過去を始末する銃

ゲームをしている時間は好きではない。

集中してプレイをした後、虚無な放心感で脳がぼんやりする。

ゲーム後の、あの虚無な感覚は、自分を裏切っている様で、ある種の中毒感をもたらす。

深夜のラーメンしかり、背徳感は快楽の本質である。

何かをしようと意気込んだ直後に、気づいたらゲームを開いていることもよくある。

それは可能性を秘めて賑わっていた建物が、廃墟になっていく魅力に近い。

何か可能性を秘めていた熱い時間が、無意味の暗黒へと蒸発してしまう。

若く才能がある自分の時間を、あえて廃墟にしてしまうことに魅力を感じる。

人の時間を廃墟にするのは気が引けるけど、自分の時間はいくらでも廃墟にできる。

熱さと、同じぐらいの冷たさで、魂がぬるま湯。

無意味に対するねじれた畏敬が時間を支配する。

Enter The Gungeonというゲームを4年以上遊んでる。

人生で一番遊んでいるゲーム。

たまに思い出したかのように起動しては、何時間もプレイする。

そしてプレイするたびに、自分が大して成長していない事実を実感させられる。

一言でいうなら、”無意味と繰り返しのゲーム”

このゲームを買ったのは、学校を辞めたくて悩んでいた10代の終わり。

一年前にBreaking Badを観て人生を楽しむ覚悟を決めたけど、行動に移せなかった時期。

電気回路やプログラムの授業から帰ってきたら、映画を見て現実逃避をしていた。

現実をすぐには変えられない自分の不甲斐なさが嫌で仕方なかった。

なんで僕には"その"才能がないのに、この学校にまだいるんだろう?

友達とSkypeをしながら、ネットで見つけたくだらない動画を勧めあったりしていた。

暗くて落ち込んでいた時期から、少しずつ回復し始めていたタイミング。

そんな頃に出会ったゲームが”Enter The Gungeon”

第一印象は、とってもかわいいドット絵の、見下ろし方2Dシューティング。

僕はドット絵のゲームが好きだ。

ドット絵の世界では、全てのものが平等で、愛にあふれている感じがする。

それに、あえてドット絵で作品を作るクリエイターとは趣味があう気がする。

流行りや最先端のものよりも、ふと忘れられそうなものに惹かれる人が好きなのである。

そのドット絵の魅力で買ったんだけど、滅茶苦茶難しくて面食らった記憶がある。

自分が今まで遊んできたゲームに比べて、遥かに高い難易度設定だった。

そして、その中に織り込まれた哲学に魅せられた。

公式ページから説明文を引用する。

“「エンター・ザ・ガンジョン」は、弾幕シューティング系ダンジョン探索ゲームだ。ちょっとワケアリなキャラクターたちを操って、銃をブッ放し、お宝をゲットし、 ドッジロールやテーブル返しの技で危険を回避しながら、ガンジョンの奥を目指そう。最深部には、究極の秘宝、「過去を始末する銃」が眠る。それを手に入れ、自ら の過ちを帳消しにし、歴史を塗り変えることはできるのか…? プレイするヒーローを選んだら、だんだん手ごわくなるステージを1つずつクリアして、下階へと進んでいこう。かわいい顔して油断ならないガンデッドたちを蹴散らし、各フロアで待ち受ける強力なボスに挑め! 宝箱を開けたり、秘密の部屋を調べたり、あざとい商人たちと商談したりして、強力なアイテムを手に入れれば、戦いを有利に進めることができるだろう。”

プレイヤーは4人のキャラクターから1人を選んで操作できる。

そして、4人のキャラクターはそれぞれ消したい過去を持っている。

“過去を始末する銃”を手に入れるため、何度も何度も”ガンジョン”に潜るのである。

ここがミソ。

このゲームには、成長という概念がない。

宝箱を開けて、敵を倒して、様々な銃やアイテムを手に入れても、死んでしまえば、手に入れた武器は全てリセットされる。

銃やアイテムは何百種類もあり、その内の幾つかが、毎回ランダムでマップ上に現れる。

マップも毎回新しく構築されるため、パターンを覚えるといったこともできない。

最初の宝箱からいきなり最強の武器が出てきて、テンポよく進むこともあれば、まともな武器が何も出てこなくてあっけなく死んでしまうこともある。

このゲームに限らず、“あっけなさ”というのはゲームの持つ魅力である。

キャラクターが死んだ際、毎回ある演出が入るのだが、この演出こそが、Enter The Gungeonといゲームを象徴しているように思える。

キャラが倒れると、時計の文字盤が画面に現れる。

時計の針が逆回りして、そのプレイ時間が無かったかのようなムービーが流れるのだ。

グルグルグルグル、ッパーン!という音が流れ、手に入れた道具や死因が表示される。

ビデオゲームというのは無慈悲なものだけど、このゲームは特に残酷で孤独なのである。

ライフが増えたり、スキルが増えたり、経験値が入ったりすることもない。

プレイヤーは少しず上手くなっていくんだけど、アイテムやマップは毎回リセットされる。

せっかく頑張って銃やアイテムを集めても、それが一瞬にして無駄になる。

そこに魅力を感じる。

過去を消すために何度も何度も死に続けるという、という設定も最高にエモい。

冷たくゾクッとするようなガンジョンの入口では、4人の全く違う場所から来たキャラクター達が、乱雑に荷物を広げて、プレイヤーに選択されるのを待っている。

ガンジョンに何度も潜る彼らのことを、作中ではガンジョニアと呼ぶ。

ガンジョニア達は自分の犯した過ちを無かったことにするために、社会から離れて、呪われた地下空間に何度も何度も潜り続けるのである。

彼らの味方は誰もいないけど、アイテムを売ってくれる商人たちを地下牢から助けると、ガンジョンの入口に登場するようになる。

商人たちがプレーヤーに仲良く話しかけてくれることはない。

ただ、ガンジジョニア達からカネを取るためにそこに居るだけである。

冷たくて救いがない世界。

人生に絶望したガンジョニア達が、後悔と同じ数の弾丸を撃ち続ける。

本当に悲しい人たち。

僕がゲームをプレイして、ガンジョニア達の過去を消すことができたら、彼らは後悔から解き放たれるかもしれない。

そんな気持ちになって、何度も何度もプレイしてしまう。

これは、マイナスからゼロを目指す物語。

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