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私の一冊 阿刀田高「花あらし」

私の一番好きな本。阿刀田高著「花あらし」をご紹介します。
好きすぎて、大学生の頃、メールアドレスを「hana-arashi*******@ezweb.ne.jp」にしていたくらいです。
一番好きなものを語るのって緊張しますね。

著者:阿刀田高について

1935年生まれの作家です。
デビュー作は「冷蔵庫より愛を込めて」。代表作に、「来訪者」「ナポレオン狂」等があります。
ゾクッとする短編やブラックユーモアを得意とする作家さんで、多作で有名です。

彼の怖い短編は広く愛されていて、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)でも、下記のような人気コピペは阿刀田高の短編が元ネタです。

ある日、泣き声がしゃくに障ったので妹を殺した、死体は井戸に捨てた。
次の日見に行くと死体は消えていた。

5年後、些細なけんかで友達を殺した、死体は井戸に捨てた。
次の日見に行くと死体は消えていた。

10年後、酔った勢いで孕ませてしまった女を殺した、死体は井戸に捨てた。
次の日見に行くと死体は消えていた。

15年後、嫌な上司を殺した、死体は井戸に捨てた。
次の日見に行くと死体は消えていた。

20年後、介護が必要になった母が邪魔なので殺した、死体は井戸に捨てた。
次の日見に行くと死体は消えていなかった。

次の日も、次の日も死体はそのままだった。

ただ、私このコピペは好きじゃないです。
元ネタの短編小説の、なんでもない世間話から始まって、徐々にじわじわと核心に迫っていく、そんなゾクッと来る語り口調が丸々省略されていて、単に「出来事」だけを紹介しているホラーコピペに成り下がっているように感じるから。このコピペが気になった人は、ぜひ阿刀田 高「迷路」を読んでください。めちゃくちゃゾッとしますから。

そう、阿刀田高の魅力って、文章にあると思います。
いろんな小説を読んで思ったことですが、阿刀田高って、透き通るように綺麗な文章を書くんです。
その無駄なく透き通る文章で怖い話を書けばめちゃくちゃ背筋の凍るホラーになりますし、恋愛を書けば泣ける純愛小説になります。
その阿刀田高が書いた純愛小説が、「花あらし」です。

「花あらし」の紹介

すごく短い短編です。
ストーリー自体は平凡なものなのですが、やはり魅力は阿刀田高の文章にあります。

まず、十数年連れ添ったおしどり夫婦についての描写。
夫が、笑顔が素敵な優しい人だったと紹介され、夫との思い出やエピソードが流れるような文章で描かれる。
そして、病気であっけなくこの世を去ってしまう夫。病床で、長くないことを知ってか知らずか「一度会いに来るよ」と妻に告げる夫。
最愛の伴侶を亡くして悲しむ妻。でも、日に日に日常が戻ってくるごとに、悲しみもだんだん薄れてくる。それも嫌だと感じてしまう。
ある日の墓参りの際に出会った、夫の後輩と名乗る男に、夫と瓜二つな地蔵が故郷にあると聞かされて、一人で桜の季節に見に行ってみることに。
桜吹雪の中、妻が見たものは・・・

冒頭の夫婦愛の描写、夫の死から立ち直ってしまうことに戸惑いを感じる妻の描写、「もう一度夫に会いたい」と、瓜二つの地蔵を見に夫の故郷を訪ねる妻の描写、桜満開の中で妻に起こったことの描写・・・

ジャンルとしては「純愛小説」なんですけど、「彼を思うと胸が熱くなる」「抱きしめられるとうんたらかんたら」「彼のくちづけがうんたらかんたら」「彼を愛してるうんたらかんたら」みたいなベタベタな恋愛ではなく、
「一緒にこんな冗談言って笑ったわねえ」だとか、「こんな場所に行ったわねえ」みたいな、刺激はないけどじんわり温かい人間関係が描かれています。
恋愛って、その状態が一番幸せなのかもしれませんね。
だからこそ、彼を失ったことの悲しみは、いつも吸っていた空気を失うようなもんだったのでしょう。
しかしながら、そんな大きな悲しみさえも、時と共に徐々に薄れていく。そんな描写もとてもリアルでした。

ラストシーンの綺麗な情景が頭に浮かんだとき、涙が止まりませんでした。
美しくて切なくて、なんとも言えない感情に襲われるような短編です。
短くて読みやすく、スッと頭に入ってくるリズミカルな語り口は、阿刀田高作品の魅力です。
綺麗な文章で心を洗濯したいあなたにおすすめ。
ぜひ、手にとってみてください!!

#スキしてみて
#人生を変えた一冊

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