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あんときのフィルムカメラ 吉田類『酒場詩人の流儀』中公新書 + ライカR4+Summicron R 50mm f2.0

酒徒の遊行

 もともと酒との出会いは、高知県の郷里・仁淀川町の神祭で奉納する御神酒だった。その神祭の御神酒を飲んだイガ栗頭の腕白が、悪酔いして小学校を無断欠席したことがある。同じ集落の大人が面白半分に勧めたという。これには都会から赴任してきたばかりの女先生も苦笑するほかなかった。
(出典)吉田類「酒徒の遊行」、吉田類『酒場詩人の流儀』中公新書、2014年、5-6頁。

生酒酌む切子グラスに架かる虹=吉田類『酒場詩人の流儀』中公新書。山歩きと放浪、酒場での酒徒の遊幸、そしてその情景を伝える俳句。「純米酒の入ったグラスの向こうには、澄んだ青の天界が広がっていた」ーー。ページを捲る度に旅に出、酒を飲みたくなる、庶民の豊かさ讃える「恐ろしい本」。

先日、「酒場詩人」吉田類(1949年-)さんの紀行エッセイ『酒場詩人』(中公新書、2014年)を読み終えました。吉田さんの活躍についてはテレビで少々触れていたのですが、著書に親しむのは初めてのことでしたが、流れるように軽やかな文章でありながら、どこをどう切り取っても「吉田類」印に満ち溢れた文章、そして情景を浮かび上がらせる俳句には度肝を抜かれました。

ほんとに、読書という経験、あるいは文化というものは、事象を追体験することのできる画期的なものではないかと確信を深める機会となりました。

 旅に出ても、人はおのずと原風景への回帰を図っている節がある。さて、次は雪見酒だ。
 酒精火となりて遊行の枯野かな
(出典)吉田類、前掲書、6頁。

旅人の視線


 瀬戸内海を機上の窓から眺めると、あらためて島数の多さに驚かされる。外周が一〇〇メートル以上の小島も含めて七〇〇島を超える。空気の澄んだ日なら、ざっと一〇〇個の島影を眼下の視野に数えることが可能だった。しかし、この島が織りなす絶景は、なんといっても水平の目線で捉える情景にあるだろう。
(出典)吉田類「島影の彼方へ」、前掲書、133頁。


 職場へは、瀬戸内海沿いの道並みをロードバイクを駆って通勤しています。趣味が写真ですから、時々は、立ち止まり、その情景をスケッチしています。

 哲学という学問と長いあいだかかわってきましたので、実はこの「立ち止まる」という契機が人間にとっては重要で、そのひとときを大切にしています。要は、物事を根本的に考えていくためには、立ち止まって「見落としていたもの」を改めて検討することから始めるほかないからです。

 立ち止まってシャッターを切るというちょっとした手続きのひとつひとつがそうした営みへと昇華するのは、ちょっとした素敵な時間ではないかと僕は考えています。

しかし、本書『酒場詩人の流儀』を読み直すと、あらためて自分の考えが

「まだまだ、甘かった」

ことを思い知らされるものです。

要は、瀬戸内海に親しみながら、その島数にすら思いが及んでいなかったということです。

ときには旅人として身近な物事に接しながら、浅はかな考えを深めていく他ないですね。

缶ビールの栓を開ければ、車窓の風景が流れ始める。やがて視界が広がっていき、遠景は山々を配するようになる。じっと眺めていると、山腹のところどころが紅葉色をまとっていることに気付く。そして、もう一歩言うの車窓ガラスには、旅人の顔をした自分が映っているかも知れない。
(出典)吉田類「旅人の視点」、前掲書、92頁。

身近なものごとに寄ってみる愉しみ

身近な物事に会えて注目することから哲学的思考は始まるのですが、そういう経験をしている「つもり」でまだまだなんだなあと思い知らされることになった読書経験であり、撮影経験となりましたが、そんなことを考えさせられる機会に随伴したのは、R型ライカのR4と Summicron R 50mm f2.0の組み合わせでした。

ライカを手にしたことで、僕の「カメラ道」ははじまったようもので、M型ライカほかバルナックライカなどほぼほぼ手にとってきました。しかしなかなか巡り合うことのできなかったのがR型ライカです。

ライカファンには、敬遠されがちなのがライカの一眼レフであるR型シリーズです。しかし、僕は丸みを帯びたあのデザインが好きでして、巡り合わせる機会がなかなかないだけでしたが、昨秋、ヤフオクを眺めていると、3万円程度でR4が出品されていましたので、即落札し、追ってズミクロンR50mmも購入してみました。

R型は人気は高くはありませんが、ライカ純正レンズがM型より安価に購入できることにちょっと驚きながら、一月あまりの撮影を楽しみました。

ライカR4は、1980年に発売されたライカRシリーズの2代目で、ミノルタXDがベースになっているといいます。絞り優先とシャッター優先の両方を搭載した機種で、プログラムAEでの撮影も可能です。

ミノルタXDを触ったことがないのですが、カメラの質感はやはりどこをどう切り取ってもライカで、ギミックは使いやすく、「ああ、これがライカの一眼レフなのね!」と違和感なく使用することができました。

使用したズミクロンRは、おそらく1カムレンズの3カム改造のレンズと思われ、描写が濃厚と言われています。仕上がった現像を見ると、著しく濃厚という印象は強く抱かないまでも、非常に再現力の高い印象を受けました。

加えてR型の強みは、M型と異なり、被写体にかなり近づけるということ。M型の制約を乗り越え、写真を楽しめる楽しいカメラというインプレッションとなりました。

今回は、10月初旬から11月にかけての讃岐路をスケッチしましたが、マクロではありませんが、ちょっと寄ることができるというのはいいですね。

以下、作例です。

↑ f5.6 1/60


↑ f5.6 1/250

↑ f8 1/250

f5.6 1/1000

↑ f5.6 1/250

↑ f5.6 1/500


↑ f8 1/60

↑ f8 1/500

↑ f5.6 1/1000

↑ f2 1/250

↑ f4 1/500

↑ f2 1/500


↑ f4 1/250

↑ f2 1/1000

↑ f5.6 1/1000

↑ f16 1/125

↑ f5.6 1/250

↑ f2.8 1/1000

↑ f5.6 1/1000

↑ f5.6 1/500

↑ f8 1/500

↑ f16 1/60

↑ f8 1/250

↑ f8 1/1000

↑ f16 1/125

↑ f5.6 1/1000

↑ f16 1/125

↑ f5.6 1/125

↑ f8 1/250

↑ f5.6 1/500

↑ f2 1/60

↑ f2 1/30

↑ f2 1/30

↑ f2 1/60

↑ f5.6 1/500


撮影は2021年10月12日から11月8日にかけて。フィルムはKodakのネガフィルム「Pro Image 100(プロイメージ100)」を使用。香川県仲多度郡多度津町、三豊市、善通寺市、丸亀市で撮影しました。瀬戸内の深まりゆく秋の情景をスケッチしましたがいかがでしょうか。撮影はすべてマニュアルモード。

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氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。