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Voy.2【これイチ】北極海航路も国際航路の仲間入り!?
【これイチ】『北極海航路の教科書』シリーズ **第2航海**
憧れの北極海航路!?
「北極海航路」って言うけど、「航路」ってそもそも何なのでしょうか?
「航路」とは、一般的には「船の通り道」を表しているわけであるが、海運の世界では、「航路」とは何かしらの条約・法律・規則等で明確に船舶の通り道であることを定義している。
身近な例で言えば、東京湾の入り口にある「浦賀水道航路」などである。同航路は、日本の「海上交通安全法」という法律で定められた航路であり、長さ50メートル以上の船舶は、通航区分や速力など、その法律で定められた航法に従って通航しなければならない。航路標識の設置や海上保安庁・海上交通安全センターによる航行監視などが行われており、その航路を管理する当局の権限が規定されている。
これは当然のことながら、恒常的に多くの船が行き交う主要な海上交通ルートにおける船舶や物資の安全を目的として「航路」が制定され、船舶交通の秩序が保たれているわけである。
昔「憧れのハワイ航路」という唄が流行りましたが、ここで言う「航路」は「サービス路線」を意味していて、ハワイ航路というものが何かしらの法律で定義されているわけではありませんので・・・
話が少し逸れましたが、北極海航路も浦賀水道航路と同じように、ロシアの法律により「航路」として定義され、ロシアの北極海航路管理局(Northern Sea Route Administration)によって航行監視が実施されている。
航路の監視権限を与える大きな権限!?
![](https://assets.st-note.com/img/1646636600013-AYhBFmHggC.png?width=800)
航路の通航に係わる法律の制定と航行を監視する権限は、どのように与えられているのでしょう?
国際連合により発効されている条約に、「海洋法に関する国際連合条約」(United Nations Convention on the Law of the Sea)というものがある。この条約は、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、公海等の海洋に関する諸問題についての規律を定めている。また、海洋に関する安定的な法的秩序の確立を目的としており、現在、日本を含む167か国とEUが本条約を締結している。(2020年7月時点、外務省の認識による)
各締結国は、この条約により定められる規則に従い国内法を整備し、自国の主権がおよぶ海域において、外国籍の船舶に適用できるルール作りができる、というわけである。
「浦賀水道航路」をはじめとする日本国内での航路を例として再び持ち出すと、日本籍の船舶にのみ適用できるルールであれば、条約に批准せずとも、自国内で自由に制定すれば良い。ここでのポイントは、外国籍の船舶における無害通航*に係わる法令を制定できるという権限である。条約締結国である日本の権利として、国内法「海上交通安全法」を制定し、同法で定義された航路を通航するすべての外国籍船に適用できるルール作りができるのだ。(海洋法に関する国際連合条約の18条・19条・21条あたりに関連する条文があるので、是非参照してください。)
*「無害通航」とは、沿岸国の平和や秩序・安全を脅かさない限りにおいては、沿岸国に無許可でも単純な通航ができることを意味する。
北極海航路は氷の水域ですけど!!
でも、北極海航路は少し事情が違ってきます。その理由は、
氷の存在である。
海洋法に関する国際連合条約の第234条には「氷に覆われた水域」という条項がある。これは、条約の第12部に規定されている、海洋環境の保護と安全の為に、特別な考慮が必要となる海域に適用される条項のひとつである。
同234条の和約を確認してみると、以下のように記述されている。
第八節 氷に覆われた水域
第二百三十四条 氷に覆われた水域 沿岸国は、自国の排他的経済水域の範囲内における氷に覆われた水域であって、特に厳しい気象条件及び年間の大部分の期間当該水域を覆う氷の存在が航行に障害又は特別の危険をもたらし、かつ、海洋環境の汚染が生態学的均衡に著しい害又は回復不可能な障害をもたらすおそれのある水域において、船舶からの海洋汚染の防止、軽減及び規制のための無差別の法令を制定し及び執行する権利を有する。この法令は、航行並びに入手可能な最良の科学的証拠に基づく海洋環境の保護及び保全に妥当な考慮を払ったものとする。
まず、適用される水域であるが、これは前半部分の「年間の大部分の期間当該水域を覆う氷の存在~」という文章の解釈による。
要素に分解すると、
厳しい気象条件であること
年間の大部分の期間にわたり、水域を覆う氷の存在があること
氷の存在が船舶の航行に障害又は危険をもたらす可能性があること
海洋汚染(油や有害物質の海中への流出など)が水域の生物や環境に与えるダメージが著しいこと
このようになり、これらをすべて満たす水域を有する場合に、同条を適用して「無差別の法令を制定し及び執行する権利を有する」わけである。
どれも明確な基準値は明記されていないが、おおよそこれらの条件をすべて満たすことができるのは、北極海と南極海くらいである。
また、「無差別の法令」とは、前述の「無害通航」以外の船舶に対しても適用することを意味しており、これには軍事行為・漁業・海洋調査などが含まれる。
つまり、北極海のような海洋環境が脆弱で、年中海氷の存在が船舶航行の障害となるような水域を有している国は、どのような船舶が、どのような目的で北極海航路を航行するにしても、もれなく適用される法令を制定することができる、ということになる。
これにより、ロシアは北極海航路を「航路」として定義し、そこを通航するすべての船舶に対してルールを課しているのだ。
北極海航路を定義しよう
では、ロシアは一体どこを「北極海航路」と定義しているのだろうか?
ロシア国内法では、下図の赤線で示されている範囲、
東端: ベーリング海峡
西端: ノヴァヤゼムリア島
の間を「北極海航路」としている。
(図では、赤色の線が描かれているが、同線上を航路としているわけではない事に注意)
![](https://assets.st-note.com/img/1646036907763-a8Qv48NHPV.png?width=800)
Shipping on the Water Area of the Northern Sea Route より
この範囲に指定された海域が、おおむね1年の大半が氷で覆われている場所とされるため、前述の海洋法234条での通り、外国籍船にも適用されるルールを制定することができる。
この海域を通り抜ける、もしくはこの海域内にある港に行き来する船舶は、ロシア国内法に従って航行することが要求される。
航行実績はまだまだ少なくても、北極海航路は立派な国際条約で認められた取り決めに基づいて設置されている「国際航路」なのである。
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参考URL集
北極海航路管理局(Northern Sea Route Administration)のHP
海洋の国際法秩序と国連海洋法条約 外務省HP
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