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アゼルバイジャン語正書法についてのメモ

現在のアゼルバイジャン語がラテン文字で表記されるということはよく知られていますが、この文字表記について、正書法の扱いはどうなっているのだろうか?という素朴な疑念が頭をよぎったので、そのあたりのことを昨日来ちょっと調べていました。

それで、バクー市内で入手していた資料あるいは本の中に、表記法についての解説があるものがないかなど探していたのですが、この期に及んで肝心の『正書法辞典』を買っていなかったことに気づくというありさまです。

うーむ我ながら、夏に夏期講座で文字の話をするつもりだったのに、なんという不手際でしょう(それ以上に、辞書が手元にないことがくやしい!)。しかし仕方がない、こういう言語政策に関することはきっとインターネット上に何かソースがあるだろう…

と思って、アゼルバイジャン語で"orfoqrafiya"(「正書法」はアゼルバイジャン語でこうつづります。借用元はロシア語でしょうかどうでしょうか)でググります。すると…なんと。その『正書法辞典』がPDFで堂々と、しかも国立図書館のデータとして公開されているというですね…

これによりますと、正書法はアゼルバイジャン国立科学アカデミー、(ネシミー(Nəsimi)名称)言語研究所によるものということでよさそうです。まえがきの部分を読みますと、現行のラテン文字の正書法については、2004年5月26日に正式に国会で批准された、とあります。ハイここ、テストに出ますよ(出ません)。


なぜこれが気になったかというと、いわゆる「大文字で表記するところ」というものがアゼルバイジャン語で決まっているようなのですが、トルコ語のそれとはやや違うことが以前から気になっていたのです。

たとえば「アゼルバイジャン語」を表す語、azərbaycancaは語頭が小文字で表記されます(ただし、「アゼルバイジャン+言語」のような複合名詞で表す場合があり、そのときは大文字で"Azərbaycan dili"と書きます)。

また、トルコ語から入ってアゼルバイジャン語を見たときにもう一つ気になるのが、アポストロフィーを使わないという点です。

たとえば、固有名詞のあとに格語尾などの接辞や語尾をつけると、トルコ語では固有名詞とそれ以外の要素の間にアポストロフィーを入れますが、アゼルバイジャン語ではそれがないのです。

(1)(トルコ語)
Bakü'de「バクーで」(「バクー」+位置格語尾-de/-da;アポストロフィーあり)
(2)(アゼルバイジャン語)
Bakıda「バクーで」(「バクー」+位置格語尾-de/-da;アポストロフィーはつけない)

この違いも、以前から気になってはいました。研修用のテキストを書き進めるときも、このあたりの「誤用」が私の書いた下書きには多数あって、共著者の先生にずいぶん直してもらったことでした。

Bakıda da pişiklər var.
(バクー-に も ねこ-複数 いる)
「バクーにもねこがいます」

さて両言語の正書法の方針に違いがあるとして、では正書法を定めているのはどこなのか、というところが気になったわけです。

トルコなら、国の言語に関する研究機関である「トルコ言語協会」がひとまず正書法を定めていて、語学書などはこの正書法に従って表記するのが一般的です。では、アゼルバイジャンは?どこがその正書法の権限を担保しているのだろうか?という興味がわいた次第。

アゼルバイジャン、バクー市内のオペラ劇場関係の張り紙。右の紙、上の「2021年12月4日」の部分に注目すると、なるほど"dekabr"と、月名ですが語頭は小文字ですね。

というわけで、正書法事典(辞典?)。冒頭のほうに綴りについて、どういった語を大文字で表記するかも含めて、ひとまずのルールを定めてあります。

これによれば、人名、創作物中における登場人物や固有の事物、歴史的出来事、国名または自治共和国等の名称といったものは大文字で書かれるとされますが、それ以外、つまりここで言及されていないものはそのまま小文字で表すということになりそうです。

したがって曜日や月名なども、文中で用いる際にはそのまま小文字で(もっとも、アゼルバイジャン語では曜日は月曜から順に1番目の日(birinci gün)、2番目の日(ikinci gün)…と呼ぶことが多いようですが)書くということになります。

ちなみに、トルコ語のほうの正書法についてはこちらのリンク先が参考になるでしょう(トルコ語で説明されていますが)。

これによりますと、トルコ語のほうでは「日本人(Japon)」「トルコ人(Türk)」といった民族名はもちろんのこと、固有名詞から派生した語も大文字で表記するということになっているので、「日本語」(Japonca)、「トルコ語」(Türkçe)なども大文字表記ということになります。

地味ですが、このあたりをちゃんとそれぞれの言語の正書法を意識したうえでそれぞれ書き分けるというのは大事なところだと言えます。両言語やっていると、なかなか頭がこんがらがりそうな話ではあるのですが。

無用なツッコミを受けないためにも、トルコ語・アゼルバイジャン語ともに、大文字にするかどうか迷ったら正書法のガイドを見直すということはしておこうと改めて心に誓う昨今です。

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