はらへったら読む・茹で落花生
noteを始める前の昨年秋、季節が違う落花生の話。
早くこいこい落花生の季節!
でかい落花生、なんじゃこれ!思わず笑った。
厚木市の夢未市<ゆめみいち>という農産物販売所で今まで見たこともない大きな落花生を販売しているのを目にしたのだ。加工品ではなく、殻付きの生落花生ということもあり、茹で落花生ファンとしては買ってみるしか選択肢はなかった。
商品ラベルには湘南野菜、名称「落花生」、原産地「神奈川県」、税込み420円としか書いてない。お米だと、あきたこまち、ひとめぼれ、コシヒカリ・・・と品種があるのに、これだけの大きな落花生だったら、何かしらのネーミングをして、大々的に〇×△□落花生とロゴでも貼り付けておけばいいのにと余計な心配をしてあげた。
ジャンボ落花生とか、デカイ落花生とか、メガ落花生、ギガ落花生・・・、ネーミングセンスなし。
そう、この落花生の大きさは一般的な落花生の「倍」の大きさなのだ。
レジで代金を支払って、そのネットに入った大きな落花生、大事に子猫を抱くようにして家に持って帰った。
早速、インターネット検索で勉強させてもらったところ、「おおまさり」という品種にたどり着いた。これはガセネタでも、デマ情報でも、フェイクニュースでもなく、間違いはないだろう。家族に教えてあげたくなったが、最初から興味を示していないのでやめておいた。多分、大きな落花生に興味がある人は私の周り半径500m内にはひとりもいないことだろう。
そして、私の脳ミソの抽斗<ひきだし>にそっと「おおまさり」という単語を入れておいた。
この子猫を抱いてからは、ビールを飲みながら大きな茹で落花生をつまむ幸福そうな自分の姿が頭から離れない。
早速、エプロンを首に引っ掛け、背中はいつものようにボタンで留めずにキッチンへ飛び込んだ。
大きな落花生は目立った土汚れはなかったが、ザルにあけてから適当に水洗いする。
大き目の鍋に水を半分ほど張り、大さじで三回塩を投入してから、ザルの中の大きな落花生をすべて滑り落とした。
蓋をしてから海水浴で体験するほどのしょっぱさになるように、“藤岡弘”流に鍋に向かって念じた。
レンジフードの弱スイッチを左手で押し込み、同時に右手でガスを点火させて沸騰まではガスコンロにバトンタッチだ。
鍋が沸騰するまで透明蓋の上から大きな落花生をじーっと見ていてもかまわないが、私は藤岡弘ではないので一旦キッチンから離れた。
鍋蓋がカタカタ鳴り出したので鍋蓋を外して塩加減を確認したところ、大きな落花生の殻からそれが浸透し、中までインパクトを与えるほどの働きを感じなかったので、塩を大さじ1ぐらいドボンと追加する。
そして、蓋を外したまま火力を落として、「OKグーグル、アラーム30分」とGoogle Home Miniに命じて再びキッチンから離れる。
飼い猫は好みの場所で昼寝しているらしく、見当たらないので猫をいじるのはあきらめ、見たい番組もないのにテレビをつけた。
テレビは見ないで、パソコンを開いてネットニュースを見て時間を潰した。
グーグルの奇妙なアラームが鳴ったので、火だけ止めて菜箸で鍋の中をかき混ぜ、「OKグーグル、アラーム15分」と命じてから、塩が効くようにするため寝かせた。
15分後に、また奇妙なアラームが鳴ったので、シンクに大き目のザルを置いて、ミトンを使って鍋の中の大きな落花生をすべてザルに返した。
大きな落花生からは勢いよく湯気が立ち上り、いっときはセイロで蒸し上がったもち米のような華やかさの演出があった。
ザルに返した湯気の中からは、殻と土が混じりあった田舎の懐かしい臭いがたまらない。
あの頃、母が茹でたばかりの落花生を夕方近く卓袱台にドンと置いたら、兄弟と一緒になってリスのように次から次へと食べていたことを思い出す。また、和え物や煮物、味噌汁まで落花生は入れられていたので、なくてはならない身近な食材だった。
熱々の大きな落花生を、ひとつ手に取り重さを確認。
これは、間違いなくギュウギュウに実が入っている。
自分自身インディージョーンズが小さな財宝を手に取った時の、ニヤニヤしている顔になっていることに気がついた。
パチンと割って殻いっぱいに詰まったドングリのような大きな実に満足し、口に運んで咀嚼に入った。
柔らかい栗のような食感、実は甘く塩味が効いて申し分ない。塩味は実のうまみを存分に発揮させるための必須調味料。パン作りに例えるとイーストに相当するほどの役割を果たしているかもしれない。
このニヤニヤしたインディージョーンズは固い茹で落花生を好むため、もう少し茹で時間を短くしたほうがよかったのかもしれないが、この品種の実は柔らかい傾向のようだ。
仮に、“酒の肴ランキング”があるなら、地域によって差はあると思うが間違いなくベスト10には入るはずである。
夕方六時、我が家のビアホール開店時刻。
それまでは、この小さな財宝が入ったザルを誰にも盗まれないところに隠しておかなければならない。
ところでこの大きな落花生の品種、名前なんだったっけ?
頭の中の抽斗が開かなかった。
注)ヘッダーの写真は「おおまさり」ではなくイメージです
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