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はじめてのフランス映画体験は「アメリ」にやさしく教えてもらうはずでした

はじめに

映画マニアでもレビュアーでもない、ただの「わりと映画が好きな人」が"もう一度観たい映画"をピックアップして、ひとりで勝手におしゃべりします。
怖がらないでくださいね。

星を付けることはしない!が前提です。(肝が小さいので批評っぽい行為全般を苦手としています…)
そのぶんとにかく楽しんで書く!をモットーに、いかなる作品のいかなる表現も、基本ポジティブに受け止めて楽しく言語化します。
そして余談が多いです。というか余談と脱線がメインです。
あらかじめご了承いただいた上で、気張らずごゆるりとお読みいただけたら幸いです!

干ばつの中心で恋愛映画を語りたいけもの

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本日はフランスのミニシアター系ムービーの金字塔ともいえるであろう、

「アメリ」(2001年・フランス)

を取り上げたいと思います。

おしゃれでキュートでどこかミステリアス。
ほの明るい不気味さのようなものも感じる映画なのですが、なんといっても物語の主軸は「アメリの恋」なわけで、そこには多分にラブロマンス要素が含まれます。

しかもここ、ふと周りを見渡せば誰かしらが隙あらばキスをしている世界線。(おそらくお国柄でしょうが)
現実世界の色恋から遠ざかりまくっている当方としては、その世界にふれることに若干の後ろめたさを感じます。
それでも、

干ばつの中心に立ってはじめて見えてくる景色だってあるかもしれません。

映画の余韻に浸り、感想を述べ、キャッキャ&ウフフする自由はこの世界の誰もが享受できるはず。
各々が映画の中にみた風景を、湧き上がってきた思い出を、各々が好き好きに脳内で語り尽くすことを止める権利など誰も持ち合わせていないのです。

というわけで、よーし!語っちゃうぞ〜〜〜!!

「アメリ」のみどころ、そしてカソナード

キスがインフレしているシーンは1:36〜

ま、まぶたにキスだと……?!
なんとも耽美的ですね。
ちなみに、まぶたへのキスは相手への憧れの証だそうですよ。
完璧に素敵な意味合いすぎてぐうの音も出ません。

そしてさらにちなむと、唇ではなくまつ毛を使って行うキスは「バタフライ・キス」と呼ばれるそう。
まつ毛っていうのがまた、いい!
わき毛でもすね毛でもなく、まつ毛。
というわけでニンニク食べた日のデートも安心ですね。

画面全体に黄金色のベールがかかったような温かみに満ちた色味。
そこに差し込むビビッドな赤と緑の対比がパワフル。
これぞ映像の引力。思わず観入ってしまいます。

そしてオドレイ・トトゥ演じるアメリのいびつなかわいらしさよ。
少女なのか、はたまた大人なのか…
無邪気さに寄り添う色香に翻弄されそうになります。

アメリの内面と外面のアンバランスさをひとしきり楽しんだあとは、
フランボワーズを1粒ずつ指先にはめて食べたくなりますし、
クレーム・ブリュレのカリカリをスプーンでバチコリ割りたくなります。

そうそう、クレーム・ブリュレって作るの結構大変なんですよね。
材料に「カソナード」ってのがありまして、これがわたしのような田舎モンにとっては入手困難な代物で。

以前どうしてもクレーム・ブリュレを作りたい衝動に駆られたのですが、あちこちのスーパーを回れどもカソナードだけがどうしても見つからず(泣)

「カソナードカソナード…」と唱えながら探していたので、「カソナード」という単語を一生忘れられない呪いにはかかりましたけどね。

カソナードについての詳細はこちらをご参照ください
カソナードの特徴と使い方
出典:ホテルオークラ東京公式HP

ここからが余談本番です

そういえば、うちの母は十数年前に本作を一人で鑑賞したとのこと。VHSで観た、と言っていました。時代ですね。

当時、母から「アメリのお部屋は壁が真っ赤でかわいいから、うちの壁も真っ赤に塗ったろかな」という感想を聞いていたので、幼少期から「あー、あの真っ赤な壁の映画ね」程度の予備知識はありましたが、腰据えて鑑賞したい!と思うようになったのは大学生になってからだったでしょうか。

いつか休日の昼下がりにベッドの上に寝転がって、
フランス人よろしくリンゴを丸かじりしながら
「アメリ」を観ようじゃないか…

そんな憧れを抱き、わたしにとってはじめてのフランス映画鑑賞はアメリに捧げるのだろうな、なんて漠然とした未来を思い描いていた矢先のこと。

当時のバイト仲間(以下、美大生のAくん、略してBDAくん)と二人で遊ぶこととなり、彼の提案で早稲田松竹へ映画を観に行くことに。

二十歳、はじめてのミニシアター

当時これといったアイデンティティも将来のビジョンも持っていなかったわたしはコンプレックスをこじらせた挙句、

ほんならサブカルや!
サブカル女として生きたるで!!


と、サブカルチャーが何たるかもわからぬままに「サブカルへ傾倒していく自分」を無理やり演出してそこに陶酔する、というかわいそうなファッションサブカル遊戯に手を染めていました。
(その割には見た目も中身もそこまでサブカル女子になりきれていない、という詰めの甘さ込みでかわいそう)

そんな悲しきファッサブガールにとって、歴史ある名画座なんてもう最高に気持ちよくなれるステージなわけですよ。
しかも一緒に行く相手は美大生ときた。
時は満ちた……
いよいよわたしも本物のサブカルにふれるのだ……
と鼻息荒く高田馬場駅へ向かったことを覚えています。

しかし、わたしの脳内の片隅には一抹の不安が。

そういえば鑑賞予定の映画をリサーチしたら
R18+って書いてあった気が……
単なる男友達のBDAくんと一緒に観ても大丈夫なの……?

するとすかさず脳内のもう一人のわたしが囁くのです。

いやいや、だって芸術ですよ?
いささか過激な描写はつきもの。わたしにはわかる。
だってサブカル女子だもの。

R18+の映画なんて今まで観たことないのだが…?
いやでも大丈夫、きっと大丈夫。
BDAくんから「これ観ませんか?」って言ってきたから大丈夫だよね。
美大生のチョイスだもん!きっと大丈夫。

上映直前まで幾度となく「大丈夫」と自己暗示をかけてから鑑賞した結果、

やっぱりあんまり大丈夫じゃなかった

我々が観たのは「アデル、ブルーは熱い色」(2013年・フランス)でした。

だいじょばなかったシーンの一部は00:51〜

物語中盤に始まったフランス美女同士の本気の裸のぶつかり稽古
肌色で埋め尽くされるスクリーン。そして時々ぼかし。
当時二十歳だったわたしは超絶動揺の波に揉まれ、もうストーリーを追うどころではありませんでした。

お父さん、お母さん、ごめんなさい。
あなた方の娘は今とんでもないものを目撃しています。
BDAくん、今あなたはどんな心境でこの映像を観ているのですか。
これで動揺しているわたしって精神年齢低すぎ……?!

そんな懺悔と疑問がひたすら脳裏をよぎり、わたしはスクリーンを凝視したまま硬直。

そんなサブカル女子のなりぞこないをよそに、裸一貫の取っ組み合いは定期的に巻き起こりまして、
映画が終わる頃には心身ともにグッタリでした。

そしておそるおそる隣のBDAくんを見てみたところ、

気まずさ10年分当選しました!(^^)

みたいな顔をしていました。
彼にとっても壮絶な映像体験だったのでしょう。

しかし闘いはまだ終わりません。

その後に行ったフ◯ッシュネスバーガーでのやりとり、今でも当時のあの息の詰まるような空気感が明確に思い出せます。

おもむろに「…ほんとにごめんなさい…」と頭を下げたBDAくん。
「全然大丈夫です〜、ああいうの好きだし(?)」と返したわたし。
それからは映画の内容について触れることはなく、当たり障りのないバイト話で沈黙をサンドイッチにしながらなんとか間をもたせようと奮闘。

今思い返しても胸が苦しい。酸素をくれ酸素を。

BDA氏、単純に事前リサーチ不足だった模様。
R18+だと知っていながらもストップをかけなかったわたしもわたしですが、本案件は双方の過失ということで。

とりあえず、
気まずかった味ランキング(わたし調べ)、あの時食べたアボカドバーガーがいまだに不動の一位です。
おめでとうございます。

よし、近々また「アデル-」を観よう。今度は一人で。
きちんとストーリーを反芻してnoteに感想をしたためて、あの日感じた気まずさを供養するのだと決意を固めた今日この頃。

わたしはもうすぐ二十八になろうとしています。

つまり何が言いたいのかというと

人生どうなるかわからない。これに尽きます。
特に「いつか」・「今度」などという常套句から始まる計画は、ちょっとしたきっかけでことごとく狂っていきますよね。

そんな言い方をするとネガティブに捉えられてしまいそうですが、決して悪いことではないと思っています。
わたしの場合、もし狂っていなければこのnoteを書くこともなかったでしょうし、BDAくんに抱いていたほのかな恋心を思い返すきっかけも失っていたことでしょう。

思い出を書き起こす作業って案外楽しいものですね。

紆余曲折を経ながらも、やっとアメリを観ることができたのは結局社会人になってからのこと。
就職を機に一人暮らしを始めたわたしは、金曜日の終業後に自宅近くのTSUTAYAに入り浸る楽しみを覚えました。

アメリのDVDを借りて意気揚々と帰宅。
1週間がんばった自分を労いながら、ケースから丁重にDVDを取り出して。

当時はDVDプレーヤーを持っていなかったため、再生媒体は11.6インチモニターの格安ノートPC。
しかし、アメリの世界がちいさな四角窓の中に凝縮されているようで、カソナードに負けないほど甘美かつ香り高い映像に感じられたことを思い出します。

そういえば鑑賞中のお供、絶対リンゴじゃなかった。
たしか0カロリーコーラとからあげ棒だったかな。
夜中の映画。炭酸飲料。コンビニのホットスナック。
おまけに堅揚げポテトもあったら万々歳。
疲れた身体にこの罪悪感の揃い踏みなメンツをかち込ませた時の快感たるや、筆舌に尽くし難いというやつです。

礼儀も作法も捨てて、ひとり映像に没頭するひととき。
すなわちシアター・イン・マイルーム、最高ってことです。

流れに身をまかせて知った酸いも甘いもまとめて愛せるくらいには、わたしも成長できたかな。

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