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第8回.断片を集めて練り上げるということ

1.アイデアのプロセスを分ける 

なぜアイデアのプロセスを分けるのか 
今回、全体のプロセスを振り返って興味深かったことのひとつに、アイデア創造の過程を『アイデア生成(アイデアブレスト)』『アイデア統合』という2つのプロセスに分けていたことがあります。

8回①

まず『アイデア生成』で沢山のアイデアを出した後で、その断片を統合していく(練り上げていく)のは、一見遠回りな気がします。 

「わざわざプロセスを分けなくてもアイデアは出せるのでは?」 「そもそもアイデアのブレストってどういうやり方が正しいの?」と思われる方もいるかもしれません。 

もちろんこの2つのプロセスは分けなくても進めることができます。実際、これまでUCI Lab.がアイデア創造を行う時には、ある程度記入フォーマット(アイデアシートのようなもの)を用意したうえで一気に行っていました。

しかし、先生に詳しく伺うと、2つのプロセスに分けて行うことに様々な意味があることがわかりました。 まずは、それぞれのプロセスの意味からご説明したいと思います。 

2.アイデア生成(アイデアブレスト)の意味 

とにかくアイデアを量産する!
アイデア創造のプロセス一つ目はアイデアブレインストーミング(以下:アイデアブレスト)です。 別の回でも何度か取り上げていますが、ここでは前半のプロセスで出てきたニーズの構造化のテーマに対し、商品やソリューションにつながるようなアイデアをブレストによって出していきます。 

ここでの目的は、とにかくアイデアのネタを大量に出すこと! 

今回3つのテーマがあったので、先生はそれぞれに対し30分で50個ずつのアイデアを目標として掲げていました。 

8回②

実際に出てきたアイデアは「活用の仕方」25個、「調理の仕方」20個、「食べ方」37個でした。テーマによって、アイデアを出しやすいものや出しにくいものがあり、アイデアの数に差がみられますが、なかなか50個達成するのは難しそうです。 

「30分で50個!?それは難しい!何で50個を目標としたの?」 「沢山アイデアを出そうとしたら、じっくり考える時間がないじゃない。」 と思われるかもしれません。 

でも、実はそこにポイントがあったんです。  

テンポやスピード感も大事
繰り返しになりますが、ここ(アイデアブレスト)での目標は、アイデアの”ネタ”を大量に出すことです。あくまで、完成形ではなくネタを”量産”することに意味があります。

8回③

最初から、(ちょっと無理そうに思える)目標を設定することで、次から次へとアイデアを出さざるを得ません。そのことで、スピード感も生まれます。先生は、このアイデアブレストを「他人のアイデアに『しりとり』のように乗っかっていく」と表現されました。しりとりには、テンポも大事ですよね。また、このテンポはある程度の”慣れ”が必要です。やりながら上手くなるものなので、とにかく実践あるのみ。スピード感も含めて体験していくことが望まれます。

そして、量産するからには、当然参加者は一つ一つのアイデアを作りこんでいる時間はありません。すると、必然的にアイデアはラフなもの(未完成のアイデアだったり、「こんな感じで使う」といった断片的なもの)になります。でも、このアイデアブレストのフェイズでのアイデアは”ラフ”で良いんです。何故なら、あくまで次のプロセスで統合をするための材料なのだから。 

自分のアイデアに固執させない 
アイデア出しの場面で起こりがちなのが、自分のアイデアに固執してしまうことです。 自らが考え抜いて、生み出したアイデアは愛着が湧いてしまい、その後にそこから離れることが難しくなります。どうしてもそのアイデアを起点に考えようとしてしまったり、他人から問題点を指摘されたらなんだか面白くない気分になってしまったり。

でも、ラフに出したアイデアにはそこまで思い入れが発生しません。アイデアが統合された後で見ても「あっ、自分アイデアの一部が採用されたんだ」というくらいの気持ちだったりもするようです。後工程で、きちんとアイデアを統合していく作業が発生するからこそ、その前のアイデアブレストの段階では自由な発想でたくさんのアイデアを生み出すことができるのです。 

3.アイデア統合の意味 

断片を練り上げる
さて、アイデアブレストで大量のアイデアが出てきました。それをどうやって統合すると思いますか?統合というからには「いくつかのアイデアを組み合わせる」ということは、容易に想像できると思います。 先生にアイデア統合についてお伺いすると「たくさんのアイデアシートから”筋の良いアイデア”を組み合わせて、プロダクトの方向性を作っていく」と説明してくださいました。でも、今回のプロジェクトの観察者である私は、もう一歩踏み込んでー”筋の良いアイデア”の断片を組み合わせてーと表現したいと思います。

繰り返しになりますが、『アイデア統合』とは「いくつかのアイデア」を組み合わせることです。でも単純に「AというアイデアとBというアイデアを組み合わせる」ということをしているのではなく、例えば「Aというアイデアの”この部分”とBというアイデアの”この要素”を組み合わせる」というふうに、統合されるものは非常に断片的なのです。そして一つのアイデアシートをいろんな視点で見て、そこからどんな要素(断片)を取り出して再構成していくかには、プロジェクト全体を見通して商品アイデアとして成立するかどうかを見極める力や、ユーザーが使う現場を想像する力が必要となります。 

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先生曰く、アイデアを統合していくときの視点は、「一つの商品で、複数のことを叶えられるかどうか(複数の課題を解決できるかどうか)」ということ。単に「こんな不具合があるから、それを解決する商品」といった直接的なものではありません。だからこそ、複数のアイデアシートにまたがった断片を拾い集めていくという、統合の作業が発生するのです。そして、このような理由からも、あくまで必要なのは”断片”であってひとつ一つのアイデアは必ずしも作り込んだもの(完成形)である必要はないのです。 

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また、ここで統合されたアイデアの方向性を判断する際には、それ以前に設定したコンセプトやニーズと強く結びついているかどうかを検証する視点も必要となります。「面白いから採用!」というのではなく、きちんとユーザーの現場(今回見てきた調査の現場)に即したものであるかどうかを見極める力が必要なのです。このような統合の作業はなかなか合意形成をして決められるものではありません。そこで、アイデア統合に関しては今回のプロジェクトでは櫛先生、畔柳先生のお二人で行われたようです。プロジェクトの責任を担う人が、ある程度の意思をもって決定することが求められるのが、この『アイデア統合』なのです。

ちなみに今回最終的に出来上がったもののブレスト段階でのアイデアの断片は次のようなものでした。

8回④

4.断片を集めて練り上げるということの意味 

なぜ断片を集めて練り上げるのか
ここまでご説明した通り、アイデアの創造においては、『アイデアブレスト』で出てきたたくさんのアイデアのネタの中から、”筋の良い断片”を集めて、コンセプトに練り上げること(『アイデア統合』)が重要となります。

 改めて、それぞれのプロセスのポイントをまとめると以下の通りです。 

プロセス①アイデアブレスト
 ・統合するためのアイデアを(お題に基づき)大量に用意する
 ・ラフなアイデアにすることで、自分のアイデアに固執させない 

プロセス②アイデア統合
・アイデアの断片を切り取り、全体を見通す視点で組み合わせていく 
・アイデア統合は、プロジェクトの責任者が意志を持って行う

一足飛びにアイデアを作りこむのではなく、断片を集めて丁寧に練り上げていく。このようにプロセスを切り分けて行うことで、ユーザーの現場に即したリアリティのあるアイデアが生まれていくのではないでしょうか。 

次回は、「動画を使うということ」についてご紹介したいと思います。

大石瑶子
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター

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