんな中、「みんなおなじで、みんなあんしん」という同調圧力が働いていたとしたら。

 そして、日本社会の本質が今も変わっていないのだとしたら、これは注意しないといけないことだと思う。

 梨木さんはこうも書いている。「「みんな同じになるべき」という同調圧力や「優秀なほど偉い」という能力主義があまりにも強烈に現場を縛り始めた時に初めて、「みんなちがってみんないい」という一言が発せられることで、緊張感を緩和する力を持つのです。怖いのは、「みんな同じであるべき」「優秀なほど偉い」という考え方が当たり前のように場を支配しているのに、指導者が「みんなちがって、みんないい」と、その言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおりにそれを繰り返していることです。そうすると、言葉が空疎になり、なんの力も持たなくなります。」

 子どもが小さいとき、幼稚園や小学校の音楽会で、子どもたちがスマップの「世界で1つだけの花」を合唱しているのを聴いて感じた僕の違和感を、梨木さんは見事に言葉にしてくださっている。

 学校の先生は、この歌のメッセージをどこまで深く考えて選曲されていたのだろうか。親たちは、本当は自分の子どもが社会の中でナンバー1になってほしいと願って高い教育費を払いながら、一方で、「ナンバー1にならなくてもいい」と歌う子どもたちに、拍手を送っているんじゃないか。それって、子どもにとってはすごく迷惑だし、「どっちやねん!」って怒らないといけないような理不尽な話なのではないか。

 僕たちは、自分たちが置かれている状況、マスメディアやSNSから発信される情報にもっと注意深く接するべきなんだろう。そして、自分が発する言葉にも。世間の常識を一度、疑ってみる注意深さが必要なんだと思う。

 梨木さんは、本当のリーダーは自分の中にいると言う。

「自分の中のリーダーを掘り起こす、という作業。・・・チーム・自分。こんな最強の群れはない。これ以上にあなたを安定させるリーダーはいない。これは、個人ということです。」

 では、どうやって自分の中のリーダーを掘り起こすのか?

 それは、「自分を客観視する癖をつけることです。批判する力をつける。様ざまに批判する力をつけるなかで、自分自身にももちろん、批判する目を向ける。」

「批判って、難癖をつけるとか、文句ばかり言う。ということとは違います。正しい批判精神を失った社会は、暴走していきます。批判することは、もっとよくなるはずと、理想を持っているからできること。社会を愛する気持ちと反対のものではないのです。」

 つまり、社会や自分自身に対して客観的な目を持ち、健全な批判精神を持って物事を見ることが、「自分の中のリーダーを掘り起こす」ことにつながる。

 コロナ禍で先が見えない今、行き過ぎたグローバル社会のもろさが露呈し、社会のあり方や価値観が根底から覆されようとしている。

 若者たちは、そんな時代をどう生きていくのか。

 僕にできることは、自分自身が「自分の中のリーダー」をみつける努力を続けていくことと、これから社会に出ようとしている若者たち、高校生や中学生に、こんな本があるよと、梨木さんの本を、そっと差し出すことくらいかもしれない。

 1人でも多くの若者に、この本を読んでほしい。そして、考えてほしいと思う。

 世界が少しでも良い方向に行きますように、そして、自分の子どもを含めた若者たちの未来が幸福でありますようにと願いながら、僕は、これからもこの本を読み続けるだろう。




 

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