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【イタリア旅日記02】10年来の友に会う

2022年イタリアに旅して思ったことあれこれ 〈第2回〉 

 チューリッヒで10時間のトランジットを経て、ヴェネツィアのマルコ・ポーロ空港に到着したのは朝8時過ぎ。そんな時間にもかかわらず、ミケーレは迎えにきてくれた。ミケーレは10年来の写真家仲間だ。最初に会ったのは2012年、フランスのアルルで開かれた"festival europeén de la photo de nu"。その後、イタリアで2回、日本で2回、一緒に展示をした。最後は2015年のパリの"fotofever"で、この時は開催2日目に同時多発テロ事件があった。それ以来、つきあいはメールのやりとりやFBくらいだったが、そのわりには疎遠になった気がしていなくて、7年ぶりに会うということの実感がわかなかった。

 ミケーレが私を見つけた方が早かった。ミケーレがすぐにわからなかったのは、ほとんどマスクをしている人がいないイタリアで、私もはずしていたのに、彼はマスクをしていたからだ。らしいなあとにやける。8時20分に飛行機が着くといえば、「8時10分には空港に行っている」と返事がくる。荷物が出てくるのを待っている間にも、WhatsAppに「着いた?」「もう待ってるよ」とメッセージがくる。とてもまじめなのだ。

 一通りのお決まりの儀式をしてから車に乗り込み、ミケーレがまず連れていってくれたのは、パドヴァ郊外の彼のスタジオだった。聞いてはいたが、ミケーレは2年前、それまでエンジニアとの2足のわらじを履いていたのをやめて、完全に写真家だけでやっていくことにしたのだった。ミケーレは同じ年で58歳。3年前、会社で自分が率いていたチームが解散になって、次のプロジェクトはインドかスペインと言われたのがきっかけになったらしい。

 ちょうどコロナ禍が続き、イタリアはヨーロッパの中でもとりわけ感染状況が深刻だった。幸い、周囲では誰もコロナには罹らなかったらしいが、そんな中、やはりミケーレもこれからどうするのかを考えたのだろう。彼のことだから、きっとすごく悩んだにちがいない。でも、その決心から2年を経た今、"You live only once."という口調は清々しくて素敵だ。

 中途半端な気持ちではないことを表すようなスタジオは本当に素晴らしかった。天井も高くて、引きも取れるし、大型の照明機材を置いてもまだ余裕がある。プリンタもB1まで対応可能。その隣にあるのは、私のところでは存在感たっぷりのA2対応プリンタと同じものだが、それがここではおもちゃのようだ。

 そのスタジオで私たちはお互いの写真を広げ合う。私が和紙にプリントしてそのまま綴じた本にミケーレは大感激してくれる。感激屋なところも人一倍。ミケーレもいい写真をたくさん撮っていて、中には大判にして日本のギャラリーでやったらかっこいいなと思うものもあって、私の中で勝手な想像が膨らみ始める。ミケーレは、コットンを原料とするイタリアの手漉き紙にプリントするという試みもしていた。和紙にプリントする時と同じで、平滑性に欠けるぶん、かすれやにじみが出るらしい。でも、そこから「完全とは何か」とか「不完全の美しさ」とかいったことをひとしきり語り合う。

「ユマとこういう話がしたかった」ミケーレが涙目になる。私はミケーレの肩をポンポン叩く。10年前に会った友だちとこんなふうにまた語り合えるなんて、それだけで奇跡だ。

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