令和に響き渡った「恋ING」と進むことのない映画「あの頃。」について
大学生の頃、付き合っていた彼女に振られて、何もなくなった自分は、TSUTAYAに通うようになった。
自分の映画人生の始まりは、そういう、絶望からのスタートだった。
毎日、名作、迷作、秀作、傑作、怪作、はたまた、誰の記憶にも残ってなさそうな、もうどんな内容かも覚えていない映画まで、とにかく、旧作から新作まで、見たいと思った映画は全部見た。
社会人になると、映画を見る体力もなくなり、Twitterで目にする、かっこいい大人からも、遠くなっていた。
そもそも、大人を目指していたわけでもなく、とにかく、まだ一生懸命に子どもになりたがっていた。
そんなとき、会社の上司が、誘ってきた、大人への入り口。
毎週のように、稼いだお金を、ショーパブの推しに貢いでいた。
お金も時間もないけれど、その瞬間は楽しくて、当たり前に光るネオン街には、色んなものが転がっていることに気づきながら、吸うタバコの煙は空へ目指していた。
なんてバカなんだろ、そんなことを話しながら、銭湯の中で、大学生の頃からのツレと話す日々。
守るべきものなんて、なかったし、いらなかった。
いきなり我が家に、転がり込んできた、昔、告白して振られたあの子は、背中にデカいタトゥーを入れて、僕におにぎりを握って、持たせてくれた。
黙々と、麻雀牌を触りながら、突然ゲラゲラと笑い出したり、いきなり夜景を見に行ったり、寝坊したときも、上司は案外やさしかった。大人なんて、こういうものなのか、いつから大人になったのか、大人になる定義を学校では教えてくれなかった。
1人で生きていくには、十分なお金と、無さそうで、ある有意義な時間は、大きなことをできなくても、小さなことなら、なんでもできてしまうことに気づく。
でも、そんな日々はずっと続かなかったりする。
松坂桃李、主演。
映画「あの頃。」
見に行ってきました。
長すぎるプロローグだけど、実際に自分が過ごしてきた、あの頃をさらっと書くとあんな感じ。
この映画の冒頭は、そんな、人生の絶望的な瞬間に出会った松浦亜弥、そして仲間たちとの、甘くて苦い、つまらなくて楽しすぎる日々を切り取った作品だ。
で、今作の魅力を語ること簡単で、例えば、劇中で流される、モーニング娘。の最強のB面ソング「恋ING」であったり、松坂桃李の素晴らしい演技であったり、そして、それを凌駕した、仲野太賀の魅力、松浦亜弥という、伝説的アイドルを演じることになった、令和ハロプロを背負うであろう、山﨑夢羽など、魅力的なキャスト。特に画角は、00年代の大阪の雑さ、がよく表現されていて、なんか、こういう汚らしさ、生まれも育ちも、まさに舞台と同じ大阪で育った自分にとって、この古臭さが懐かしくて、好きだ。
で、じゃあこの映画、なにが良かったというと、やはり、あの頃。そして、今を生きるということの大切さ。
劇中では、松坂桃李が繰り返し、今が1番楽しいというセリフを残す。
そう、今が1番楽しいのだ。
彼らは学生を卒業して、まさに中学10年生という、遅れてきた青春を謳歌する。
職もなければ、金もない、あるのは時間と推しへの愛だけ、それでも、生きてこれた、生きてられる時間がある。
自分にもあった、あの頃。という時代。
この映画のタイトル「あの頃。」にある句読点の「。」がいい味を出している。
別に、「あの頃」でも良いのだけれど、この句読点があることによって、くっきりとあの輝いてた日々を続くものではなく、思い出という記憶にすることを意味してると表現できる。
大人になるということは、記憶を思い出にする作業の繰り返しだと思っていて、思い出の数だけ、人は少しずつ成長していく。
ずっと、このままでいいのに、と思いながらも、区切りをつける。心にその思いを収める、そして、いつか、また少し先の未来にその思いが浮き出てくる。
きっと、そんなことの繰り返しが大人なんだと思う。
仲の良かった友達は、夢を叶えて、僕が住む街から出て行った。しょっちゅう集まる5人組も、いつのまにか、3人組になった。タトゥーだらけの彼女は、狭い1Kの部屋から抜け出して、東京へ行った。大好きだった、推しのショーガールは、僕の連絡先からも消えた。そして、その子と出会わしてくれた先輩は転勤以降、1度も会っていない。
あんなに、楽しかった日々は、もう終わったのだ。
あの頃、日々は劇的で消極的で、そんなとき、この映画の冒頭と同じように、僕は、モーニング娘。に出会った。
何故か、PVを見ながら、涙が止まらない。
おかしな話なんだけど、あのときはそれが正解だった。
少しずつ、思い出が増えていくたびに、出会いも増えていく。
この映画を見終わった後、百貨店で、もうすぐ誕生日の彼女へのプレゼントを選んでいた。
推しへ、プレゼントを買いに行くとき、先輩と2時間ぐらい悩んだことをふと思い出す。
「なんか、カードで買うの嫌なんですよ」
「なんで」
「この代金の請求来たときに、あの子との関係終わってたら嫌じゃないですか」
僕は彼女へのプレゼントを10分足らずで即決して購入して、足早に、店を去った。
淡白な気もする。とはいえ、2時間悩んで買ったプレゼントのカード請求代が来る頃には、僕の前に推しはいなくなっていた。
そのとき、決めたのだ。
愛する人への、誕生日プレゼントは現金で買うと。
とまぁ、そんな決意はすっかり忘れて、案の定一括払いしている自分がいた。
きっと、このプレゼントの請求代が来る頃も、彼女はまだ、隣にいる。
そんな疑いもない、そんな人と出会ったから。
いつのまにか、守らなきゃいけない人も、自分のそばにできた。
あの日みたいな、あの頃。にはもう戻れない。
卒業という、区切りがなくなった大人と、卒業を繰り返すアイドルたち。
彼女たちが魅せてくれる、日々は輝いていて、そして、いつかお別れが訪れる。
それを見届けれることが幸せと思いながら、この日々を生きていくしかない。
今を生きていれば、いつか幸せには辿り着ける。
あの歌のイントロが、聞こえてきた。
片思いも出来なくて
人生つまんないって時期もあった
今 実際 恋愛中
久しぶりに夢中
いつまでも 二人でならば
人生楽しんで 行けそうだね
まだ 実際 ぎこちなく
よそよそしいけれど
モーニング娘。 「恋ING」
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