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由良の蒼い洞窟(日記)

2021年9月22日

 今度の休みは近くの山へ登山に行こうと準備を始めた矢先、「山は紅葉が始まってからがええやろう。明日は大潮やけんシーカヤックで洞窟に行こうや」という社長の一声で行き先は180度方向を変え海へと向かうことになった。

 愛媛県は宇和島市、由良半島。四国の西の端から木の枝のように突き出たリアス式海岸の先端部に到着した。堤防から海を覗くと、青ブダイが一匹退屈そうに泳いでいた。鮮やかな青。僕の生まれ故郷では見ない派手な色味の魚を見て自然と気分は高揚した。

 蒼の洞窟は出発地点からカヤックで1時間ほど漕いだところにある。楽しみが目の前にあると力が漲って来るものである。カヤックは気持ちよく水面を切り裂きながら進んだ。たまに漕ぐのをやめ辺りを見渡す。両側を木々に覆われた川の景色とは違い海の景色は壮大そのものだ。見上げるほど切り立った岸壁の様子や地平線から列を成して迫ってくる雲の様子は時間を忘れさせた。

 洞窟の入り口は狭く、すでに暗かった。奥は何も見えない。最深部の壁にぶつかった波の反響音を頼りに進んでいく。前が見えないのに進んでいくというのは勇気がいった。最深部に着くとそこは砂浜になっていた。ごく小さな砂浜だったので、上がりはしなかったがカヌーの半分くらいを砂に乗り上げ休憩した。パドルから滴る雫の音、波が岸を打つ音が絶えず洞窟内に反響していた。外から差し込む光が海の水を澄ませ一層綺麗に見えた。洞窟から出ると明るく開けた景色にホッとした。

 出発地点の堤防に着く頃には腹ペコだった。なにせ昼用に持って行ったものは軽い行動食だけだったからだ。中華料理をたらふく食べて帰ろう。
さっきまでの青色の世界とは打って変わって、西日がすでに空をオレンジ色に染めていた。

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