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介護苦からの不倫をやめたい▶やめなくていい

 私は、外見が比較的女性らしく、ふにゃふにゃと喋るため、優しそうという印象を持たれることが多いです。しかし、私のカウンセリングを知る方々は皆さん私を評して『どSカウンセラー』と仰られます。倫理観や既成概念に捉われたくないという重篤な厨二病気質によるものでしょうか。ですから、一般的なカウンセリングのイメージで相談してこられた方々は驚かれることが多いです。要はパンチが強め、というか強烈らしいです。

 どの辺りが強烈なのかというと、最も特徴的なのはやはり共感の部分です。カウンセリングというと、「それはお辛かったですね」「寂しいですよね」など、頭をヨシヨシするような言葉掛けのイメージがあるかと思います。ですが、自分が悩みを打ち明けた時に、そんな表面的な慰めを言われても毒にも薬にもなりません。むしろ“所詮他人事”として扱われているようで腹が立ちますよね。それは、共感ではありません。

では、どSカウンセラーならどのように共感するのか、私の相談録を1つずつご紹介していきます。

【相談内容】

40代 女性 Aさん
育児の傍ら、同居する認知症の義母を介護中。
ストレスから隣人と連日不倫を繰り返している。
夫を愛しており、猛烈な罪悪感と欲求をコントロールできない自分に自己嫌悪。
不倫をやめるにはどうしたらいいか。

■主訴

不倫をやめるにはどうしたらいいか

■人物像

ACやNPが高く、真面目で優しい。
周囲(特に夫)からの評価を気にしている
禁止令/自然に感じてはいけない、楽しんではいけない
ドライバー/完璧であれ、強くあれ

■見立て

1人でやりきれる仕事量ではないにもかかわらず、夫からの承認を得るために無理をしている。
「育児も介護も完璧にできれば夫に愛される」という理想の設定に誤りがあり、Not OKのミニ脚本に陥っている。
夫、子供、義母の雑務により自分が蔑ろとなり自尊心が低下。
心身共に限界を超えていることが自覚できていない。
頑張るためとはいえ、夫を裏切る行為を繰り返すたびにI’m not OK(私はダメ)が強化されていく。

この分析をもとに、共感して主訴に応えた一言がこちらです。        

「やめなくていい」

けしからんですよね。ですが、このたった一言でクライエントさんの涙が溢れ出しました。

確かに、一般的に不倫は推奨されるものではないかもしれません。私も本当に「ぜひ盛大に不倫してください!」というつもりで言っているわけではないことをご承知おきください。

 経験したことがある方はお分かりになるかと思いますが、育児と介護、どちらかだけでも十分すぎる負荷ですが、それがダブルで襲い掛かってきているのです。1人でやりきれないのは想像に難くありません。にもかかわらず旦那さんは育児や介護どころか家事にもノータッチで独身時代と変わらずのびのびと仕事に精を出しておられました。実子も実母も他人事なのです。それでもAさんは、愛する人との家庭を自分が守らねばと、必死で日常を保とうとしておられました。時間も体力も奪われていく中で、限界まで張りつめた最後の気力が切れてしまわないよう何かにつかまろうと伸ばした手がかろうじて届いたのは、職業人を謳歌する夫ではなく隣人だった……Aさんにとっては、それが命綱だったのです。

愛する家族を大切にしたいという思いとは裏腹に傷つけてしまっている、この事実に打ちのめされ崖っぷちに立つAさんに対し、「どんなに辛くても不倫はダメ」という正論は、命綱を切るも同然です。

命綱が必要なほどギリギリの世界をAさんは生きているのです。それでもその世界で生き抜こうともがくAさんの選択を尊重し、1人の人間として敬意を評する気持ちが「(不倫を)やめなくていい」という共感になりました。
禁断の果実を食べずにはいられなかったアダムとイヴしかり、箱を開けずにはいられなかったパンドラしかり、禁じられると抗わずにいられないのもまた、人なのです。

 たとえAさんが育児と介護を1人でやりきったとしても、夫からの承認は得られないでしょう。夫婦ではありますが、2人は別々の世界を生きているようなものだからです。時間も苦労も共有し協力し合う中で信頼関係が育まれ、お互いを敬い合える仲へと成長していきます。そうなれば自ずと承認欲求は満たされ、命綱など必要のない世界で生きられるようになります。

 このままいけば、遅かれ早かれAさんは破綻します。
カウンセリングに来られた時点で対策は急務という状況に、3つの選択肢を提示しました。

①割り切って不倫をしながら1人で家庭を背負い続ける
②夫に家事、育児、介護への参加を要請する
③夫に助けを求められないのなら、第三者の協力を仰ぎ、仕事や習い事など家庭外にも所属先を持つ

選択はAさんの自由です。
どのような道を行こうと、カウンセラーとしてのAさんへの敬意は変わりません。「(不倫を)やめなくていい」という共感は、それをも包含した深い受容でもありました。

1人の人間として存在を尊重されていることを実感する中で、Aさんは、③を目指して命綱を手放す決意をされました。

目標が定まり、そこに向かって車輪が回り出せば、自然と加速していけます。勢いよく走る中で新たな悩みが生まれ、また何かにすがりたくなった時には、いつでも来ていただければと思います。

※実際のケースをもとにしていますが、お名前や年齢などの設定は仮のものです。


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