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マスクが仮面化する前に。あなたの心はだいじょうぶ?

緊急事態宣言が明けてから、徐々にマスク着用で出社し仕事をする人たちが増えてきている。街行く人々もほとんどがマスク姿だ。
 
そんな中、ふと「マスクを外せなくなった過去」が私の歴史にあったことを思い出し、マスク着用の日々を送る人たちのメンタルヘルスは大丈夫だろうか?と心配になった。というのも、私がマスクを外せなかった理由は「ウイルス予防」ではなく、「メンタルがズタズタにやられていた自分をどうにか守るため」の自己保身のはかない1つの手段だったからである。
 
8年ほど前。自己保身のためにマスクをし続けた期間、約365日。
そう、約1年のあいだ、私は毎日毎日会社にマスクを着けて出社した。会議中もマスク。プレゼンもマスク。夏でもマスク。メンタルがすり減っていけばいくほど、マスクもメガネも、私の顔を覆っているものを外すのが怖くなった。

だから、だ。
「感染症予防のためにマスクをし続けることでメンタルが過敏になる」、そういう逆ベクトルの働きもあり得るんじゃないか、と心配になったのだ。

マスクが仮面化するまでの3段階

これは私の体験談なので、エビデンスがある話ではない。そういったことを前提に読んでほしい。

マスクとの関係性:初期段階
感染症予防のための着用

多くの人が、通常この使用用途。
普通にマスクを利用できている状態で、心理的影響は特にない。
私もマスクを着け始めたのは冬の時期で、最初は風邪予防のためだった。

マスクとの関係性:第2段階
ラクをするための着用(表情を作る必要性が低くなる、化粧薄めでもOK、泣いててもバレにくい、など)

マスクの便利さに気づく段階。
顔の表情(50%以上)が隠れるので、相手に向けていた表情を100%で作らなくてもよいことに気が付く。作り笑いや、あくびの我慢が不要になり、泣きそうなときに唇を噛み締めて我慢しててもバレない(と思っている)。マスクで隠れるから周囲の視線から逃げられる気持ちになり、人の目から隠れられている気持ちになる。マスクを着けていることへの安心感を感じる。

当時、チームマネージャーとして自分の力量を超えて仕事を任されていた私は、できないことや失敗も多く、正直朝起きることもしんどかった。だけど、メンバーの前で嫌な顔はできないと思っていたし、泣いてもいられないから気丈に振る舞う。理性をゴリゴリに働かせて感情を整理し、少しずつ人との距離を作っていった。しんどいことが増えるほど、無理して笑わなくてもよく多少泣いていてもバレないマスクは有難かった。気づいたら季節は夏を迎えようとしていたが、どんなに暑くても、私はマスクを着けて出社し続けた。

マスクとの関係性:最終段階
自分というものを守るため、仮面としての着用

ちょっと大げさかもしれないけれど、ついにマスクの仮面化、最終段階がやってくる。私も最終的には会社でマスクを外せなくなった。

当時の私にとってマスクとは?
プロフェッショナル仕事の流儀みたいな問いだけど、いつの間にかマスクは単なる「感染症予防の道具」ではなくなっていた。

それは、相手との一線を引くシールドであり、自分の心境や表情を悟られないための防御壁であり、涙腺崩壊したときの最後の砦だった。

気が付くとマスクは、精神不安定な私が、どうにか人と話ができるワタシとして存在するための ”ワタシの仮面” へと最終変化していた。

振り返り:マスクが心に与える影響

その後、マネージャーを降り半年くらいかけてメンタルを回復。マスク着用し始めてから丸1年が経過する頃、ようやく社内でマスクを外すことができた。マスクを外せるようになるまでに、メンバーと何度も語り合い、本音を伝え合った。言葉にすることが難しい時は手紙やメールで。伝えるのが怖い時は助けを求めながら。そうやって心を癒していく中で、自分と人との間に分厚く作っていた氷の壁に気が付いた。心を開き気持ちを通わせ合う中で、心の解放感を感じて、感情と表情も戻ってきた。

マスクでラクをした代償(感情と表情の喪失)は思いのほか大きかった。なぜなら、感情と表情の喪失に自分で気づけていなかったから。徐々に徐々に、蝕まれていくかのように、私が仮面のワタシになっていた。
それに気づいて心を溶かし、自分と人の間にコミュニケーションの橋を架けられるようになってやっと、長い長いマスク着用生活に終止符が打たれたのだった。
 
しばらくして人事に異動することになったが、この経験から、夏なのにマスクをしている社員や、中長期間マスクを着けている社員を見かけるとアンテナが立つようになった。だいたいその勘は的中していて、彼らは何かしら心の壁を抱えていた。
 
ということで、これまでの経験をベースにコロナ禍でセルフチェックしてほしいことはこの1点!

マスク装着中のコミュニケーションを、ラクだと感じだしたら黄色信号

初めはただ「ラクだなー」と感じる程度かもしれない。
だけど、この状態が続くと無意識のうちに人に対する心の壁が作られていってしまう可能性がある。いつもの自分ではなく「心の仮面」「表情の仮面」を装着したワタシとして存在することになってしまうかもしれないのだ。
 
人事・労務を担当している方も、マスク着用が人の心に与える影響について少しだけ心に留めておいてほしい。

マスクを着けると、人は建て前を言いやすくなるのではないか。(あくまで仮説だけども)
表情から読み取れていたものが情報としてキャッチアップできなくなり、言葉と表情の一致度を測るセンサーが鈍る。普段はこのセンサーが働いて「むむ、怪しいな。嘘ついてるかも?」と気づけることも、このセンサーが鈍っていればバレる危険は減り、ゆえに建て前や嘘をつくことが簡単になる…と考えることもできる。そうやって何気なく普段のコミュニケーションに建て前が増えていくと、関係性の質も落ちていき、職場での心理的安全性が担保されなくなってしまうかもしれない。

マスクが仮面化する前に

日本国内ではしばらくの間、マスクの着用が続いていくだろう。
そうした中、身体の健康を守るためのマスクで心の不健康を買ってしまっては元も子もない!社内コミュニケーションの質の低下を招いてしまうのも残念なことだ。
 
だから、これまで以上に自身の心の状態や、職場での人間関係の質を定期点検してみてはいかがだろう。
少しでも、マスクが仮面化してきた、心にもマスクをつけていると思ったら、早めに気づいて心のマスクを外す勇気を持とう。繰り返しになってしまうけど、仮面化の代償は思っている以上に大きい。仮面化してしまってからでは、あなた本来の素敵な表情も豊かな感情も取り戻すことが大変になってしまうから。

マスクを着けながらでも、1人1人が輝いて働ける工夫が企業内で生まれていくことを期待している。