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ケプラーの校則 第3話(夏休み)

#創作大賞2024
#恋愛小説部門

 梅雨が明け、夏休みが始まった。
 空はどこまでも青く、白く浮かぶ雲は夏模様を演出していた。 
 夏休みの最初の土曜日。僕たちは朝十時に学校で待ち合わせた。
 僕は先に部室に来て、観測機器などの持って行くものを準備をしていた。

「グッ、モーニング!」
 やけにテンションの高い明日香さんが、開けっぱなしにしていた入り口の外から大きな声でやってきた。彼女はミニのデニムスカートに袖無しの白いブラウス。それとピンクのリボンの付いた麦わら帽子にビーチサンダルの姿だった。

「完全にバカンスですよね」
 僕はその格好を見て言った。
「夏らしくって可愛いでしょ。わたしの事、好きになってもダメよ」
 彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、僕の方を見た。
「それはありえません」
「あ、そう」
 彼女は素っ気なく言ったが、夏の光に反射する彼女の透き通るような肌は、やけに眩しく感じた。
 僕がバックに入れた天体望遠鏡をもって外に出ると、近くには真っ赤なSUVの車が止まっていた。
 その車の横には、ジーンズパンツにピンクのTシャツ姿のスラッとした女性が立っていた。
 どこかで見たことがある女性だった。
「おはよう。筧くん」
 僕の名前を知っているその人は・・・・・。
「安田さん・・・・・・ですか?」
 普段は工場の制服の上に髪を後ろで束ねているので気がつかなかったが、髪を下ろしたスタイリッシュな服装の安田さんは、いつもより更に綺麗だった。
 僕が驚いた顔をしていると、
「あら、明日香から何も聞いていないの?」
「は・・・・・・い?」
 すると横で、明日香さんはドッキリでも仕掛けたような満足げな顔をして僕の顔を見た。
「ドッキリ。成功!」
「でも、どうして安田さんが?」
「だって俊太が大人の人が必要だって言ったから」
 いや、そこじゃない。明日香さんはわざと僕の質問の意図を外した。
「安田さんなら大歓迎ですけど。でも・・・・・・」
 そんな僕の態度を察してか、安田さんは
「あら、明日香ったら何も言ってないのね。それは車の中で説明するから、とりあえず荷物を積みましょ」
 僕は事情がよくわからないまま、荷物を車のトランクに載せようとした。その時、そのトランクの中には、あの有名な天体望遠鏡メーカーのロゴの入ったケースが二つと三脚が既に入っていのを見た。それはどう見ても、僕たちが持っているものよりグレードが違うものだった。 
「どうしてここに天体望遠鏡が・・・・・・?」
 僕は色々疑問があったが、とりあえずそれは車内で聞くことにした。

 安田さんが運転席につくと、明日香さんは助手席に、僕は明日香さんの後ろの座席に座った。
「レッツ・ゴー!」
 明日香さんは片手を振り上げ、ご機嫌に言った。
 車が走り出すと同時に軽快な夏の音楽が流れた。
 車窓からは夏の日差しをいっぱい浴びた景色が広がり、音楽に合わせ明日香さんも上機嫌のようだった。しばらくすると安田さんはミラー越しに、後ろに座っている僕が何か解せない表情でいるのを見た。そして、
「さっきのことだけど、実は明日香は、私の姪なの」
「え、姪?」
 驚いた。
 なぜならば、あの工場で春から仕事をしている時に、そんな事は安田さんからはもちろん、明日香さんからも一度も聞いたことがない。
「あ~もう。すぐ言っちゃうんだからな~。麻里子さんは」
 さっきまで上機嫌だった明日香さんは残念そうに言った。
「だって明日香が筧君に何も言ってないからでしょ。彼困ってたわよ」
 安田さんはルームミラーで僕の顔を再びチラッと見て、言葉の内容とは逆に楽しそうに言った。
「じゃ、バイトの事も」
「そうね。明日香は少し前からわたしが働くあそこでたまにバイトしていたの。ある日、『友達を連れて来たいけどいい?』って訊くから『稼ぎは良くないけどそれでも良ければ』っていったの」
 だんだん話が繋がってきた。
「ねぇ。俊太も麻里子さんの事は麻里子さんって呼んでね。なんか安田さんじゃ仕事っぽいでしょ」
 明日香さんがそう言うと続いて麻里子さんが、
「それじゃ私は筧君の事、俊太君って呼ぶわ。俊太君は無理しなくてもいいのよ。でもそう呼ばれた方が私も嬉しいかも」
「は、はい」
 僕は少し嬉しくなった。
「でも、明日香に彼氏ができるとわねぇ」
 麻里子さんがそう言うと、明日香さんは急にムキになり、
「だから彼氏なんかじゃないって何回も言っているじゃない。私の彼氏になる人はこんな頼りない人じゃないわ」
 彼女は運転している麻里子さんに真顔で反論した。
 そんな様子を見ていた僕は、彼女たちは本当に仲がいいなと思った。それに職場では作業着を着ているせいか、そんなことは思わなかったが、麻里子さんと明日香さんは何となく顔立ちもよく似ていた。叔母と姪だから当たり前かもしれないが。

「私と姉、つまり明日香の母親とは年が十三歳離れているの。明日香が生まれたときまだ私は高校生だったから、なんとなく姪と云うより年の離れている妹みたいなの」
「そうなんですね。道理で麻里子さんも若く見えるんですね」
「あら、高校生のくせに上手を言うわね」
「いや、そういうつもりじゃ」
 そう言うと同時に、明日香さんは突然後ろにいる僕に振り向いて、顔をにらみつけた。
「麻里子さんに惚れちゃだめよ。こう見えても人妻なんだから」
 と、ぴしゃっと言われた。
 彼女はそのままプィと外を向いたが、その時初めて麻里子さんは既婚者なんだと知った。
 それはそれで軽くショックを受けた。
「でも結婚されているんじゃ、僕たちなんかに付き合って貰って家の方は大丈夫なんですか?」
「心配しないで大丈夫よ。子供もいないし、主人も忙しいから。それに明日香と一緒なら主人も安心みたいだし」
 すると明日香さんは偉そうな感じで 
「麻里子さんの旦那さんはあの工場の社長なのよ」と言った。それに続けて
「それだけじゃないのよ。ほかにレストラン三軒と居酒屋も二件経営しているのよ」
 僕はまた驚いた。それなら別にあの工場で事務員として働く必要もないのじゃないかと思い、その事を麻里子さんに言うと、
「人からそう言われる事もあるわ。でも、やっぱり働くって大事でしょ。それに夫の手助けもしたいしね」
 あまりに正論過ぎて反論する隙もない。
「ね。わかった?俊太みたいな下世話な人と違うのよ。麻里子さんは」
 明日香さんは勝ち誇ったように言った。
 確かにその通りかもしれないが、言い方っていうものがあるだろと僕は思った。『下世話な人はあなたの方でしょ』と喉まで出かかった。
 それはそうと、先程見たトランクの中の事が気になり、その事を麻里子さんに訊いた。
「さっき後ろのトランクに荷物を入れる時、既に天体望遠鏡があったんですが、あれは誰のですか?」
 僕がそう訊くと、麻里子さんはミラー越しに僕の方を見て
「あれはわたしの天体望遠鏡なの」と言った。
 すると続いて明日香さんが半分僕の方を向きながら、
「麻里子さんはね、天体写真も撮ってるの」
「天体写真?」
 明日香さんもそれを知っているならもっと早く言えばいいのにと思った。そうしたら、無理して天体望遠鏡を買わなくて良かったし、今回の合宿の件も最初から麻里子さんに頼めば良かったはずだ。
「アマチュアよ。そんなに詳しいわけでもないわ」
 麻里子さんの話しだと、彼女はアマチュア天文家としても活動しているようだった。明日香さんもその影響があって天文同好会を立ち上げたようだった。
「そうね。天文同好会を立ち上げたのも麻里子さんの影響かもね。だから責任をとってもらうために、今回付き合ってもらうの」
 麻里子さんは、少し偉そうに言う明日香さんを横目で見て微笑んだ。
 僕は、麻里子さんがカメラや望遠鏡を使って天体観測をする姿を想像した。そして、
「なんか麻里子さん。カッコイイですね」
 僕がそう言うと、
「やっぱり麻里子さんに興味あるんじゃないの!」と、明日香さんが詰め寄ってきた。
「あら、明日香。焼き餅焼いているの?」
「そんな訳ないでしょ!」
 と、彼女は少しふて腐れた仕草をしなが窓の外を向いた。
 そんな会話をしながら、車は約一時間半ほど走ると目的地に近づき、徐々に海岸線が視界に入るようになった。
「海がみえるわ」
 彼女は小さく嬉しそうに叫び、車の窓を半分ぐらい開けた。
 真夏の太陽の下でも、車の中はエアコンが効いており快適だったが、彼女が窓を開けたとたん、湿気と少し潮の香りがする夏の暑い空気が車内に入り込んで来た。
 彼女はその風を顔に浴び、目を細めて髪をなびかせているのが心地良いようだった。
 僕もその風を彼女越しに浴びながら、夏の気分を存分に味わっていた。
 潮の香りと、彼女の石鹸のような香りが入り交じった夏の風は、決して不快なものではなかった。

 やがてロッジにほど近い、海の見える道の駅に着いた。
 遠くに水平線が見えるその道の駅は、夏休みに入って初日の土曜日だったため、観光客でごった返していたが、そんな中でも明日香さんは無邪気にはしゃいでいた。
 ロッジのチェックインまでの時間にまだ早いため、三人で昼食をとることにした。僕たちはその道の駅の中にあるラーメン屋さんに入った。
 まだお昼少し前だったので、少し空席もあった。そして僕たちがその店の席に着くなり
「冷やし中華、三つ!」と明日香さんは店員さんに注文をした。
「え、まだメニューも見ていないのに」
 僕は、勝手に注文した明日香さんに文句を言った。
「だってこの暑さだから冷やし中華でしょ。それとも俊太はアツアツの味噌ラーメンなの?」
「いや、そうじゃないけど」
「私は冷やし中華でいいわよ」
 麻里子さんが言ったので、
「じゃ、僕も・・・・・・」
 僕に異論はなかった。
 やがて運ばれてきた冷やし中華は、彩りも華やかで食べてみると夏の味がした。明日香さんもそれを『おいしいね』と言い、麻里子さんはその明日香さんの姿を見ては嬉しそうに微笑んでいた。
 昼食後は再び車に乗り、目的のロッジに向かった。そこは、道から少し見上げるような高い場所にあり、丁度崖の上のような所にあった。その場所からは水平線が見え、かなり見晴らしが良かった。
 管理棟で受付をした後、鍵と注意事項の書いてある書類を貰い、僕たちが泊まるロッジに向かった。
 そこはロッジの横に駐車場があり、車を着けることができた。車を止めると僕たちは機材などを降ろし、ロッジへ運んだ。
 ロッジの中に入ると、その中は締め切っていたためムッとする暑さだったが、ダイニング越しのテラスに続く大きなガラスの引き戸を開けると、海風が押し寄せるように入り、一気に暑さを吹き飛ばしてくれた。
 そしてそこからまっすぐ前に見える海の景色は、真っ青な海と遠くに見える水平線、その上には青い夏の空があった。
「まるで映画の世界みたいですね」
「本当ね」
 僕と一緒にその景色を見ていた明日香さんと麻里子さんは、感嘆の声を上げた。
 やや東向きの海に面したその大きなガラス扉の先のテラスは、ウッドデッキとなっていた。
「素敵ね、俊太」
「そうですね」
「今晩、ここでバーベキューしようね」
 そのウッドデッキはバーベキューなどができるようになっていた。
 ウッドデッキの手前はダイニングキッチンとリビングが一緒になっており、その左側には仕切があり、バス・トイレ・洗面所などがあった。
 またそのダイニングを挟んでその反対側には二人用の寝室があった。
「へぇ~、こんな作りになっているんだ」
 明日香さんは感心するように言った。
「じゃ、私と麻里子さんはここに寝るから、俊太は二階ね」
 入り口付近の階段を上がると二階にも部屋があった。下から見る限り少し狭そうだったが、それでも四人用の建物だから二人ぐらいは寝れるはずだ。
「はいはい。わかりました」
 僕は天体望遠鏡をリビングに置き、自分の荷物だけを持って二階に上がった。
 二階に上がると丁度、屋根裏部屋を少し大きくしたようなフローリングの心地良い部屋だった。天井はやや低いものの、上を見ると大きな天窓があった。今夜はここからもきれいな星空が見えそうだった。

 荷物を置いて下に降りると、麻里子さんと明日香さんは出かける支度をしていた。
「出かけるの?」
「うん、買い出し。俊太も行く?」
 僕は少し考え
「いや。留守番しておくよ」と言った。
 僕はそう言うと、二人はそろって買い物に出かけた。
 別に一緒に出かけても良かったが、なぜか一人になりたかった。
 二人が出かけた後は、時が止まったように静かになった。
 部屋の中は少し蒸し暑かったが、窓や扉を閉めエアコンをつけるのは惜しかった。海から来る風が心地よく、それを遮るのは勿体なかった。
 開けっぱなしの窓からは遠くのさざ波の音が聞こえた。さっきまで明日香さんと一緒だったから賑やかだったけど、一人になると急に静かになり、今日を含めて今までのことが何となく夢のように思えた。
 わがままで自己中心的な明日香さんには正直言って最初は戸惑った。しかし、ある意味僕の『楽しい高校生活をする』と言う事を実現できたのかもしれない。確かに最初思い描いた事とは違うが、今はそれなりに楽しい。
 人付き合いが苦手な僕としては、彼女のようにぐいぐいと僕を引き回すような人が必要なのかもしれない。
「今のうちに望遠鏡を組み立てておくか」
 僕はそう思い立ち上がると、麻里子さんの機材が入っているバッグが目に入った。黒い大きなバックは鏡筒は入っているだろう。同じく長いバッグは三脚だと思う。銀色に光るアルミケースには、たぶん赤道儀の架台が入っているはずだ。それとほかにはカメラなどの機器が入ったようなものもある。これらに比べたら僕たちの天体望遠鏡などずいぶんちっぽけに思えた。
 彼女たちが寝るベットルームの戸は開けっぱなしになっていた。
 女性の荷物など見てはいけないと思ったが、何やら四角い救急箱のようなバッグに目が行った。あれは何だろうと思ったが、女性だから色々荷物も多いだろうと、あまり気にも留めなかった。
 天体望遠鏡を組み立てると、僕はリビングのソファで横になった。
 海から来る風があまりにも気持ちよく、午前中に車に揺られた疲れが出たのか、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。

 そしてしばらく眠ったのだろうか、
「俊太。いつまで寝ているのよ!」
 いつも聞き慣れている大きな声に、僕は眠たい目を擦りながら起きた。
 気がつけば、ソファで横になっている僕を、明日香さんが見下ろしていた。
「え、もう帰ったの?」
「『もう帰ったの』じゃないわよ。ずいぶん前に帰っているわよ。麻里子さんが『もう少し寝かせて上げなさい』っていうから、そのままにしておいたけど、俊太も手伝ってよね」
 キッチンでは麻里子さんが食材を切るなど、食事の準備をしていた。
「ああ、ごめん」
 テラスでは明日香さんがバーベキューの準備をしていたようだ。僕はまだ寝ぼけていたが、彼女の指示に従い、皿などを運んだ。
 命令した張本人の明日香さんは、どこで買ったのか変な形のストラップを持って眺めていた。
「どうしたんですか。そのストラップ?」
「さっき買い物のついでにお土産物屋で買ったの。ここに来た記念にね。この星の形が可愛いでしょ」
 彼女が差し出したその“星”とやらをよく見てみるとオレンジ色をしており、それをどうしたら星と間違えるのか不思議だった。
「それ、たぶんヒトデだと思いますけど」
 僕が素っ気なくそう言うと、彼女は再びそれをじっと見た。
「いいのよ。星と思えば星よ」
 相変わらずの天然ぶりだった。
 しばらくすると、テラスから見える窓の外には薄暮が広がっていた。
「なんか良い感じになってきたわね」
 麻里子さんは冷蔵庫からビールを取り出した。僕と明日香さんはジュースをグラスに注ぎ乾杯をした。
 網の上でサザエやイカを焼き始めると、食欲をそそる匂いがしてきた。
 明日香さんは「俊太。たまには野菜も食べなさいよ」と、お姉さんのような口ぶりだったが、自分では焼き上がったイカやサザエを食べて「これ凄くおいしい」と、満足そうに言った。
 しかしそんなワイワイしながらの、三人で食べるバーベキューはとても楽しかった。
 テラスから見る空は既に陽が落ちてしまっているものの、ほの暗いオレンジ色のグラデエーションが美しく、水平線より下では暮れて行く海が広がっていた。
 遠くにあるだろう岸辺には、点のような灯りが無数に見え、近くの海岸では、数人の男女のふざけ合う声と花火の音が微かに聞こえた。
 食事は楽しかったが、本来それが目的ではない。概ね買ってきた食材を食べ終わる頃には、一等星などがちらほら見え始めた。

「そろそろ準備しなくちゃね」
 麻里子さんのその一言で僕たちは食事の片付けを始めた。
 すると自分の部屋に向かった明日香さんに麻里子さんは、
「明日香、薬は飲んだの?」
 なんだか麻里子さんのヒソヒソ声に近い声が聞こえた。その声の方を見ると、明日香さんがあの四角いバックからたくさんの薬のようなものを取り出していた。僕はそれが何なのか気になったが、見てはいけないようなものを見るような感じがして、気がつかない振りをした。
 麻里子さんは薬らしきものを飲む明日香さんを確認すると、テラスへ出て望遠鏡を組み立て始めた。
 僕の望遠鏡は既に組み立ててあったので、それをテラスまで担いで出た。
 テラスには二つの望遠鏡が並んだ。
 二つとも似たような望遠鏡だが、よく見ると鏡筒の太さと、三脚と鏡筒の間にある架台と呼ばれるものが全く違っていた。
「麻里子さん。これ本格的ですよね」
 僕は、それを見ながら羨ましそうに言った。すると横から明日香さんが、
「当たり前じゃない。プロ仕様よ。麻里子さんは星の写真集も出しているんだから」
「え!写真集」
 それじゃ本当のアマチュア天文家じゃないかと、僕は驚いた。
「明日香は大げさのよ」
 その驚く僕の顔を見て麻里子さんはたしなめるように言った。
「写真集と言っても自費出版だし、鏡筒もあなたたちのものよりちょっと大きいだけよ。そうね、決定的に違うのはこの架台かな?」
 麻里子さんはその架台を指さした。確かに僕たちのものは鏡筒と三脚を繋ぐだけのような形だが、麻里子さんのそれは重厚な一つの装置だった。
「この架台って赤道儀って言うんですよね。モーター付きですか?」
「そう、俊太君よく知っているのね」
「えっ、これって何か仕掛けがあるの?」
 明日香さんは『これはなに?』と言う感じで訊いた。
「これはね。一つの星や星雲の写真を撮ろうと思うとそれを自動で追尾してくれる装置なの。この架台だけで二十万円するのよ」
「にじゅうまんえん!」
 僕と明日香さんは驚いた。
 そして驚いたのはそれだけじゃなかった。
 麻里子さんはスマホを取り出すと何かのアプリを立ち上げ操作した。すると架台からモーター音が聞こえ、鏡筒が勝手に動き始めた。
「なんですか、これ?」
「今、望遠鏡は土星を捉えようとしているの。この架台はスマホのアプリから目標の星を自動で照準を合わせることができるのよ。でもまだこれにも上があって、わたしのなんかはまだ安い方だから」
 なんか僕たちの望遠鏡が本当に貧素に思えた。
「最初から麻里子さんの望遠鏡を借りればよかったな」
 僕が少し不満そうに言うと。
「そんな事ないわよ。まず基礎を学ぶことが大事なの。きちんと星座早見表や理科年表などで調べて、その上に天体望遠鏡の仕組みや星の動きを理解するって言うことが大事なの。それに自分たちが働いたお金で天体望遠鏡を買うって言うのはもっと大切なことだと思うわ」
 確かに麻里子さんの言うことは正しい。
「それに自分たちで買った天体望遠鏡なら、ずっと大切にするでしょ」
「ええ。それはもちろん」
「たぶん、この望遠鏡は将来、俊太君が研究者になってたとしても大切にすると思うわ」
 もちろん僕が将来、天文の研究者になることはないと思うが、そう言われるとこの貧素に見える天体望遠鏡にも、それなりに愛着が出てきた。
 僕は気を取り直して二人に言った。
「それより今夜は新月だから、星空を観測するにはベストですよね」
 すると明日香さんは、
「なんで、新月だと観測するのにベストなの?」と訊いた。
「月が出ていないと言うことは、この夜空に強力な光がないということです。だから、弱い光の星まで見ることができるんです」
 ここは街から離れているため、周りの明かりもあまりない。遠くの街の灯りが点のように見えるぐらいだった。
「さすが俊太君ね」
 麻里子さんに褒められると嬉しかった。
 部屋の照明を消すと、一瞬にして闇が訪れた。それとは逆に、夜空を見上げると無数の星が散らばっており、まさに『星屑』のように美しかった。
「わ~、きれい」
 明日香さんと僕は感嘆の声をあげた。
 東側の空にも、無数の星々が散りばめられており、その東の空を覆うような天の川が見えた。それは夜の空を流れる大きな雲のようでもあり、空に出現した割れ目でもあるようにも見えた。
「ほんと。ここは天の川がよく見えるのね」
 麻里子さんがそう言うと、
「こんなにはっきりと見える天の川を見たのは初めてだわ」
 明日香さんはそう言いながら、しばらく空を見つめていた。
「それであの星とあの星とあの星をつなげると、夏を代表する『夏の大三角形』よ」
 麻里子さんは持ってきたレーザーポインターで、夜空でひときわ明るい三つの星を指して説明してくれた。レーザーポインターで星を指してくれると非常にわかりやすい。
「ちなみに七夕の織り姫様と彦星様は、あの天の川を挟んで両側にあるあの星とあの星」
「あれが、織姫と彦星なの?」
「こっちがベガで織姫よ。そしてあっちがアルタイルで彦星なのよ」
 麻里子さんはレーザーをそれぞれの星に向けて織姫と彦星を説明した。
「それであれがデネブですね。はくちょう座のお尻の部分。これで夏の大三角形ですね」
 僕がそう言うと麻里子さんは
「俊太君、よく知っているわね」と言った。
「俊太はね。わたしたちの天文同好会を部活動にするために秋の文化祭に成果発表をするのよ」
「いや『俊太はね』じゃないでしょ。僕たち二人でするんですよ」
 明日香さんの人任せの性格は、本当に何とかして欲しいと心の底から思った。
「へぇ、成果発表。どんな成果を発表するの」
 麻里子さんは興味津々のようだ。
「今回の合宿もその一つです。まず一つ目は今年の夏に見える土星と木星の観測をしたいんですけど、実際にはなにをどう観測すればいいのかわからなくて。単に『土星に輪があります。木星には縞模様があります』では、子供の夏休みの研究とあまり変わらないような気がして」
 僕がそう言うと明日香さんは
「自分だって子供のくせに」
「いや、そういう子供じゃなくて小学生みたいなと言う意味です」
 そんな僕たちが言い争うのを嬉しそうに見ていた麻里子さんは、
「あなたたちって本当に仲がいいのね。でもそうは言っても、図鑑とかインターネットじゃなくて実際に木星や土星の写真を見る人ってあまりいないんじゃないのかしら。この夏の土星や木星を実際に写真に撮ってパネルにするだけでも、立派な成果発表になると思うわ」
 確かにそうかもしれない。図鑑やネットで美しい星を見ることは簡単だが、実際の生写真を見るなんてことはほとんどない。それに、実際の観測や写真を撮ることがこんなに大変だとは誰も思わないだろう。麻里子さんにそう言われると何となく気持ちが楽になった。
「まだ他にも発表するものがあるんですよ」
 僕がそう言うと、麻里子さんは感心したように
「まだあるの。どんなもの?」
 と、訊いてきた。横では明日香さんが
「俊太は欲張りすぎるのよ。あれもこれも成果発表するっていうから、付き合う方も大変よ」
 と不満げに言ったが、そもそもあなたがここの代表者で『あなたが頑張るんですよ』と何回も言いたくなったが、明日香さんの言葉は無視した。
「これを見て下さい」
 僕は一枚の紙を取り出した。
「これはなに?」
「これは、今年の文化祭で発表するものを書いたものです。今日は天文同好会の合宿ですので、確認するために持ってきました」
 すると明日香さんは
「部室でもう何回も見たわよ。わざわざこんな所に持ってこなくても・・・・・・」
 と、ブツブツ言った。
 しかし、麻里子さんは面白いものでも見るかのように、発表するものが書いてある紙を見ていた。

【今年の文化祭で発表するもの】
1、今年の夏に見える土星と木星の観測
2、8月8日に起こる、部分月食の観測(連続写真など)
3、8月13日のペルセデウス座流星群の観測
4、ケプラーの法則をわかりやすく解説する

「1番目は、今ここで取りかかろうとしています。2番目と3番目はこの夏休み中に起こる天体現象ですので、雨が降らない限り観測をしようと思っています」
 するとその紙を見ていた麻里子さんは
「この“4”は何なの?」
 と眉をひそめながら言った。
「それですね。それはあまりこの夏休みとは関係ありませんが、部室に“ケプラーの校則”なんていうふざけた訓示のようなものがあって。いやそれは恐らく前の演劇部の人たちが残したものだと思うんですけど、それが何となく目に着いちゃったんで、本来の意味のケプラーの法則の解説って入れたんです。これは別になくても良いかなって思ってますけど、もし2と3の項目が雨でできなくなったらやることがなくなるので」
 僕がそう言うと麻里子さんは、なぜだか少し表情が硬くなった。
 横にいた明日香さんは
「ほら、俊太がなんか意味不明なことを書くから麻里子さん引いちゃっているじゃない」って言った。
「あっ、すいません。別にこれはなくてもいいです」
 僕も慌てて訂正した。
 すると麻里子さんはすぐに元の表情に戻り
「ううん、ごめんなさい。大丈夫よ。引いてなんかないわ。それじゃまず土星の観測をしましょ」
 と言い、すぐにいつもの笑顔に戻った。僕はそれを見て安心した。

 僕は早速、天体望遠鏡をへびつかい座の方向にある土星に焦点を定めた。麻里子さんの望遠鏡では既に土星が見えているようだった。
 僕はこの望遠鏡で初めての惑星を見るために四苦八苦していたが、明日香さんはちゃっかりと麻里子さんの望遠鏡を覗いていた。
「すこい。輪が見えるよ」
 そういう明日香さんを尻目に
「こっちだってもうすぐで見えますよ」
 と、僕は苦し紛れにそうに言った。
 僕はファインダーを使って、土星を捉えようと四苦八苦していた。ファインダーとは天体望遠鏡の上に付いている小さな望遠鏡の事だ。これで目標物を定める。
 すると麻里子さんが僕の天体望遠鏡の操作を手伝ってくれて、上手く見えるコツを教えてくれた。
 そして奮闘の末、土星にピントがあった。それは夜空にポカンと浮かんでいるような不思議な光景だった。
「こっちも見えました」
 僕がそう言うと明日香さんは
「どれどれ」と言う感じで、僕が見ていたレンズに勝手に割り込んだ。彼女はしばらくそれを見ていたが、レンズから目を離すと
「こっちも綺麗に見えるわ。俊太すごいね。褒めてあげる」
 などど、またいつものように上から目線で言った。
 すると、麻里子さんは僕に向かって
「明日香は本当は俊太君を素直な気持ちで褒めたかったのよ。ただ、この子はそう言うのが全く苦手で。俊太君、ごめんなさいね」
 僕は明日香さんの言葉には慣れていたので別に気にはしていなかったが、麻里子さんのその言葉は、まるで娘を持つ母親が他人に謝るような話し方だと思った。
 明日香さんは僕たちのやり取りをよそに、天体望遠鏡を覗いて
「土星の輪って本当に不思議よね」などと言っていた。
「今は土星の輪がはっきりと見える期間だから良かったわね」と麻里子さんが言うので、
「え?土星の輪ってはっきり見える時と、そうでない時があるんですか?」
 僕は麻里子さんに訊いた。
「2009年は土星の輪が消えたのよ」
「土星の輪が消える?そんな事ってあるんですか?」
「これを見て」
 麻里子さんは、一眼レフ仕様のデジカメを持ってくると、画面をピッピッと操作してその輪のない土星の画像をを見せてくれた。
「本当だ。土星の輪がないというか薄くなっているというか、ほとんど見えませんよね」
 僕と一緒にそれを見ていた明日香さんも驚いた様子だった。
「これは一体どういうことですか?」
「土星も地球と同じように地軸が少し傾いているから輪が綺麗に見えるの。でも、土星も公転しているから、地球から見たときに輪が平行になってしまう時もあるの。その時にはこんな風に見えるのよ。土星の輪ってすごく薄いから」
「それじゃ、ある意味貴重な写真ですよね」
「そうね。土星の公転周期は三十年だから、十五年に一回、こんな姿が見れるのよ。逆に開き具合が大きい時もあるのよ。確か去年がその年だった思うから、まだ土星の輪は良く見える期間よ」
 月はいつも近くで見えるので、満ち欠けもよくわかる。しかし土星や他の星は普段見ることもないからずっと同じ姿でいるものだと思い込んでいた。しかし、いつも同じものなんてものはない。なんでも日々変わっていくものなんだと思った。今日と同じ姿はもう見ることはできないのかもしれない。
 麻里子さんは、望遠鏡のアイピースを外してさっき僕たちが見た一眼レフのカメラを装着し始めた。
「土星の写真を撮るんですか?」
「そうよ。今夜は新月だし、大気も安定しているみたいだから。なかなかこんなきれいな土星は撮れることはないわ」
 僕は、そういう麻里子さんを横目に自分たちの望遠鏡を見て
「こっちはカメラがないからなぁ」とぼやいた。
「スケッチすればいいじゃない」
 麻里子さんは当然のように言った。
「スケッチ・・・・・・?僕、絵は下手ですけど」
「絵が上手下手じゃないわ。昔の天文学者はみんなスケッチだし、今でもスケッチしている天文家も多いわ。わたしだって、ほら」
 と、麻里子さんはバックの仲からスケッチブックを出して開いてくれた。
「これ、わたしが前に木星を観察したときのスケッチなの」
 彼女が開いたそれを見ると、縞模様の入った木星が、スケッチブック数ページにわたりスケッチされていた。そしてそれらは、それぞれに微妙に違う縞模様をしていた。
「確かに縞模様も微妙に違うし、あの大赤斑が移動していますよね」
「うん。でもそれだけじゃないわ。ここを見て。木星の赤道の南側に小さな点みたいなものが描かれているのわかる?」
「この小さな点の事ですか?」
 よく見るとそのスケッチブックに描かれている一つのページの木星には、麻里子さんが指を差した所に、小さな点が水しぶきをあげているようなものが描かれていた。
「これは木星に隕石が衝突したときの画よ」
「木星に隕石が衝突?」
「たまにあるのよ、こういうことが。確かにタイミングが合えばこれはカメラでも撮れるけど、スケッチ場合はレンズをいつも注意深く見てるから、こんな小さな変化を見逃さないようになるの。これがスケッチの良いところなのよ」
 僕は、スケッチなどは超アナログであまり意味がないと思っていたが、それはそれで良いところもあるのだろうと思った。
「明日香や俊太君は、まだ星空の基礎を学ばないといけないから、土星や木星はスケッチする方が良いと思うわ。でもこの望遠鏡では確かに細かいところまでスケッチするのは大変かもね。もう少し目が慣れて来たら良いんだけど」
 確かに麻里子さんのスケッチなどを見たら、スケッチをする重要性がわかるような気がした。成果発表の時もスケッチ画を展示すれば来場者の目も惹くだろう。
 それでも僕は、星の写真が撮りたくて麻里子さんのカメラを羨ましそうに見ていた。
「それでも俊太君は写真を撮りたいようね。目がそう言ってるわ」
 僕の物欲しそうにしていた顔はすぐにわかったようだ。
「ふふ。そんな事もあろうかと思ってこれを持ってきたわ。貸してあげるね」
 麻里子さんは僕の気持ちを察したのか、バックから黒い小さな板状のものを取り出した。
「なんですかこれ?」
「これは、スマホ用カメラアダプター。これを望遠鏡の接眼レンズに取り付ければスマホで天体写真が取れちゃうの。いいでしょ」
「へー。こんなものまであるんですか」
 僕は想定しなかったものが麻里子さんのバックから出てきて、少し感動した。
「良かったね俊太」
 明日香さんは僕の方を見て喜んだ。確かにつたないスケッチなので、写真があればよりいいだろう。早速、僕たちはそれをありがたく貸せてもらった。
 麻里子さんに説明して貰いながらカメラアダプターを取り付け、僕は自分のスマホをそこにセットして写真を撮った。しかし、僕の望遠鏡には自動追尾装置が付いていないため、像は少しブレ気味だった。月を写すなら露出時間が僅かなので問題がないが、やはり惑星など、ある程度露出時間が必要なものを写真を撮るためには、自動追尾装置が必要だった。
 それでも何となく土星とわかるその写真はこの望遠鏡で写した記念の第一号だ。僕はそれを明日香さんに見せると「ブレてるじゃない」と、いつものように文句を言ったものの、それを感慨深くしばらく見ていた。
 やはりこの望遠鏡ではスケッチが向いていると思い、僕たちは土星をスケッチすることにした。僕と明日香さんはかわるがわるレンズを覗くが、しばらくすると土星が逃げていってしまう。星は動いているのだ・・・・・・いや地球は回っているのだと実感した。僕はそれを微調整で追いながらレンズに納めた。スケッチと言っても小さい点を大きく描き写すようなものだ。僕と明日香さんは一瞬に見た記憶を頼りに、細部まで再現できるよう心がけた。
 途中休憩を挟みながら、僕たちは木星にレンズを向け同じようにスケッチをした。
「ねえ、さっきの麻里子さんの説明なんかも成果発表の時に取り入れない。『わたしたち天文同好会の特別顧問からの説明』として」
 明日香さんが提案した。
「それは良い考えですね。麻里子さん。当然僕たちのスケッチや写真も文化祭で成果発表しますが、さっきの麻里子さんの土星の輪の話しや木星の隕石衝突などの話しも発表の中にいれさせてもらっていいですか?」
 僕は麻里子さんにお願いをした。
「別に構わないけど、それはあくまで自分たちの成果の付帯事項としてね」
「ありがとうございます」
 僕と明日香さんはお礼を言った。
「あとは部分月食とペルセウス座流星群の観測ね。月はそれが見えれば良いけど、流星群は空が広いところで観測したいわね。とは言っても、いつもこんなロッジに来れるわけじゃないから」
 と言いながら、麻里子さんは少し考えた。そしてしばらくして、
「学校の屋上だったら、観測するのに良いところじゃない」
 麻里子さんがそう言うと、明日香さんは
「屋上には入れないの。前にあそこで生徒達が悪さをするとかトラブルとかがあって、今は生徒は立ち入り禁止になったの」
「屋上には入れないの?」
「・・・・・・って、松下先生が言ってたから」
「松下先生?」
 僕は麻里子さんに松下先生のことを話した。
「松下先生っていうのはうちの高校の養護の先生なんですけど、正式ではないけど一応うちの同好会の顧問って言う事で、面倒を見てもらっているんです」
「そう。松下先生がね」
 麻里子さんがそう言ったので僕は
「麻里子さんは松下先生を知っているんですか?」と訊いた。
「え、ええ。ちょっと昔ね」
 明日香さんと松下先生が親しいのも、そういう関係からだろうか?僕は明日香さんの方に視線を向けてみたが、彼女は知らない顔をしていた。

 やがて夜が更け、午前一時頃を回ると明日香さんは眠そうだった。僕は昼寝をしてしまった事が功を奏したのか、まだ大丈夫だった。
「僕はここでもう少し木星をスケッチしていますから、お二人はもう休んでも良いですよ」
 僕がそういうと明日香さんは大きなあくびをして
「それじゃ、わたしは先に寝るね」
 といって、べットルームの方へ行った。
 すると麻里子さんも自分の天体望遠鏡を片付け始めた。
「今日は本当にありがとうございました。楽しかったです」
 僕がそう言うと
「ううん。わたしの方こそ。それに明日香のこともありがとう。あの子、普通はなかなか他人と溶けこむ事はないのよ。それが俊太君と一緒にバイトをするだとか、旅行に行くだとか言い出して。どういう風の吹き回しかわからないけど、きっと明日香にとって俊太君は特別な存在なのね。これからもよろしくお願いね」
 麻里子さんは優しい目で僕にそう言ってくれた。
 今まで他人に認めて貰えなかった中学時代。そしてそれを変えようと今の高校に入った。「特別な存在」と言われること自体が、ただただ嬉しかった。
 初めて自分の存在価値を認められた気がした。
 自分なんかいても居なくて別に構わないと思っていたが、明日香さんにとって、僕はいなくてはならない存在だと麻里子さんが言ってくれているように思えた。
 僕は麻里子さんが嬉しそうな顔を見るのが好きだった。それと同時に、明日香さんと一緒に居る時間が大切に思うように感じた。
 だれも居ないテラスでは、夜空の星がより輝いて見えた。僕はただその無数の星々を眺めていた。
「明日香さんに取って特別な存在」
 と、麻里子さんが言ってくれた言葉を、僕は頭の中で何回も繰り返した。
 それからしばらくして、僕もやがて眠くなってきた。
 奥の部屋で、眠っている二人を起こさないように天体望遠鏡をそっと入れ、シャワーを浴び、静かに二階の部屋に上がっていった。

 二階の部屋は夕方からずっとエアコンをかけていたおかげで、部屋に入ると快適だった。
 僕は布団を敷き仰向けとなり、電気を消した。すると真上にある天窓から美しい星空が見えた。
 僕はその星々を見ていたが、すぐにうつらうつらと眠りかけた。しかしその時、誰かが近づく気配がした。
「ごめん。起こした?」
 いつの間にか明日香さんは二階まで上がってきて、僕の横に座っていた。
「どうしたんですか?」
 僕は驚いた。そして一瞬、夢かとも思った。
 彼女はそのままでいいからと言ったが、僕は彼女が座っている前で、布団から出てあぐらをかいて座った。
「別に・・・・・・。ちょっとお礼が言いたくなって。今日はありがとうって」
「お礼?それは麻里子に言って下さいよ。麻里子さんには本当に感謝しています」
「俊太は麻里子さんの事が好きなの?」
 いきなり直球を投げられてもどう答えて良いのかわからない。確かに好きには違いないが、それは明日香さんが投げかけた問いとは少し違う気がした。
 僕がしばらく黙っていると、
「麻里子さんの事は好きにならないでね」
 彼女は小さい声でそう言った。その言葉には女性の嫉妬の気持ちが入っているのではと、その時は思った。
 僕が小さく首を縦に振ると、明日香さんは少し笑って、
「それよりこの部屋、こんな大きな天窓があったのね」
 彼女は天井の大きな天窓を見上げてそういった。
「この天窓は結構星空が楽しめますよ」
 大きく斜めになっているこの天窓は、丁度東の方に向いていた。真っ暗な部屋からは満天の星が輝いていた。
「ねえ、俊太」
「はい」
「人は死んだら星になるって知ってた?」
「なんかそんなこと子供の頃に聞いたことがあります。でも、もしそれが本当だった毎日凄い勢いで星が増えてしまいますよね」
 僕は口に出してしまってから、なんとも間抜けは事を言ってしまったと後悔した。
「ふふ、俊太らしいことを言うのね」
「自分の大切な人が亡くなったら、星空を見て『あれがあの人の星』って決めるの。そういうことよ」
「そうですね。そういうことですよね」
「もしものことがあった場合。わたしの星を決めておいてね」
 星明かりだけの微かな光の中の部屋で、明日香さんは小さい声でそう言った。それを聞いた途端なぜか無性に悲しい気持ちになった。僕はその気持ちを払拭するように、あえておどけたように
「大丈夫ですよ。明日香さんが死ぬなんて事は絶対にありませんから」
 僕はできる限り明るい声で言った。すると彼女は笑顔を見せて、
「ありがとう。もう下に戻るね。眠くなっちゃった」
 座っていた明日香さんは立ち上り、ドアの方に向かおうとした。その時「あっ」と、何か忘れたような声を出して再び僕の前に座った。
「忘れ物しちゃった・・・・・・」と彼女は囁くような声で僕の右の頬に近づいてきた。
 彼女の石鹸の匂いを感じるくらい、彼女の体温を感じるくらい近づいてきたことはわかったが、全てが一瞬の事で僕の身体はそのまま止まっていた。
 そして突然、僕の右頬に柔らかい彼女の唇が触れた。
「えっ・・・・・・」
 それは本当に一瞬だった。僕はわけがわからず、あぐらをかいたままの体制だった。
 彼女はすぐに僕から離れて、急いで部屋の出入り口まで行くと
「ヒミツだからね」
 と人差し指を自分の口に当て、そっとドアを閉めた。
 僕は自分の手を、そのキスされた所に持って行って、彼女の柔らかい唇の感触を確かめた。
 僕は、彼女が階段を降りる音を聞きながら、夢を見ているのではないかと思った。僕はもう一度その右頬を手で触ると少し濡れていた。そしてあの瞬間を何度も思い返した。

「俊太。朝ご飯できたよ」
 朝になると、階下から叫ぶ明日香さんの大きな声がした。
 昨夜のあの出来事からすぐには眠ることはできなかった。やっと寝ることができたのは明け方に近かった。
 僕は眠そうな目を擦りながら下に降りると、麻里子さんが朝ご飯の用意をしていた。
「おはようございます」
「あら、ずいぶん眠そうね。枕が変わってあまり眠れなかった?」
 麻里子さんは僕を気遣うように言ってくれた。麻里子さんが昨夜の出来事を知るはずはないのだが、何となく目を合わせ辛かった。
 明日香さんは既に食卓についていて「俊太、おはよう」と何事もなかったかのようにいった。
 僕もなるべく普通に「おはようございます」と言った。 
 歯を磨きながら、昨夜のことは夢だったのだろうかと僕は再び右のほっぺたを触った。
 もちろんそこには何かがついているわけでもないが、昨夜の柔らかい感触はそのままだった。
 朝ご飯を食べ終わると、また例のボックスから明日香さんはたくさんの薬を取り出して飲んでいた。
『それはなんの薬?』と訊こうと思ったとき麻里子さんが、
「俊太君、ちょっと手伝ってくれる」
 天体望遠鏡をケースに入れたい麻里子さんは、それをここまで持ってきて欲しいと言った。
「はい」
 僕はリビングの隅にあったケースなどを運ぶと麻里子さんは鏡筒や重い架台をそれぞれのケースに入れた。その中で鏡筒のケースには乾燥剤が入っていた。
「レンズにカビが来るといけないから乾燥剤を入れるのよ。俊太君のにも入れておいた方が良いわよ」と教えてくれた。
 そんなやり取りをしていると、明日香さんの薬のことは聞きそびれた。
 結局、僕が起きるのが遅かったせいで、そのロッジを出るのはチェックアウト時間ギリギリになってしまった。

 帰途の車の中でも僕は、昨晩の出来事を繰り返し思い出していた。
「どうしたの俊太君。ぼーっとして」
 麻里子さんがルームミラー越しに、少し心配そうに言った。
「いや。ちょっと寝不足かも・・・・・・」
「そう、ちょっと寝てても良いわよ」
 麻里子さんのその言葉に、助手席にいる明日香さんも頷いていた。彼女は来るときと同じように、車窓から見える風景を涼しげに見ていた。
 僕にとって、明日香さんは特別な存在になりつつあった。
 夏休みは始まったばかりだ。これからいつも明日香さんと天体観測や会の活動ができる。そう思うと、僕の気持ちは窓から見える青い空のように、どこまでも行けるような気がした。


 夏は天体観測に向いている時期だ。冬の方が空気が澄んでいて良さそうだが、寒冷前線などが通過すると大気が不安定となりあまり観測には向かない。それに対し夏は、大気が安定していて揺らぎが少ない。その上、夏の方が見える星の数が多いのだ。
 夏の夜空は条件が合えば天然のプラネタリウムだ。
 ロッジの合宿から数日経ったある日、何がどうなったのか、学校からペルセデウス流星群の夜に限り、屋上を使用しても良いと言われた。屋上へは校舎内の階段を使わず、校舎横の非常階段を使うようだった。但し非常階段への鍵を持っている教員が一人付くという条件でだが。
「わたしは、星空の事は何も知らないからそれは承知してね」
 部室に来て、その内容を教えてくれたのは松下先生だった。そして、その付添つきそい役も松下先生がしてくれると言う事だった。
 僕は、この前のロッジでの合宿の時に麻里子さんが、松下先生のことは知っていると言ったことを思い出していた。
 もしかしたら麻里子さんが何かしてくれたのかも知れない。
 僕と明日香さんは松下先生にお礼を言った。
「お礼なら麻里子に言ってね。彼女がわざわざ学校に頼みに来たんだから」
 やはり思った通りだった。もちろん麻里子さんにもお礼を言わなければならない。
「ありがとうございます。これで夏休みの夜空についての観測が捗りそうです」
「でも、先生と麻里子さんはどういう関係なんですか?」
 そのつながりは全くわからなかった。
「そうね。昔から麻里子とは色々縁があるのよ。もっとも、いつもわたしに頼み事ばかりだけどね」
 先生はそれだけ言うと、きびすを返し後ろ向きに手を振りながら部室から出て行った。
 僕は明日香さんにも、
「麻里子さんと松下先生はどういう関係か知っている?」と訊いた。
 すると明日香さんは
「わたしもよく知らないんだけど、なんでも麻里子さんが高校生の時の、新任の養護の先生だったみたい」
「今のうちの高校の?」
「たぶんね。松下先生は3年前にうちの学校に赴任してきたらしいけど、うちの高校は2回目だって言っていたわ。だから麻里子さんが在学中に勤務していたかも知れないわね。わたしがここの高校に入学した時、松下先生はわたしの事を知っていたから、きっと麻里子さんから聞いていたんだと思う。麻里子さんがこの近くで働いていると言うことを松下先生に言ったら喜んでいたから、昔から仲がよかったんじゃないのかな」
 明日香さんの口ぶりだと、あまり詳しいことは知らないようだ。
「でも、先生と麻里子さんが偶然にも知り合いで良かったですね」
 僕がそう言うと明日香さんは少し間を置き、「本当に偶然かしら?」と言った。
「どういうことですか?」
 明日香さんは何かを考え事をしているようにして
「なんとなくそう思って」
 と腑に落ちさそうに言った。
 その日、僕は部室で今後の計画の具体的な活動を、部室の黒板に改めて書いて、明日香さんと確認した。

 今後の計画
1、合宿で描いた木星と土星のスケッチの展示パネルを作る。それと麻里子さんから写真も借りて、夏の惑星の成果発表の展示パネルも作る。
2、8月8日の月蝕については、部分月蝕ではあるがその月が欠けていく様子を観測し写真を撮る(カメラは麻里子さんのものを借りる)観測場所はこの部室の前。
3、13日のペルセデウス座流星群。肉眼で見える流れ星の数をカウントする。当日は月が出ているので観測条件としてはあまり良くないが、そんな中でもいくつ見える流れ星をカウントする。
4、ケプラーの法則の解説パネルを作る。
5、麻里子さんの所の工場でバイトする。資金調達(お盆まで)
 この五項目を書いた。
 すると、明日香さんが
「ねぇ。別にケプラーの法則なんてどうでもいいんじゃない。観測に関係ないし、そもそもなんか浮いてるよ」と言った。
「でも、この前も言ったけど、月蝕やペルセデウス流星群の日がもしも雨や曇りだったどうするんですか?ケプラーの法則とかなら図書館で調べて発表できるじゃないですか」
 僕がそういうと明日香さんは、渋々納得したようだった。
「そもそも、この部室に『ケプラーの校則』なんて変な訓示みたいなものがあるのが不思議なんですよね」
 僕はそう言ってそれが書いてある額縁を見つめていた。
 すると明日香さんが
「あっ」
「どうしたんですか?」
「あの訓示を縦に読むとケ・プ・ラとなるよ」
 そう言って明日香さんは指を差した。
 僕も明日香さんの指先の向こうを目で追った。すると確かに
「稽古は嘘をつかない」の頭文字は『ケ』だ。そして「プランを立てて」は『プ』。「楽をしようとせずひたすら地道に」の頭文字は『ラ』だ。
 確かにそれらの頭文字を縦に読むと「ケ・プ・ラ」と読めた。
「そういうことなんだ」
 明日香さんは納得したように小さな声でそう言ったが、だからどうだと言うんだと思った。
 しかし恐らく、授業でケプラーの法則を習った誰かが、そのパロディーのようにこの校則とやらを作ったに違いないとは思う。
「そう考えると、上手くこじつけていますよね」
「そうね。たぶん当時の演劇部員の人たちはこの言葉を訓示しながら、部活に一生懸命励んでいたんだと思うわ」
 それは一つの発見であった。と同時に、『どうしてケプラーの法則なのか?』と言う疑問が残った。授業で習う法則系のものなんていくらでもあるだろうに。
 でもそのことについては深く考えずにいた。
 とりあえずその5項目について明日香さんに説明すると、僕たちはさっそくその計画を実行に取りかかった。
 部員数は相変わらず二人だった。しかし、天体望遠鏡も買ったし、限定的だが学校の屋上での観測もできる。今なら部員の勧誘もできそうだったが、僕はそれをしようとはしなかった。明日香さんも部員の勧誘の事は何も言わなかったし、何よりも今は彼女と二人でいることが心地よかった。この部室はいつの間にか僕たちの秘密基地となった。
 僕はそれで十分だった。
 数日が過ぎるとやがて8月に入った。今夜は部分月蝕だ。
 今夜は松下先生が付き合ってくれるはずだったが、急遽都合がつかなくなったらしく、麻里子さんが付き合ってくれることになった。僕は松下先生のピンチヒッターが他の先生じゃなくて麻里子さんになったことは嬉しかったが、麻里子さんと松下先生は何か連絡でも取り合っているのだろうかと思った。
 そのことを明日香さんに聞いても
「麻里子さんは父兄と言うことでいいんじゃない」
 と、ピントが外れた答えをした。
 ただ、今夜は屋上には上がらす、この部室の前の庭で観測をする。月は欠け始めから、高い位置で観測できたので、この部室の前の庭でも十分だった。
 僕は望遠鏡を組み立てると、先日買ったスマホアダプターを取り付け、月の写真を撮る事にした。月が相手なので、撮影も割と簡単だった。麻里子さんは僕たちとは違い、天体望遠鏡は使わず、一眼レフのデジタルカメラを三脚に載せ、三五mmの通常レンズで月が欠けていく様子を連続写真で撮った。
「これで部分月食の写真もバッチリですね」
 僕が満足そうにいうと麻里子さんは
「本当は皆既月蝕だと月が赤銅色になって綺麗なんだけどね」
 少し残念そうに言った。
「でも『この夏休みの星空』がテーマですから、この夏に起こることが重要なんです」
 僕は“この夏”と言うことを強調した。
 僕と麻里子さんが話していると、明日香さんは、いつの間にか持ってきたリュックサックを開け、そこからレジャーシートを取り出して広げた。
「どうしたの?」僕が訊ねると
「だって、お月さんだけ見てたんじゃつまらないでしょ。夜のお供に・・・・・・」
 彼女はそう言って再びリュックに手を入れ、クッキーやチョコレート、それにスナック菓子と缶コーヒーを出してそのレジャーシートに並べた。
 明日香さんはいつものようにピクニック気分だった。今までの僕ならそれを見て小言の一言でも言うだろうが、今はその明日香さんが微笑ましかった。
「麻里子さんも一緒にどうですか」
 僕がそう言うと、麻里子さんは嬉しそうに「それじゃ、わたしもいただくわ」と言った。
 それは、この前のロッジでの合宿と同じように楽しい夜だった。もちろん今回はあの時のように夜更かしはできないが、それでもこんな時間がいつまでも続くといいと思った。                     立秋が過ぎ、いつの間にかお盆の頃になった。それでも夏の日差しは容赦なく照りつけ、青い空は広がっているが、蝉の声は少しずつ変わってきた。季節は少しずつ、晩夏を思わせるようになった。
 先日の月蝕を観測した結果をまとめるとか、また、ロッジで観測した土星や木星の写真やスケッチをパネルにするなど、日中の部活もそれなりに忙しかった。
 僕たちはいつの間にかケプラーの法則を図書館などで調べるなんてことを忘れていた。
 それにすぐさまペルセウス座流星群の日もやってきた。その夜は満月と重なり、観測条件は悪かった。
 今夜は予定通り松下先生が付き合ってくれるのだが、麻里子さんも一緒にどうですかと誘ったが、今夜は都合が付かなかったらしい。
「わたしは付き合うだけよ。解説などは一切できないから、そこは勘弁してね」
「いや、全然。ありがとうございます」
 松下先生は星のことはあまり詳しくないと言った。でも、ここに付き合ってくれるから屋上を使用できるわけで、それだけでありがたかった。
 とはいえ、バイトはお盆前に終わり、麻里子さんに会う機会がなくなってきたことを、僕は少し淋しく思った。
「実はわたしは今まで流星群というものを見た事がなかったの。今夜はそれが見られると思うと楽しみだわ」
 松下先生はなんだか楽しそうだった。
 先生はブラウンのパンツに白い半袖のブラウスという姿だったが、カーディガンも持っていた。
「カーディガン。要りますか?」
 僕がそう言うと
「日中はまだまだ暑いけど、お盆を境に夜中は少し冷えるのよ。明日香さんも上に羽織るもの持ってきたの?」
「いえ。だって、まだ暑いし」
「ダメよ。でもたぶんそう言うと思ってもう一着持ってきたの。寒くなったらこれを使ってね」
 先生は明日香さんに黒のカーディガンを差し出した。先生は明日香さんの体調をかなり気にしている感じだった。
 流星群は夜半過ぎに活動が活発になる。今夜の月の出は10時頃だ。月の出る時間と重なるのは困るが仕方がない。これがこの夏の星空なのだから。
 僕たちはレジャーシートを敷き、蚊取り線香を3個置いて3人で寝そべった。
 月は既に出ていて明るいが、一つだけ大きな光の筋が夜空を走った。その時、明日香さんは小さく歓声を上げた。僕はその声をよそに、流れ星を数えるためのカウンターをやっと1回押した。
「流れ星にお願いを3回言うと叶うって言うわね」と松下先生が言った。
 僕はその言葉に頷いたが、なかなか現れない流れ星を見つけるのが精一杯で、お願いどころではなかった。
 それにもし流れ星が現れても、一つの流れ星はせいぜい0.5秒以内だ。とても願いを三回も言えるはずがない。僕がそう思って暫くすると、今夜最大の流れ星があった。実際は1秒あるかないかだったが、それは凄い長く明るい線に思えた。その時、隣の明日香さんは、何かを必死にお願いしているようだった。
「何をお願いしたんですか?」
「そんなの秘密よ。叶ったら教えてあげる」
 明日香さんはいつものように言った。
「俊太は?」
「それどころじゃありませんよ」
 僕は目線をペルセデウス座方向に向け、しばらく流れ星が現れない空を見つめながら言った。しかし、なぜかそんなやり取りが妙に楽しかった。
 明日香さん何をお願いしたのだろうか?
 僕は流れ星にはお願いはできなかったが、こんな楽しい日がいつまでも続けばいいと思った。いつまでも、いつまでも・・・・・・。
 しかし、それはいつまでも同じと言うことにはならない。僕はそれにまだ気が付いていなかった。

第4話  ケプラーの校則 第4話(真相)|Akino雨月 (note.com)

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