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【小説】夜の歩調を合わせて。3話 小林佳菜子ノ章

告白

「貴女の事が好きです」

聡太が真剣な顔で私に想いをぶつけてくれた、喜びの感情が私の胸にあふれる、

はい、私も貴方の事が大好きです、

抱きしめ合ってキスをした、2人で見つめ合いながら口を開いた、そして言葉が重なった

「「そうだ、鈴音ちゃんに報告しないと。」」

私達2人は幸せになります、そして成人したら2人でこの街から飛び出して、絶対に貴女に会いに行きます、松河鈴音ちゃん


夜の歩調を合わせて。3話 小林佳菜子ノ章

普段通りの平穏な昼時、平穏は退屈じゃ無くて宝物の様に貴重で、掛け替えの無い至福の日常、これから語る親友が去り際に

恋愛に臆病だった二人の背中を、そっと押して繋いでくれた今現在

そして此れからも続く愛しくて大切な日常と時間

娘が持ってきたノートの作者は、そんな私達の恩人で大切な親友

松河鈴音

夜を愛してた彼女には、少し悪いと思うけど、この穏やかで暖かな空気が充満した、この昼時に

彼女に付いて語ろうと思う

松河鈴音は同じ女性で有る私から見ても、夜の夢から飛び出してきたのでは? と錯覚させられる程のの美少女だった、それでいて

何処を見ているのか、何を考えてるいるのか、皆目検討も付かない摩訶不思議な不思議ちゃんな所も有った、私は小さな街で幼稚園から鈴音ちゃんの幼馴染だったけど、物心付いた頃には、その人格は既に完成されていたように思う、そう、あの娘は違和感を感じないぐらいに未成熟な子供時代から個の人格として完成されてたと思う、流行りのアニメにも流行りの男性アイドルにも影響されず

ただただ、その瞳は日常に非日常を写して、それを心の底から楽しそうに微笑んでる様に思えた

それでも鈴音ちゃんは、虐められたり、集団の輪から弾かれたりはしなかったのよ

確かに不思議な言動は多かった、でもそれは物凄い迂遠な言葉の羅列だけど、最後まで聞くと物事の本質を的確に表してる、そうじゃ無くても鈴音ちゃんの口から出てくる、その言葉は、何処か詩的で物語を語って聞かせてくれるお母さんみたいだった、小さい子供達には同い年の鈴音ちゃんが、自分達と同じ目線でお話してくれる母親みたいに映ったのね

他と迎合しない、独自のポジションに立った鈴音ちゃんは人気者だったわ

芯が強くてしっかり者、言動だって同世代の子供達から見たら、不思議な所もミステリアスな大人の女性に見えてしまうもの、それでいて外見は、澄んだ湖に映り込む新月みたいな儚げな美少女

ちょっとだけ、卑怯だと思わないかしら?

それでいて嫌いになれない、誰の心にも自然と寄り添える、それなのに彼女の心に寄り添う事は、きっと誰にも出来なかったのよ、本当に嫌になっちゃうわよね、

でも

そんな彼女が、お母さんもお父さんもとっても大好きで、心からの親友だったの

鈴音ちゃんは今どうしてるのかって? 

そうね、きっと夜の夢でも探してるのよ

皆で探したのよ?

でも鈴音ちゃんの御両親も、私達も、鈴音ちゃんと関係した誰もが、心では理解してしまったの、誘拐でも拉致でも無い。

あの娘は夜の夢を探しに出たのね

皆が、そう思ってしまったの、そして誰もが絶望して、そして誰もが希望を持ってるの、あの娘の気紛れ1つで、また私達の前に顔を出してくれるかもって

何かの犯罪に巻き込まれた可能性が有るんじゃ無いの? ですって、それはちがうのよ、だって別に鈴音ちゃんは、完全に失踪した訳じゃ無いのよ、鈴音ちゃんは日本各地の住所から年に1回、年賀状だけ送って来てくれるのよ、勿論家にも毎年届いてるわよ、後で見せてあげるわね

だから絶望はしてないの、それでもやっぱり幼馴染だから、少し心配してしまうし、寂しい気持ちになる時も有るわね

お父さんが偶に、新月の夜は庭先で、お酒を飲んで月を眺めてる時が有るでしょ、あれは残念ながら、ロマンチックに目覚めた訳じゃ無いし、静かにお酒を嗜む大人になった訳でも無いのよ、あの人曰く

「アイツが一番ふらふら出歩いてたのは、今日みたいな新月の夜だったからな、何年も何年も、俺達から大切な友人を隠しちまった月と、何時まで経っても自由奔放で、周りの人間を心配させるアイツに、文句を言ってたのさ……佳菜子も一緒に飲もうか、お酌するよ。」

ですって、少し妬いてしまうわよね、お父さんの鈴音ちゃんに対する思いは友情、それこそ幼馴染のバッテリーが一緒に甲子園を目指すような、そんな物語に出てきそうな熱い友情、でもお母さんとお父さんの愛情も凄いのよ、私達が鈴音ちゃんに感じてる友情と同じぐらいに情熱的なの

惚気は、産まれた瞬間から聞かされてるから間に合ってます、ですって? まったく、つれない娘ね

でも、そう言う事よ、私達は鈴音ちゃんを、心配してるし、寂しいって感じてしまう時も有るけど、別に諦めてなんて少しも無いの、きっとまた会えるもの

だって子供の頃から、鈴音ちゃんの口癖は

「うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと」

だったから

きっと真実の夢に辿り着いても、辿り着いたら

私達が待ってる現世の夢に帰って来てくれる

そして

「久しぶりね、元気してたかしら? 突然だけど私とっても面白い物を発見したのよ、内容はノートに纏めたから読んだら感想をちょうだい、そして時間が出来たら聡太も連れて3人で、そうだったわね、佳菜子と聡太には息子と娘も産まれたのよね、それじゃぁ息子さんはきっと、私の将来の旦那様ね?いやいや、ちょっと冗談よ、そんなに怒らないで。 でもそれなら楽しみが増えたわね、それじゃ2人も連れて、5人で私が見つけた幻想を見に行きましょう、大丈夫、きっと面白いわよ」

そんな言葉を、少しだけ調子に乗って、私達に話してくれるのだろう

ノートの内容? そうねぇ、このノートはね……

暖かな昼のひと時に

「リーン」

夜の音がした

私が話してるのか、鈴音ちゃんが話してるのか

私の中に広がった鈴音ちゃんと、私が少し混じった

そんな気がした。




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