![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/146463989/rectangle_large_type_2_dd3ae6a035b9e52379eeb1647893caf4.png?width=800)
【創作大賞2024エッセイ部門】 竹中問題。
拝啓
竹中直人さま。どうか貴方のことについて書くことを許して欲しい。
ここに記すことで、長らくわたしを悩ませてきた問題にケリをつけたいのです。
心と額の広い貴方のことだから、きっと、許してくださるでしょう。
たとえ、怒っていたとしても、笑いながら。
魅力と才能あふれる貴方のご活躍を、心よりお祈りしています。
敬具
皆さんには、どうしても思い出せない名前というものはないだろうか。
わたしには、どうしても思い出せない名前がある。
竹中直人、だ。
何かの祭典のように、数年に一度、その発作に見舞われる。
二年に一度ならタケナカナオト・ビエンナーレだし、
三年に一度なら、ナオトタケナカ・トリエンナーレだ。
名前の響きから美術祭を名を冠してみた。微妙な違いを気にされている方もいるかと思う。しかし、無視する。すまない。大人の事情だ。先を急ぐ。
そういうときに、人はどうするか。
わたしの調査によると、この星には二種類の部族がいることがわかっている。
一種は、関係しそうな言葉やイメージを列挙していく種族である。差し当たって、マサイ族と呼んでおく。えげつない身体能力に基づく瞬発力を特徴とする。
彼らの流儀は、こうだ。
「ほらっ、ほらっ、えっと、えーと、笑いながら怒るおじさん!バラエティだと正気じゃない眼をする瞬間があってさ!ほぼ片岡鶴太郎でも良いんだけど!ちょちょちょい違くて!角度によっては温水洋一でさ!ほら、ねえ、ん゛ああっ」
もう一種は、あいうえお順に人名を挙げ、獲物(当たり)を狩る種族。こちらはボウソウ族と呼ぼう。
行き場のない寂しさと孤独を抱え、仲間たちと温もりを求めて夜の街をさふらつき、誰かの喧嘩の話に熱くなることを特徴とする。
見た目に反して義理堅い彼らは、仲間を大切にる。情に厚い。ならば、こうだ。
「あ。青島幸男。意地悪婆さん、元都知事。(違う。)
い。石原良純。まゆ毛。コンドロイチン。(違う。都知事につられてしまった。)
う。上島竜兵、絶対押すなよっ。ヤー。(違う。思い出すと、泣けてくるよ、竜ちゃん)
え。えなりかずき。(違う。だってしょうがないじゃないか。)
お。大仁田厚。ファイヤーっ!!(違う。彼はまだ流血してるのだろうか?)」
そうこうしている内に、本丸に辿り着く。
ほら、獲物は目の前だぞ。
捕獲の瞬間が迫り、部族の間にも緊張感が走る。
た。
た。
た。
ほら、た、だよ。
た。立花孝志。NHKの広告塔兼政治家。特技は、破壊すること。(違ーーーうっ!)
見事にスルーしてしまう、ボウソウ族のわてし。
別日はどうか。
た。
た。
た。
ほら、ほら〜。
た。舘ひろし。ダンディー鷹山(御年74歳)。泣かないでぇ〜♩(違う。石原軍団多いな。だってしょうがないじゃないか。世代なんだもの。)
こんな風にして、長年、竹中直人という名前を思い出せない症状を抱えていたのだ。
わたしは、もう、若くはない。
記憶するための脳細胞は枯渇し始めている。
時折、かつて記憶を担っていた脳細胞の残骸が、カサコソと音を立てて、耳の穴からこぼれ落ちる。
それは一見、耳垢に似ている。しかし、目を凝らしてよく見ると小さな文字が記されている。ような気がする。
脳内には記憶の森が生い茂る。
木の枝には記憶の葉が生えている。
その一枚一枚が、これまでの人生で得てきた記憶たちだ。色や形は違えど、どれもが愛おしい。
ヴッヴッヴッヴッ、ヴァイイイイイイイーン!
ヴゥインッ、ヴゥインッ、ヴゥイイイイーン!
遠くでけたたましい機械音がする。
100dB超えの音が無慈悲に響き渡る。
小悪魔ポチタが記憶の森の木を伐採しているのだ。
誰が頼んだ訳でもない。
もの忘れの始まりの合図。
これも人のさだめ。
何人たりとも逃れることのできない宿命と言えよう。
「うふふふふっ♡」
直人が笑いながら記憶の森をすり抜けていく。
ポケットのなかのビスケットが割れる。
「ちょ、待てよっ★」
木村なわたしが直人の後を必死に追う。
ポケットのなかのスーパーボールが揺れる。
五分も追えば、わたしの息は上がる。
心の臓が早鐘のように激しく打つ。壊れたシンバルモンキーのようだ。血走った眼をしたシンバルモンキー、、、なんか怖い。
わたしにこれを続ける体力は残されていない。舞台は、いつか、終わるものだ。
だから、今回、この『数年おきに竹中直人の名前を思い出せなくなる問題(略して、竹中問題)』に終止符を打つべく、ここに書き記すことにした。
サッとスマホを取りだして、トトトンと入力する。まったく、便利な世の中になったものだ。
これで、よし。
もし、また、思い出せないときがあっても大丈夫だ。ちゃんと、書き残してある。ふは、ふははは。
ほら、あそこに。
ほら、あれだよ、あれ。
あれ、あれ?
あ。あれ、なんだっけ?
い。インスタグラム。(違う。)
え。エックス。(違う。)
、
、
、
の。ノーション(違う、、、気がする。)
そうなったら、どうしようか。
だが、もし、そうなったとしても、心と額の広い彼は笑いながら言ってくれるだろう。
「ふざけんじゃねえ、コノヤロー!」
さて、あなたにとっての竹中直人は、誰だろうか。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/147038194/picture_pc_404d9bc8628bef9d1965473dd7386e22.png)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?