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【禍話リライト】同じ人でした!

 怪談の怖いところは、全く別の話だと思っていたら、つながってしまうところではなかろうか。禍話でもネンネ式の名前で複数話語られている。
 この話は、それぞれは過去のアーカイブで聞くことのできる短い話だが、後日談を積み重ねる中で、実はつながりのある話では……との話を5/4の「同じ人でした!」で話されたので、順を追ってみてみたい。

【壁の中の地蔵】(2024年1月13日配信)

 Aさんは解体業についている。
 とある民家を解体していたときの話だそうだ。壁の一部をガンガン壊して、がれきをドンドン運び出していると、壁の奥にさらに壁があったという。
 家の中に、壁に囲まれた半畳くらいのスペースがあったのだそうだ。おそるおそる内壁を壊すと、狭く埃っぽい部屋には50センチくらいの地蔵が立っていた。四方は壁なので扉はない。
 切れ長の目、薄い唇、古びた赤い前掛け。よく見る地蔵のたたずまいだ。
 しかし、解体の途中で出てきてしまったので取扱いに困っていたという。そもそも寺社仏閣や祠の解体作業を想定してきてはいないのだ。なので、現場主任のBさんを呼んで相談をする。
「B親方、内壁の中からお地蔵さんが」
「分かった。俺が何とかするから、地蔵には触らずに他の作業を続けて」
「じゃあ、他から手掛けます」
 しばらくすると、親方が帰ってきた。現場の様子を見に来たのだろう。すると「問題ない」とのみ告げて、現場を後にしたのだという。
 夕方になって、作業が終わりになった。
「一応、今日の分は何とかなったな」
「でも、お地蔵さん怖かったすよね」
 後輩のつぶやきにAさんが返す。
「花でも備えるべきなのかね」
「ちょっと見てきますわ」
 後輩が見に行ったかと思ったら、駆け足で戻ってきた。
「お地蔵さん、ないんですけど!」
「はぁ? 何言ってんだお前」
 確認すると本当に見あたらない。解体作業中に部外者は入っていないので状況は相当恐ろしい。
「地蔵がなくなっている? え~!」
 不気味とはいえ、備品は備品だ。一瞬Aさんに『損害賠償』の文字が脳裏をよぎる。ちょうど通りかかった親方に、「地蔵がなくなった!」と報告すると、小さい声でこう告げた。
「俺が持って帰っちゃったからさ」
 そのまま説明もせずに倉庫へ向かったので、後輩と二人して付いていく。するとそこには、きれいなタオルで拭いて、お水を備えた地蔵が置いてあった。
「あの、親方? うちには置いておけないですよ」
「いや……今だけだからさぁ」
 その雰囲気が、『敬わなければ』という雰囲気ではなく、子犬などをかくまった子供が見つかってしまった姿に重なったのだという。
 Aさんは、怖いなと思ったものの、依頼主と交渉し、倉庫から運び出して敷地内へと戻して何とか事なきを得たのだそうだ。
 結局何のためだったか分からないが、しばらくして親方の様子は元に戻った。

【水道少年】(2024年2月10日配信)

 上記のBさんが、ホームセンターのトイレに行った時の話。
 その時、かなり尿意が切羽詰まって駆け込んだので、トイレに他に人がいたのかは気が付かなかったのだが、人心地つくと、手洗い場に小学生くらいの男の子が立っていることに気が付いた。位置的には、小便器に向かって用を足しているBさんに背を向ける形だ。
 その男の子は背が低くて、ちょうど鏡に顔が映らない高さだったので顔は見えない。男の子は、水道の水を勢いよく出したり停めたりを何度も繰り返して遊んでいるようだった。このトイレの水道は、感応式ではなく自身の手で開け閉めできるものだったという。
『もったいないな』と思ったBさんは極力優しく、
「お水がもったいないから、とめたら」と声をかけた。
 するとその子は、水を止めて黙ったままトイレの外へ出て行ってしまったのだという。
『傷つけたかな』
 少し不安になって、自身も手を洗っていると、子どもが洗っていた蛇口の水が、勢いよく出だしたという。Bさんは慌ててその蛇口を止めてトイレを出たという。しかし、背後からは止めたはずの水音が聞こえ続けている。そのまま無視して、待っていた仕事仲間の元へと向かったのだそうだ。
 その後、何故かAさん、Bさんの会社の男子トイレの手洗いで水を出しっぱなしにする現象が頻発するようになった。水道代も馬鹿にならない。
 Bさんが事務所に連れ帰ったものは何だったのか。

【地蔵を捨て方】(2024年4月21日配信)

 上記の水の不具合が続いていたが、ある日を境に水は出なくなった。ただ、蛇口をひねっても水は出ないままだ。調べると、元栓が閉められているという。イタズラの質が変わってより迷惑になったそうだ。
 地蔵はというと、地蔵に所有者の名前が彫り込まれていない、あるいは作った人の名前がほられていなければ産業廃棄物として処理をしてよいのだそうだ。そして、この地蔵には何も刻まれてはいなかったのだそうだ。
 一応、石屋で地蔵は買えるし、そのようなどこにも所属しない「モノ」と認識されてしまったようだ。魂抜きのようなことをした方がよかったのかもしれないが、粛々と産廃として処理されてしまったのだという。
 イタズラの質が変わったのは、この前後だそうだから、蛇口の件も関係がないとは言えない。

【同じ人でした!】(2024年5月4日配信)

 後日になって、地蔵が出てきた民家の隣のタバコ屋の爺さんから話を聞くことができたのだという。
 民家を建てているとき、基礎工事中に誰かが地蔵を置いて行ったのだそうだ。朝来たら見知らぬ地蔵が置いてある。建物のオーナーに相談すると、「いいじゃん」とそのまま建物に組み込むことになったそうだ。当時は守りの要だなどとして、壁で囲ったのだーーと教えてくれた。

 加えて、上記にはしっかり書いてあるが、水道少年の体験者と地蔵を持ち帰ろうとした親方は同一人物だとの追加情報がかぁなっきさんのもとに寄せられた。
 並べて話を見ると、水道少年の話と地蔵の話は無関係とは思えない。地蔵と子どもとの関係は言うに及ばず(地蔵菩薩は子供を見守る仏様)、水源に置かれたり、水かけ地蔵というものもある。
 オーナーの反応もおかしい。何か心当たりがあったから建物に組み込んだのだとも考えられる。そうでなければ名前のない地蔵はその時点で廃棄されていてもおかしくはなかったはずだ。また、四方を壁にして封じ込めるような対応も解せない。
 想像の余地は大いに残されている。
                          〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第二十六夜(2024年1月13日配信)
「壁の中の地蔵」 30:45〜
禍話インフィニティ 第三十夜(2024年2月10日配信)
「水道少年」 12:00〜
禍話インフィニティ 第四十夜(2024年4月21日配信)
「地蔵を捨て方」 22:30〜
禍話インフィニティ 第四十二夜(2024年5月4日配信)
「同じ人でした!」 29:25〜

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいていま……

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