見出し画像

見えない力 1月2日のJAL機炎上事故で、全員脱出が可能だった理由


昨日書いた記事について、多くの方に関心を持っていただき、またなかなか理解されづらい客室乗務員の仕事を理解してくださる方が増え、大変嬉しく、また心強く思っております。
直接コメントをくださった方もいらして、その方々が
「ずっと語り継いでほしい」と言ってくださったことは、きっと当該の乗務員の皆さんも喜んでくださるのではないか、と思います。
ただ、負傷者の方もいらっしゃいますので、その方々の1日も早いご回復を祈るばかりです。

何より海外メデイアが、この全員脱出を「奇跡だ」と
報道してくれたことは、本当にありがたいです。

JAL機炎上事故について、あらゆる情報が徐々に
開示されていて、だんだんと原因が明らかになっていくようです。
その結果を待ちたいと思います。

この記事を書こうと思った経緯


昨日に引き続き、1月2日のJAL機炎上事故について
もう一つだけ書かせていただきたいと思ったことがありました。
これは、事故直後から私には「当たり前のこと」として、無意識だったのですが、航空関係者ではない人と話をしているうちに、
「これは当たり前のことではないのかもしれない。
だったら、書いたほうがいい」と思ったため、書くことにしました。

「なぜ全員脱出が可能だったのか」

今回の全員脱出については、客室乗務員の訓練が
素晴らしかったと言うことは言うまでもありません。
訓練内容、そして日頃からの研鑽、努力、何よりこの仕事への覚悟があったからこそ、確率としては大変低いこの事故に際して、迅速、的確に動くことができたのです。

ただ、私はそれ以上に「見えない力」が働いていたと、自然に思っていました。
それは私が客室乗務員経験者として、先輩方から当たり前のように言われ続けてきたことだったからかもしれません。

無意識を意識化する

これは私がよく生徒さんたちに言ってきた言葉ですが、まさに「職業柄身についていたので、無意識に感じていたけど、それを意識化して伝える必要がある」と思ったのです。

その見えない力とは、
「乗客との信頼関係」
です。


客室乗務員がいくら訓練を積んでいても、お客様がその指示に従わなければ、全員脱出は不可能でした。

では、全員のお客様が素晴らしい人だったのでしょうか?
もちろんその可能性もありますが、私は「事故までの間の客室乗務員の接客とその態度」が乗客との信頼関係を築いたと思っています。

例えば、

あなたが飛行機に乗って、最初に見た客室乗務員の方が、満面の笑みで、目を見て挨拶をしてくれた。

身だしなみも完璧で、背筋もスッと伸びていて、使う言葉も丁寧で美しかった。

その後あなたの担当をしてくれた客室乗務員の方も、
いつもあなたと目を合わせ、あなたのリクエストにも
誠実に対応し、ドリンクをもらう時にも、確実にあなたの手に渡るまで丁寧に接してくれた。

お手洗いに行く際にも、場所を的確に教えてくれた。

お菓子を食べていたら、ナプキンをさりげなくくれた。

タッチパネルの使い方がわからなかった時に、声をかけてくれ、丁寧に説明をしてくれた。

など、経験があるかと思います。

これら一つ一つのサービス要員としての仕事の結果、
乗客が客室乗務員に好感を持ち、信頼していたのだと私は、自然と、当たり前のように思っていました。

この一連の客室乗務員のお客様への接し方が、相手を尊重したものであればあるほど、お客様も客室乗務員を尊重してくれるのです。
(ただ、何でも言いなりになるのとは違います。
NoはNoと言わなければならないこともありますが、
その際には、「感じよくNoを言う」ことも、訓練されています)

鏡の法則です。

こうして、事故直前までに信頼関係ができていなければならないのです。
もちろん事故が起きなくても、信頼関係があるからこそ、お客様が降りて行かれる際にお礼を言ってくださることが多いのだと、私は思っていました。

この「信頼関係」も「信頼関係の構築のプロセス」も
目には見えません。
ただ、感じることはできます。
もし客室乗務員の感じが悪かったら、果たして乗客は緊急事態の時にその客室乗務員を信用して指示に従うでしょうか?

多分従わない人が出ていたことでしょう。

客室乗務員の接客の全てが、
「いざというときの乗客とのチームワーク」とでも
言うべきものにつながっていたのだと、無意識に思っていましたが、航空関係者でない方と話をしていると、
「この目に見えない信頼関係」には、全く気づいていないのだな、とわかりました。

先輩方からの教え

私がなぜこの「目に見えない信頼関係が、客室乗務員の接客によって構築されると知っているのか」と言うと、現役時代に先輩たちからこれを、何度も何度も言われていたからです。

お客様が機内に入ってこられた瞬間、目にした客室乗務員のことを信頼し、安心し、印象に残る人になってください、と言われていました。
それを先輩方は独特の言葉で、このように言っていました。

「アピール性を持ってください」と。

最初はこの意味がわからなかったのですが、
「一瞬で信頼され、この人なら大丈夫」と思ってもらいなさい、と言うことだったと思っています。

そのための身だしなみ、言葉遣い、知識、話し方、声のトーン、挨拶、接客の仕方、クレーム応対、なのだと教わりました。

一見接客としてのこだわりに見えるものが、
全ては緊急事態のため、でもあるのです。

人は見た目で判断します。(第一印象)
その後関わることで、判断します。(第二印象)
それらが全て良ければ、相手を信頼します。
例え短い時間であっても、「この人なら大丈夫そう」
「この人は信用できそう」と思ってもらえる普段からの努力。
それが今回の「全員脱出」につながったのではないかと私は思っていました。
これを短い時間の中で、すべての仕事の中で、やるべきことをやっていく。
仕事とはそのようなものだと思いますが、慣れや怠慢は避けられないのが人間ですから、決して簡単ではない、と思ってきました。

それを、JAL機内の客室乗務員は、行っていたと言うことだと思います。

最後に

接客と保安要員という、全く異なる2つの仕事を同時に行う特殊な仕事である、客室乗務員。
その2つは、見えない部分で密接に関連があるということ。
それを先輩から後輩へ教えられている可能性が高いこと、そして緊急脱出時にはデジタルな助けはほとんどない、と言う側面からも、人間でなければできない仕事だと言えます。

今回の全員脱出は、「訓練された人たちが人を救った奇跡」だったと思います。



この記事が参加している募集

仕事について話そう

サポートありがとうございます!いただいたサポートは、次の良い記事を書くために使わせていただきます!