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結婚しないと老後が孤独だよ

私は母が苦手だ。
母のことは好きだし、大切だと思う。
母には幸せでいてほしいと思う。

両親は私が10歳のときに離婚した。
母は朝から晩まで働いて私を育ててくれた。
習い事や塾にも行かせてくれた。
大人になった今では母がどんなに大変だったか、女として生きることを犠牲にして私を守ってくれたか痛いほど分かる。

母は要領のいい人間ではないが、誰よりも優しかった。
母は分かりやすく落ち込むことが多かった。
「シングルマザー」
世間の目は冷たかった。親戚からもいろいろ言われていた。
そんな母の力になれるのは私だけかもしれない。
働くようになってからは出来るだけ金銭的な援助をした。

奨学金をもらって大学を卒業した私は食品メーカーに就職した。
県内の事務所に転勤が決まったのをきっかけに一人暮らしを始めた。
私は3X歳になったが、独身だ。結婚する予定もない。

1ヵ月ぶりに実家に帰った。
母と離れて暮らすようになって数年、接し方が分からなくなっている。
私が帰ると母は喜んで料理を作ってくれる。

一緒にテレビを見ながら、ごはんを食べてお茶を飲む。
一見平和な時間だが、私の心の底には暗い影を差すことがある。

母がテレビを見ながら「この人嫌い」と言ったことから、パート先で嫌いな人がいるという話に発展した。
時々母は父と結婚していたときの話をしたりもする。
ほとんどがネガティブな話題で感動することもないし、為になることもない。正直聞きたくなかった。
私はいつも母の話を聞いて、「大変だね」「頑張ってるね」「偉いね」と慰めている。

「いつになったら結婚するの?」
「いい人はいないの?」
私が知りたい。結婚の話題は苦痛でしかない。
離婚してるくせによく言うね。と心の中で言っていた。

新しく買ったFENDIのバッグを見た母が
「いつもと違う感じのバッグだね。
バッグを買ってくれる彼氏でも出来た?」
最悪のすべてが詰まったような問いだった。

「バッグは男に買ってもらうようなものじゃないよ。それくらい自分で買えるし」
変な空気にならないように笑いながら答えた。

「結婚しないの?子どもがいないと老後が孤独だよ。病気になったらどうするの?働けなったら誰が助けてくれるの?」
母は言った。本気で言っているらしかった。

言い返したいことはたくさんあった。
最悪に最悪を重ねたような質問だった。
母と娘だけで20年以上一緒に暮らしたけれど、価値観なんて合わない。
母はいつも理想を語るし、私に期待してくる。
母と父がなぜ上手くいかなかったのかなんとなく分かる。

「老人ホームに入れるくらいのお金は貯めるつもりだよ」
その話題は終わりにしてくれないか?と思いながら乾いた声で言った。


母と一緒に住んでたときに結婚について話したことがある。
その頃の私の人生は母がいてこそのものだった。
結婚しても母と同居する気でいたし、子どもが出来たら面倒を見てほしいと母に言ったこともあった。

私は変わってしまった。

結婚したくても出来ない現実。
シングルマザーで育った寂しさや苦労。
自分が手に出来るものは限られているんだと思い知らされていくし、諦めることが増えた。

経済的な理由で我慢することが多くて、裕福な家庭に生まれた子が心底羨ましかった。
結婚式で両親に手紙を読む友人を見て、母と父がいて仲のいい家庭が心底羨ましかった。

純粋な気持ちで母を好きでいたかった。

お母さん、今まで育ててくれてありがとう。
お母さんがたくさん頑張って大変だったの知ってるよ。
私は今幸せです。
結婚していなくても、子どもがいなくても幸せです。
孫を生んであげられなくてごめんなさい。
私は一人でも生活できています。

母は結婚し、子どもを産んだ。
だけれども私次第で孤独な老後にしてしまうかもしれない。
私はそれでもいいと思ってる。
私を幸せに出来るのは私だけだから。


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