フランスの階層社会:ノーベル文学賞作家アニー・エルノー氏の作品から考える
10月6日に、フランスの作家アニー・エルノー氏がノーベル文学賞を受賞しました。
エルノー氏は、フランスでは完全に左派を貫き通している人物で、文学賞の多くは左派に所属している人が多いのも否めませんが、しかし、日本でも12月2日に全国公開されるエルノー氏原作の『あのこと』で描かれている内容は、フランスの歴史的にも興味深いものです。
『あのこと』は、エルノー氏の小説『事件』をもとに製作された映画です。
↓短編小説『事件』の日本語版はこちら
1963年、中絶が違法だった時代のフランスで、妊娠してしまったものの、赤ん坊を堕ろして学業を続けたい大学生の苦悩と葛藤。闇で行われていた危険な堕胎の実態を克明に描きだされた小説です。
フランスでは、1975年の通称「ヴェイユ法」ができるまで、人工中絶は禁止されていました。もともとは、カトリックの影響が大きい歴史の中1810年に、中絶は堕胎罪として処罰を受ける非合法行為とされましたが、その後も1920年には、中絶や避妊はもちろん、これらに関する情報提供することすら非合法とされた、タブー中のタブーな行為でした。
そのため、望まない妊娠をした当時のフランス人女性たちは、中絶するために外国に行ったり、隠れたところで、不衛生な環境という危険な状態で堕胎を行ってきたのです。まさに、その葛藤と危険な方法での堕胎で合併症に苦しむ女性の姿を描いたのが『あのこと』。歴史的記録としても興味深い内容とも言える作品となっています。
勉学を続けたい女学生。大学をでなければ仕事も見つけられない。仕事がなければ肉体労働の道しかない。だから出産でその道を絶たれることは最も避けたいこと。だから妊娠したら、女性はそれで最後。なぜなら中絶は許されないからだ…
エルノー氏の小説は、ほぼ全て自伝であり、このような心境に至る理由も過去の小説群の中で見ることができます。小説生活の後半の方は、自分の恋愛体験などをかたることも多かったエルノー氏ですが、初期の作品、例えば、『Les Armoires vides (空っぽの箪笥)』『La Place(場所)』『Une femme(ある女)』『La Honte (恥)』では、階級意識による「差」が描かれています。
その内容は、まさに↓こちらで述べたようなことに大きく重なります。ある意味、エルノー氏が当時感じていたことを、現在に生きている私が感じているという話なのです。
ということで、今回からのこのシリーズの記事では、フランスの階級意識について説明していきたいと思います。
まずはじめに日本はどう?
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