ひとつになる 森のスープ屋の夜
鳥取県大山
その山のふもとに、一軒の宿があります。
「森のスープ屋」さん
宿、というからには、泊まることが出来ます。
そこに泊まる時間のことを「森のスープ屋の夜」と呼んでいます。
10月上旬。
岡山から2時間ほど車を走らせ、大山(だいせん)まで行ってきました。
森のスープ屋の夜 という、なんとも不思議な時間を味わうために。
名前の通り、森の中に、大・中・小の小屋が建てられています。
大きな小屋は、大きなキッチンとダイニングテーブルのお食事の小屋。
中くらいの小屋は、森を訪れた私たちが一夜を過ごす宿泊棟。
小さな小屋は、ここを彩る作家さんたちの作品が置かれた販売スペース。
森の中に、ぽつんぽつんと小屋があり、
ところどころにハンモックと天然のハンモック(大きな蜘蛛の巣)がかかっています。
そして、あちこちに置かれた、木のテーブルとイスたち。
お気に入りの場所を見つけて、時間を過ごすことが出来るようになっています。
お宿に着くと、マスターとかずぅさんが迎えてくれました。
お宿を紹介した冊子が宿泊棟に置いてあったのですが、
「地球人のマスターと宇宙人のかずぅさんの森」という表現がされています。
…お二人はどんな方たちなんだろう。
俄然、興味がわいてきます。
簡単にお宿の説明があると、最初にお風呂に入ります。
このお風呂、森を彩る木々の中に「黒文字」という木があるのですが、
その黒文字を昨晩から煮だして湧かしたお湯でした。
このクロモジが、私たちが過ごす一日にずっと寄り添ってくれています。
香り、虫よけ、お茶、お風呂、お酒…なんと、歯磨き粉まで!
お茶席でお菓子を頂くときにクロモジという楊枝を使いますが、
私たちの文化にしっとりと根付いているものの一つです。
すっきりとした香りで、お風呂ならいつまでもぽかぽか、
お茶もスッキリ系だけど、刺激はなく、ゆっくりとほぐしてくれます。
最初にお風呂に入ったから、
ずーっと自分がクロモジの香りに包まれています。
お風呂から上がって、一息ついて、お待ちかねのディナーです。
森のスープ屋さんですから、当然、ご飯はスープがメインです。
食前酒、前菜、パン、スープ、デザートとコース料理。
そして、一番のごちそうは、森と一体となるような空間。
目の前、一面が広い窓ガラスで、段々と闇に包まれていく森を見ています。
食事をしている建物の中は、とっぷり暗くしてあり、
何本かのアルコールランプに照らされている程度なので、
より森の不思議な世界へと誘われている感じになっていきます。
大山という豊かな環境で育った
お野菜やミルクを使ったチーズ、木の実などをふんだんに使ったお料理に舌鼓。
柔らかく、沁みわたる優しいスープ。
マスターとかずぅさんと、テンポのゆったりとしたおしゃべり。
大山という土地
そこに住むことになった経緯
森の中で何を感じながら暮らしているか…などなど
食事をする小屋の屋根裏(まっすぐ立てない!)にお二人は住まわれていて、
マスターは数年前まで、そこでネクタイを締め、鬼太郎空港から東京へ飛び、
家を出た2時間半後には山手線に乗って営業をされていたという経歴!
営業とか無縁そうな雰囲気をお持ちの方で、
当時の知り合いには気が付かれないくらい人相が変わったそう。
そして、マスターは、気づかれないことが居心地がいいらしい。
…面白い。
かずぅさんは、森の中で生きている人。
私が陰陽五行や易を学んで知った世界を、
ただただ、素直に体験し、体感し、体現している。
私がお話をしたら、
「お客様の中に、こうやって言葉にして表現してくださる方が時々来てくださるんです。
私に伝えに来てくださったんですね。」とおっしゃってくださいました。
「私」の世界が、「誰か」の世界と溶け合ったような瞬間でした。
気づけば、食事の時間を大幅に過ぎていて、
泊まる小屋へと戻ります。
(真っ暗な森の中で、足を滑らせて、土の上につぶれたのは私です)
小屋には薪ストーブがあり、
そこまで冷え込んではなかったのですが、
お湯を沸かしたくてチャレンジ…するもののうまくつかず。
うまくいかないことも、なんだかおもしろい。
ポットのお湯で、夜のハーブティーを淹れ、その夜は森に抱かれて眠りました。
朝が来ました。
曇っていたので、日差しで目覚め!とはいきませんでしたが、
鳥の鳴き声と遠くから聴こえる水のせせらぎ、
さらに遠くから、猟をしているのか銃声らしき音が聞こえてきました。
着替えもせず、
薪ストーブチャレンジ(今度はちゃんとついた!)をし、
朝のハーブティーを淹れ、森に出ます。
朝ごはんまで、ゆっくりと体と意識を目覚めさせていく。
少しすると、朝ご飯の時間となりました。
昨晩、ディナーを食べた場所と同じリラックスした空間なのに、
目の前に広がる森の様子は、全く違う。
陽の光が見せてくれる世界の多様さに感動します。
朝のスープは、大きな木の器で出てきました。
切り株をくりぬいた器は、リスかくまにでもなったかのような、
絵本の世界に飛び込んだような愉快な気持ちにさせてくれます。
温かいものが身体の中も外もじんわり伝わり、
極上の朝ごはんをいただきました。
さぁ。
早いもので、この森を去る時間です。
予約をして、泊まりに行ったんだけれど、
マスターとかずぅさんの森に、お邪魔させてもらった、
という方がしっくりくる時間でした。
私たちは、
いつだって迎え入れてくれる自然のあたたかさがあり、
いつだって行くことができる。
自然に抱かれ続けていて、また、その一部であることを教えてくれる。
その一つの場所が、「森のスープ屋」さんなんだなと思います。
一日一組。二人まで。
私と森の二人っきりも、
大事な人と二人っきりも。
きっと、あなたの中に、あったかくて大事なものをひとつ、
コトンと届けてくれると思います。
カラフルな昼間の森から
モノクロの闇の森へ
静かでいて、賑やかしい
不思議な時間を
あなたにも過ごしてほしいなと思います。
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