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放射能が襲った悲劇の山村で見つけた  雪と氷が作り出す自然の造形美     これも除染で破壊されてしまうのか

 福島第一原発事故で、全村民約6500人が強制的に避難させられる悲劇に見舞われた福島県飯舘村の話の続きを書く。前号、2018年2月19、20日に訪れた報告の続き、補足である。

 今回は、村の自然の美しさを写真でお見せしたいと思う。

 標高500メートルの高原にある飯舘村は、同原発のある太平洋岸の平野部より厳しい冬を迎える。雪と氷がを覆う(太平洋岸は雪が積もること自体がほとんどない)。

 とはいえ、新潟県や山形県のような「豪雪地帯」のような雪の積もり方はしない。昼間は気温が0度前後にまで上がる。日が当たる。雪が溶ける。しずくが落ちる。また夜になると凍る。それを繰り返す。すると、しずくの粒をつなげた、女の髪のような細長いツララが伸びるのだ。

 そのしずくが風に吹かれると、ツララがカーブしながら伸びる。

 村では、そうやってできた、くるくると巻いたツララをよく見た。剣のような太くてまっすぐなツララではなく、セイウチのヒゲのように巻いているのである。

 そんな村の自然の美しさは、私が出した写真集「福島 飯舘村の四季」(双葉社)に収められている。

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(2012年1月24日撮影)

 それは飯舘村でしか見ることがない、自然の造形美である。

 中でも私が大好きで、冬の村を訪ねるたびに足を運ぶのは、北部を流れる真野川の渓流である。

 その渓流そばの道路沿い、約100メートルにわたって、山の斜面を氷の滝が覆っていてるのだ。

 2011年から翌年にかけて、私は村に通いつめていた。原発事故から最初の四季の自然を写真で記録するためだ。そのときに見つけた。

 この「氷の滝」を記載している観光ガイドを見たことがない。その先の集落の取材に行くためにレンタカーを運転していて、偶然目に飛び込んできたのだ。

 山の斜面を雪解け水が流れ落ちるうちに、凍ったりとけたりを繰り返してできたようだ。

 まっしろな氷の滝に、木漏れ日が反射してキラキラと光る光景に、私は息を呑んだ。それは「神々しい」としか言いようがない、自然がつくった奇跡だった。

 それ以来、私は冬に飯館村を訪ねるたびに、この場所に足を運ぶ。

 毎年同じではないことに気づいた。暖冬の年は氷の滝は姿を現さない。寒さの厳しい年には氷柱が丸々としている。

 原発事故後、初めての冬は厳しかった。氷の滝も太かった。2018年2月は、その年より巨大な氷が連なっていた。なるほどこうやって昔の人々は冬の厳しさを知ったのだと思った。

 これまで、この氷の滝を「ぜひ見に行け」と勧めた村人は一人もいない。彼らにとっては、あまりに当たり前で、珍しいとも思わないのだろう。だから氷の滝は、誰にも知られず、山深くひっそりとたたずんでいる。

 私がもっとも恐れているのは、この山の斜面も「除染」で削り取られてしまうことだ。場所は除染対象である「生活圏」=道路沿いだ。除染で山肌が削り取られ、水をためる腐葉土が捨てられてしまったら、この美しい自然美も消えてしまうかもしれない。

 絶対にそれは起きてほしくない。しかし、そうなってしまった日が来た時に備えて、ここに記録を残す。

(以下、写真は特記のないかぎり2018年2月19、20日撮影)


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放射能が襲った悲劇の山村で見つけた  雪と氷が作り出す自然の造形美     これも除染で破壊されてしまうのか

烏賀陽(うがや)弘道/Hiro Ugaya

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ジャーナリスト・フォトグラファー 1963年京都市生まれ。京都大学経済学部卒。 コロンビア大学修士課程(軍事学)終了。 朝日新聞社記者を経て2003年からフリーの報道記者。 アマゾン著者セントラル:https://www.amazon.co.jp/-/e/B01MF8GG1A