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【禍話リライト】甘味さん譚「輪ゴムの部屋」

 2024年6月末までは禍話レギュラー放送は自粛だそうだ。かぁなっきさんにおかれては、ご自身をあまり責められず、本当に心身をご自愛いただきたいと思います。そもそもこれまで毎週これだけのクオリティの新作怪談を話し続けるというのは、並の人にはできないことで、本当に無理はされずに、放送を待たせていただきたい。
 さて、まだ誰もリライトされていない禍話レギュラー・甘味さんの最近のお話があったので下記に。甘味さんって誰、という方は下記をご参考に。

【甘味さん譚「輪ゴムの部屋」】

 山の中に、施設の廃墟があったのだそうだ。
 詳細は、障りがあるので明かせない。
 あるとき、甘味さんもその建物へ行ってみた。古ぼけた廃ビルは3階建てで、最上階の真ん中の部屋は、階段を登り切った瞬間「あっ」と感じるほどのものだった。
 もちろん、見た目で何かあるわけではない。
 甘味さんも何かを見る人ではない。
 しかし、眼鏡の鼻パッドが当たる場所くらいがキューっと痛くなる。眼鏡などかけてないのに。足を進めるごとに、そこを中心に頭痛に発展してきたのだそうだ。
『これはヤバいんじゃないか』
 入口から中をのぞくと、ガランとした部屋には、最小限の什器のみで、特段何か置いてあるわけではなかった。ただ、『今晩この部屋に泊まるのは支障があるかも』と少し逡巡したのだそうだ。件の部屋からは3階にはとどまりつつも距離を取った。
 思案していると、何かが背中に当たった。
 振り返ると、廊下にビロビロに伸びた輪ゴムが落ちていた。
 つい先ほどまでは絶対になかったものだ。位置関係的に、問題の部屋から輪ゴムを飛ばして甘味さんの背中に当てた、そんな風に思えたのだという。
 急いで、その部屋に戻るものの誰もおらず、思わず、
「はぁ? どういうこと、これ」
と、口にしてしまった。再度部屋を見渡すと、隅に古ぼけた事務机があった。ほこりにまみれているだけで、机上には書類も文房具も何もない。
 近づいて、気になった一番下の大きな引き出しを開けてみた。
 内心、なぜそこを開けようと思ったのかは分からず『噓、噓』と思いつつ手は止まらない。
 視界に入ったのは、引き出しの半分ほどまで埋まったビロビロに伸びた輪ゴムの山だった。
 そのまま引き出しを閉めて、部屋を出た。出た瞬間から、さっきまで鳴りを潜めていた頭痛がひどくなってきた。
「頭痛いのはやだなぁ」
 結局、その廃墟を後にして家に帰った。名の知れた市販の頭痛薬などを服用したものの、まったく効果はなかった。余波は1週間程度も引きずったという。
 結論としては、あの廃墟は宿泊には適していないということだった。寝ていて頭が痛くなっては、楽しくとも何ともない。

 しばらくして、知り合いの廃墟仲間のBさんからその廃ビルへ行きたいと考えているという話が舞い込んだ。もちろん、甘味さんはBさんに行ったことを話してはいない。
 ただ、知っている情報は渡してあげたほうが良いと判断したので、
「荒れ放題であんまり良くないらしいよ」
と助言はした。しかし、当の友人は、
「昼間に行くからいいよ。雨さえ降らなければ」
と聞かず、結局『忠告はしたのにな』と少し苦い気分になったという。言うことは言ったので、しょうがないと自身に言い聞かせた。

 しばらくして、甘味さんはBさんに会った時に聞いた。
「廃墟どうだった?」
 すると、ひどく凹んだ様子で返事が返ってきた。
「あそこ、やばい部屋があってさ……」
「頭痛くなったの?」
 もちろん、部屋に行ったことなどおくびにも出さずに問う。
「頭? 何言ってんの? 3階の真ん中の部屋に行ったら、事務机の一番下の引き出しが開いてたんだ。何だと思ってのぞき込んだら、パンパンに輪ゴムが入っててさ」
 おかしい。
 甘味さんが見たときは、半分ほどだったはずだ。
『誰かが足してるってこと?』
 不気味な想像が脳裏をよぎる。

 そこからのBさんの話はこうだった。
 驚きはしたものの、結局、
「何でボロボロの輪ゴムがいっぱい入ってんだ」
と驚いて、出口に向かったそうだ。
 「怖いな! 帰ろう、帰ろう」と言って出てきたにもかかわらず、右手には手掴みで輪ゴムを握っていて、階段を下まで降り、車に乗ったら運転せずにそのまま口に入れてモグモグしていたのだという。
 しばらくして、正気に戻って、口の中のモノを外へ吐き出した。
 持ってきていたペットボトルの水で口をゆすいで、急いで車を走らせた。
 話を聞いて、甘味さんは、あのまま残っていたら私も輪ゴムを口に入れていたかもしれないのかーーと背筋が冷えたのだそうだ。

「衛生的にそんな輪ゴム良くないと思う」
 甘味さんは力説するが、少し話の矛先がずれている。
 誰がその輪ゴムを回収しているのかは分からないが、もしかすると正気に帰れない人が回収して足しているのかもしれないし、ゴムが伸びていたのは皆が口の中で咀嚼したからかもしれない。それを机の引き出しに集めて……。
 とにかく、廃墟で引き出し一杯に詰まった輪ゴムを見たら要注意だ。
                          〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第四十六夜(2024年6月1日配信)
46:50〜 

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
ボランティア運営で無料の「禍話wiki」も大いに参考にさせていただいています!

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