「ただ行ってみたくて」ポーランド編④
飛行機に乗れば酔い、枕が変われば、眠れない、食べなれない物を口にすれば、お腹を壊す。そんな軟弱者だが、知らない場所には行ってみたい。冒険などではない、旅と呼ぶのもおこがましい、理由などない、ただ行ってみたいだけだ。
今回は、馴染みの薄いポーランドへ。美人に浮かれ、ビールを飲みまくり、料理に舌鼓をうち、アウシュビッツでは考え込む、ひたすら自由でテキトーな8日間の旅行記。
ポーランド旅行記④ ポーランドの餃子
「これだったら亀戸餃子の方がずっと美味しいよな」
僕は食べながら言った。
ポーランドでの一食目は、ビールと餃子だと決めていた。中華料理店の話ではない、ポーランド料理店でのことだ。それもワルシャワの。
ポーランドの国民食に餃子のような物があるのを、つい最近ガイドブックで知った。その名もピエロギ。僕らが頼んだのは、焼いたピエロギだ。まぁ焼き餃子のような物で、その他にも水餃子のように煮た物や、揚げた物もあるらしい。
大きさは日本の餃子の一•五倍はあるだろうか。一つが大きい。それが一皿に十個ほどのっていた。
まわりを見るとポーランドの人たちは、一人一皿食べている。あまりシェアするという文化はないらしい。それにしてもみんなよく食べる。
ピエロギにかじりつく。皮はモチモチしていて、具はぎっしりと詰まっている。決して不味い代物ではない。むしろ美味しいと言った方がいい。だが、餃子という分類で比べると、日本の餃子の方が数段上だ。
特に名店、亀戸餃子に通っている僕らにとっては、このピエロギはいただけない。
やっはり餃子には酢醤油にラー油が必要だ。だが、このピエロギはカリカリに炒めたベーコンがつかっているオリーブ油で食べる。
何か違うのである。これは餃子ではないと思い込もうとしても、どうしてもそれができない。
「大した料理でもないのに、もったいぶって」
妻の機嫌が悪い。先程、店のマネジャーらしき男から、料理の写真を撮らないようにと注意されたからだ。
それでも妻は、こっそりと携帯で写真を撮る。
おいおい、大丈夫かな、あの大男のマネジャー、怖そうだったよ。僕はまた怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしているが、妻はそんなことお構いなしだ。さすがだ。
ポーランドのビールを飲みながら、最後の一個のピエロギをどちらが食べるのか、妻と譲り合う。妻も、もうお腹がいっぱいのようだ。
それに眠い。
店の中が暖かいのもあるが、ビールを飲んで急激に眠気が襲ってきた。
それもそのはず、現地の時間では、まだ午後八時だが、日本時間では、深夜三時過ぎだ。
この時間に餃子とビールを飲むなんてことは日本ではまずありえない。
飛行機の中で二、三時間は眠っているとはいえ、早朝五時に起きてから、二十時間以上も経っている。
ああ、もうホテルに帰って眠りたい。ただ思いは、それだけなのだが、一気に時差ボケを解消するためには、あと二、三時間は起きていなければならない。もう拷問だ。でもここで眠ってしまうと、いつまで経っても時差ボケは解消されず、夜の時間が無駄になってしまう。やっぱりヨーロッパへの旅行は若くないとできない。
店を出て空を見上げると先程の雨が嘘のように晴れ渡っていた。
寒さは相変わらずだが、天気はいい。それに夜八時過ぎだというのに、日は高い位置のままだ。現地の人たちは、路上に出された店のテーブルでビールを飲んでいた。
どんなことをしても、陽にあたりたいのだろう。店の中にはほとんど客がいないのに、外のテーブルは空きがない。
欧米人の、この太陽に少しでも当たりたいという思いは異常だ。以前真冬のパリで、寒さに震えながらも、路上でコーヒーを飲んでいる人を見かけたことがあるが、そんなにまでして外にいなくても、と思ってしまう。
日本人ならわざわざその白い肌を日に焼くなんてことはしないだろう。特にポーランドの女性の肌は透き通るように真っ白でとても魅力的なのに。
それにしても眠い。旅行に来た興奮だけでここまで起きているが、もうそれも限界に近づいていた。
「コーヒーでも飲みに行こうか?」
そう妻に聞いてみたが、首を横に振る。もうお腹もいっぱいで何も入らないらしい。言葉も少なくなってきている。機嫌がさらに悪くならなければいいのだが。
歩き疲れたし、これ以上寒い中で街を歩きたいとも思わなかった。
もうホテルに帰るしかない。だが、帰ったらきっと寝てしまうだろう。いやもうこれは仕方がない。
そう諦めて引き返すことに決めた。するとどこかのカフェから、男たちの歓声が聴こえてくる。どうやらサッカーを観戦しているようだ。そうだ。ワールドカップがあった。
試合はドイツ対スウェーデンだった。これであと二時間は眠らないでいられる。部屋で観戦だ。僕らは急いでホテルに戻ることにした。
途中、文化科学宮殿の前に、パブリックビューイングの会場があった。ここでは明日、ポーランド対コロンビアの試合を観ることができる。目隠しされた柵の向こうに大きなモニターがあった。
柵があることを考えると有料なのだろうか。ポーランド語しか書かれていないのでよくわからない。
ポーランドのファンたちは、いったいどのように応援するのだろうか。興味があった。明日は日本とセネガルの試合もあるから、夕方から忙しくなる。
ワールドカップのおかげで、時差ボケも一気に解消されるだろう。僕らは気分を良くして、ホテルへと急いだ。
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