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スタートアップ企業・IPO準備におけるバックオフィスの挫折と後悔

私が常勤監査役を務める会社が監査等委員設置会社に組織変更したことに伴い、常勤監査役を退任し、業務委託という契約形態で引き続き事業に関わることになりました。

監査役になる前は管理部員の一従業員だったので、雇用契約に戻るという選択肢もありました。また、組織変更後は管理部管掌の取締役としてオファーを受けていたので、会社の中の人として居続けることもできましたが、最終的にお断りしました。

常勤監査役を務めた半年間は社内の諸事情により多忙となり、また監査役として勉強することも多く、管理部員時代の業務量過多から蓄積していた疲労も相まって、徐々に体調が思わしくなくなっていきました。疲労で湯船にゆっくり漬かるようなお風呂の入り方ができなくなり、毎日習慣として行っていた半身浴が続けられなくなりました。化粧を落としてシャワーを浴びるのが精一杯。夜眠くても段々眠れなくなりました。

私の取締役就任を含めた組織体制方針を決める会議が開催される日の朝、嘔吐と下痢を繰り返しました。これは身体からのシグナルだと思いました。ここで一旦立ち止まれ、と。独身中年女性が体を壊して働けなくなると人生詰みます。私は働き方を含めた生活の送り方を今一度ゼロから考え直すことに決めました。

モリモリ働きつつ出来る人は出来る人、自分は自分、という境界線を引くことを意識して、私に合ったこれからの働き方を模索するため、今年は自分のスタートアップ企業での経験を棚卸ししながら過ごしていくことにしました。そのためにも、管理部門時代の反省すべき点はしていきたいと思います。


可能な限り外部のリソースを使えばよかった

IPOを成し遂げるには、数年で様々な準備を行わなければいけません。管理部門がまだ形になっていない会社なら、IPO担当者にとってその準備業務はさらにタフなものになるでしょう。私自身、現預金出納をノートに書いていたような状態の業務管理の会社に入社し、そこから以下のように社内管理体制を整えていったので、証券会社の審査に入る前でもすでに長い道のりに感じていました。

・各種会計系ソフトの導入(クラウド会計は監査法人に難色を示された)
・税込経理→税抜経理への5期分決算やり直し(諸事情によりデータ手打ち)
・経理内製化と決算・財務報告に係る内部統制の整備
・月次決算の早期化(毎月下旬税理士報告→月初5営業日→月初3営業日)
・中期経営計画の計数計画策定手法の確立(それまではコンサルに依頼していた)
・予実管理ができる体制づくり
・コピペ就業規則の改訂と諸規程の整備
・株主総会、取締役会対応の手順整備
・監査法人対応、etc...

今思えば、という反省点は多々ありますが、一番の反省は、証券会社の審査に入るまでは外部のリソースを目いっぱい使い、管理部員の力は極力温存すべきだったのではないか、ということです。

何にもない状態から、ある程度まともな管理部門を形作るのは大変ですが、性格的に向いていれば楽しくやりがいがあり、一心不乱に働きました。しかし、体力的・精神的には消耗していきます。しかも、IPO準備の業務負荷は証券会社の審査からが本番。その前に管理部門が疲弊していては乗り切れなくなってしまいますが、私は目の前の課題に対応することに精一杯で、IPO準備後半の大変さが見えていませんでした。

また、この間に新規事業の(フランクな)立ち上げ、事業の買収・売却、一般社団法人の設立・解散などがあり、それをバックオフィス人員を増やさずに対応したので、ハードワークが高まっていきました。特に既存事業とまったく違う業務フローを整備しないといけない事業が増えたので、バックオフィスの業務が倍増しました。


実務(虫の目)とマネジメント(鳥の目)は分ければよかった

管理部門全般においての実務的な経験があることで、幅広い業務範囲が見えてしまい、予算があまりバックオフィスに割り振れないというスタートアップにありがちな要因もあって、あれもこれも自分でしてしまいがちになりました。

例えば、法人登記の書類作成をほぼ自分でやり、司法書士にはチェックと登記書類の提出をお願いしていました。ここまでこちらでイニシアティブをとると、報酬はかなり安くなります。

管理部門全般の実務が網羅的に分かっていたので、経理をやりながらも、総務、財務、労務のミス・モレがどうしても目に入ってしまい、それに対応してしまっていました。管理部門全体、ひいては会社全体の業務効率を考え、転ばぬ先の杖的に先手を打って動くようにしていました。

実務とマネジメントを同時に行っていたわけですが、私のマンパワーで対応するにはその範囲が広すぎました。バックオフィスの業務量がそれなりにあり、かつ管理部門全般に口出しできるという状況はそれまで経験がなかったので、調子に乗って一度にあれこれやってしまいました。無理にでも実務は(外部を含めて)誰かに任せてマネジメントに専念すべきでした。

前述のように管理部門全体に渡る動きをしていたので、自ずと上司や各担当者から頼られました。頼りにしてもらえるのは嬉しくやりがいを感じましたが、結局それが業務過多に拍車をかけました。監査役という立場になってからでも、誰かが管理部員に業務について質問すると「それは〇〇さん(私)にそう言われたから」が決まり文句になってしまっていました。

雇用契約ではなく業務委託契約にしたのは、社内の人たちに精神的に一線を引いてもらって依存状況を解消したかったからでもあります。また、無理やりこの一線を引かないと、何にでも手を出してしまう私自身も変われないような気がしました。


最後に

総じて反省は「自分でやらなければよかった」になります。当時の上司も同じ問題を感じていたので、私が強く言っていれば状況は変えられたと思いますが、後悔先に立たずです。

IPO準備~上場後も、上場企業にふさわしい管理部門体制の構築と維持には、それ以外の企業に比べて少なくとも毎年数千万円余分にかかります。IPO準備企業は、管理部門体制構築に予算を割き、適切な人員配置をする覚悟を持っていただくよう切に願います。

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