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blew up spirit 4

「かわいいお車がいっぱいだね」
休日に彩乃はめい花を連れてキッチンカー専門の中古車ショップに来ていた。
小さなワンボックスの屋台風なものから、スクールバスを改造し食堂の様にした大型のものまで様々であった。
「中古車ですと、大体150万から400万ほどですね。軽トラを使った小さなものなら低価格で手軽に購入できます。1.5tのものだと350万ほどで少し高めになりますが、エアコンも付いて色々な種類のメニューが出せます。」
店員の説明を聞きながら彩乃は葛藤していた。1.5tだと営業中の快適さやメニューの豊富さが魅力だが、運転に自信がない自分に大きめの車が乗りこなせるだろうか?初心者はやはり軽トラから始めた方がいいのかも知れない…しかし安易に軽トラにしてしまってメニューの拡張がしたくなった時に取り返しがつかなくなってしまうのも困る。そもそもメニューは何を出すのだ?それすら考えず勢いで来てしまったが、自炊はめい花が生まれてから始めておりそこまで料理歴は長くない。自分の得意料理と言うと…めい花は小麦と乳のアレルギーがあるのでそれらを除去した米粉の豆乳クレープを彩乃はよく作っておりめい花からの評価も高かった。よし、これを看板メニューにしよう。だとしたら1.5tはクレープ屋には手に余る。やはり軽トラか、間をとって1t車はどうだろう?サイズ感は普通車とあまり変わらず、中も広々と使える。ただ中古車だと耐久性や走行距離の事もあるし新車から自分の好きな様にカスタムした方ががいいのでは?予算を確認してみよう。親に管理してもらっている貯蓄が今1500万ほどあり、めい花の大学までの養育費として1000万は残しておきたい、ではキッチンカーの開業に回せるのは500万だが、車体購入費だけではなく軌道に乗るまでの運転資金も考えると結構ギリギリである。そもそも軌道に乗らなけれればリスクしか無くめい花の養育費にまで手を付けかねない。そう考えるならもう少し今の風俗業で貯蓄を増やして、せめてめい花が小学生にあがるまで待てばいいのではないか?どうすれば良いのか、彩乃は真剣な表情で集中している。
「めい花、もう帰りたい」
考え込んでいるとめい花がぐずり出してしまった。
「もうちょっと待っててね…」
「いやだ!もうおうちに帰る!」
めい花の泣き声が店内に響き渡った。
「すいません、今日はこれで、また来ます」
彩乃は泣きぐずるめい花を抱え逃げ出す様に車に乗り込んだ。

「彩乃ちゃんちょっとこれ見て」
仕事を終え、帰り支度をしている彩乃の目の前に店長が携帯をかざした。
「この間のフェミニストのアカウント見付けたの。フォロワー数結構多い」
店長はあの日以来フェミニズムや風俗業界の是非について興味が沸いてしまい、空いた時間でネット上でよく検索していた。自身もアカウントを作り、情報収集をしている際に鏑木紗英のアカウントを見付けたのだった。
「今度近くの商店街でデモ活動するみたいよ。やっぱ過激派ねぇ~」
「店長、教えてくれてありがとうございます。」
彩乃はデモが行われる日に休み希望を出した。

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