連載小説「メイドちゃん9さい!おとこのこ!」最終話「毎朝」おひさまとMoonlight!
伝統と文化の街、倫敦。
この物語は、倫敦のちいさなお屋敷を舞台にお届けしてきた。
9歳のちいさなメイドちゃんと、お年を召した奥様の、1年間の日常です。
ぱちり。
倫敦の象徴はビッグベン。
お屋敷は時計塔のお膝元。
タイム・イズ・マネーは紳士の証。
メイドちゃんは優秀なメイドなので、体内時計が極めて正確です。
本日もAM6時ピッタリに起床。鳴る前に目覚ましを止めてしまいます。
「朝ごはんっ」
起き上がったら第一声。腹時計とて体内時計、いったい何に劣りましょうや。
階段下の使用人部屋を出て。
顔を洗って冷たくて驚き。
歯を磨いている間に頭が温まり。
使用人部屋に戻りゆき、小さいクローゼットを開けて。
クラシカルなメイド服を取り出します。
パジャマをベッドに放り出し、ワンピース、エプロンをまとい。
ヘッドドレスを着けたら完成。
台所へ移動します。
お屋敷中が、まだひんやり。
「おはよう、わんわんちゃん」
大きなむく犬わんわんちゃんは、薄目を開けてもまた眠り。
メイドちゃんは老犬を迂回。
耐熱トレイを取り出します。
ついで冷蔵庫をあけて。
ソーセージ、卵を取り出します。
ベイクドビーンズの缶詰も出したら。
トレイに四分の一あけて。
トレイのへこみに卵を割り入れ。
ソーセージには穴を空け。別のへこみに2本入れ。
食パンを薄くスライス。2枚。
オーブンレンジに全部を入れて。
スイッチオン。
ベイクドビーンズの残りは空き瓶、蓋を閉めたら冷蔵庫。
「去年までいらなかったのにねえ」
もう、ベイクドビーンズがないと足りません。
「あっ」
窓からの視線に気づきます。
相変わらずのにゃんにゃんちゃんです。
巨体に向かってあっかんべ。にゃんにゃんちゃんは大あくび。
のそりと立ち去る宿敵です。まったくまったくふてぶてしい。
気を取り直して。
冷蔵庫からマーマレードと牛乳を出し。
テーブルにセットし、耳を澄ませば。
オーブンレンジが鳴りました。
ふつふつと香り高いベイクドビーンズ。
柔らかそうなソーセージ。
焦げ目のついた目玉焼き。
まったく見事なカリカリトースト。
またもおなかがぐうと鳴ります。
せっかち男は嫌われる。
ここで余裕を見せるが紳士。
英国紳士のメイドちゃんは、牛乳をマグカップに注ぎ。
ココアを投入、レンジをオン。
やっと朝食を食べ始めます。
マーマレードのオレンジが、小さなお日様みたいです。
チンと鳴りたる、電子レンジ。
熱いココアのできあがり。
3月の朝にピッタリの、完全無欠の朝食です。
できてしまえばパクパクもぐもぐ。
育ち盛りのメイドちゃん。お皿はすぐに空っぽに。
ふくれたおなかをさすります。
「そろそろかなあ?」
わんわんちゃんに聞いてみます。
素知らぬそぶりでまた寝ます。
「ねぼすけ-」
罵倒は無視され、待ち焦がれ。
とうとうベルが鳴りました。
チリリーンと響く清い音。
奥様がご起床されました。
メイドちゃんはトレイをシンクに。
再度牛乳を取り出します。
真っ白なカフェオレボウルに注ぎ。
レンジに入れて、1分半。
熱いミルクにコーヒーを。スプーン2杯ときっちりはかり。
弧を描くように溶かし入れ。
できたカフェオレおぼんに乗せて。
しずしず階段を上ります。
重厚なドアをコンコンノック。
チリリーンとまたベルの音。
「奥様、おはようございます」
80歳の奥様は、ベッドの中でしどけなく。
タブレットから手を離し。世界の新聞チェックをとめて。
おでこにキスしてくださいました。
「おはよう。ユーリ、今朝もいい子ね」
にっこり微笑む気高さよ。
朝食のカフェオレをすすられます。
白くなった赤毛がこぼれていて、メイドちゃんは昨今ドキドキします。
ふと、奥様が見つけます。
「袖のボタンはどうしたの?」
メイドちゃん、あれれ、と気づきます。
袖のボタンがありません。知らぬ間に消えています。くるくる回って探します。無くしてしまったのでしょうか。引っかかってはいませんか。
オロオロ回るメイドちゃん。回っても落ちてきてくれません。
たいへんたいへん。
せっかくいただいたお仕着せですのに。
面目次第もございません。
頭(こうべ)を垂れるメイドちゃん。
されど奥様はお喜び。
「また大きくなったのね」
メイドちゃん、すぐさま得意になります。
「そうです。僕は大きくなりました。もうすぐ大人になるのです。大人になったらなんでもできます。奥様の望みだって、みんな叶えて差し上げます」
鼻高々のメイドちゃん。奥様はカフェオレを飲み干して。
「待ってるわ。そうね……、とりあえず今は、紅茶を淹れてきてちょうだい」
「はい!」
ブレックファスト・ティーのお時間です
毎朝続く、団らんです。
イースターのお話をしなくっちゃ。
お仕事 お仕事 メイドちゃんはお仕事
メイドちゃんはおっきくなるから 無限大
END
2021/08/29 加筆2021/12/01
これにて物語は幕となります。
コロナの流行によって人心荒んでゆく世界。
ちょっと一息ついていただきたくて、ちいさなメイドちゃんを書きました。
連載中は母の死去などいろいろありましたが(10話から11話は、意識のない母の隣で執筆しました)、無事に幕を下ろせます。
最後までご覧くださり、まことにありがとうございました。
またのご来訪をお待ちしております!
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