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第10回.参加者が主体的であるということ

1.参加者はどうプロジェクトに臨むべきか

「参加者の心構え」もプロジェクト成功の重要ポイント
これまでの連載では、アイデア創造におけるプロセスの詳細や場を整えることの重要性について触れてきました。しかし当然のことながら、プロジェクトの成功に大きく影響するのは「参加者」の存在です。そこで、私(大石)のパートの最後は「参加者」にフォーカスを当てたいと思います。

さて、今回のアイデア創造プロジェクトでは、京都工芸繊維大学 櫛研究室の学生及び、大学院生に参加してもらいました。

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もしかすると、「日頃からデザイン系のことを専門に勉強している学生だからこういったプロジェクトに慣れているんでしょ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。さらには「アイデア創造はデザイナーやプロが行うものであって、自分がやっても同じようにできるのだろうか」と不安を感じる方もいることでしょう。

この連載の第1回でも触れた通り、我々UCI Lab.が実際にアイデア創造をプロジェクトとして担う場合は、クライアントと協働しながら進めていきます。しかしプロジェクトに参加される方々は、必ずしもアイデア創造の経験があったり、慣れているとは限りません(むしろ、アイデア創造に関わるのが初めての方が多かったりします)。
また、以前はこのようなプロジェクトは商品開発に関わる部署のみで行うことが多かったのですが、最近では複数の部署に跨って実施されることも増えてきました。そうすると、冒頭に挙げたような「果たして自分がやっても良いアイデアは出るものだろうか」という不安を抱いている人は、案外多いのではないかと思われます。

そこで、皆さんがいつアイデア創造に関わることになっても安心できるように(もしあなたがリーダーの場合は、アイデア創造初心者の方にも安心して参加してもらえるように)、参加者側がどのような心構えでアイデア創造の場に臨めば良いかということについてご紹介していきます。

2.プロセスを頭に入れておく

「分かっている」ことが安心に繋がる
連載の第5回でも触れましたが、櫛先生は参加者が主体的にプロジェクトに参画できるよう、「まずは先生がアイデアの振れ幅を示す」「適度にコメントする」といったことで場を活性化させたり、「エクササイズを用いて心理的ハードルを下げる」といった工夫で安心・安全な場になるように心がけていらっしゃいました。
しかし残念ながら、いくらファシリテーターがこのように場を整えたところで、参加者が全く不安を感じなくなるとは言い切れません。

以前UCI Lab.がクライアントとアイデア創造のプロジェクトを進めた際に
「このまま進めて本当にアイデアが出るの?」
「今やっていることのゴールは何?」
と言った不安を口にする参加者に出会ったこともありました。

そこで思い出して欲しいのが、第2回で触れた「ひとつひとつのプロセスに意味がある」ということです。

UCXプロセス

もちろん、これ(上記の図)はあくまで一例であって、毎回全く同じ手順を辿るわけではありません(むしろ我々の場合、いつも全く同じ手順ということはほぼないですし、実施するワークもクライアントの状況によって変更します)。

しかしながら、
「全体としてどのような流れで行うのか(これからどんなことをやるのか)」ということや
「それぞれのワークにはきちんと次につながる意図がある」
といったことが予め念頭にあれば、少なくとも先ほど挙げたような不安は払拭できるのではないでしょうか。また、ひとつひとつのプロセスに意味があるということが分かっていれば、先のことを心配せずに”目の前のワーク”に集中でき、結果的に質の良いアウトプットにつなげることができると思います。

3.個人としての貢献の仕方

参加者の個性はどう活かされるのか
前述したように、ビジネスの現場でアイデア創造を行う場合、技術開発やマーケティングなど様々な部署からの参加者でプロジェクトを進めることがあります。それはプロジェクトで生み出されたアイデアの実現に向けて、今後必要になる専門性を考慮したメンバー構成だったりもします。具体的に商品やサービスを世の中に出していくためには、技術による具体化(既存のどんな技術が応用できそうか、新たに開発する必要があるか)や、マーケティング戦略が発生するため、予め担当者がプロジェクトに参画し背景を共有できることは大きなメリットになります。またそれぞれの知見や見地が「だったらこうしたらいいんじゃない?」というようにアイデアのブレークスルーに貢献することもよくあります。

しかし、だからと言って自分の専門領域のことばかりに固執するなど、各々が”我を通す”ことが望まれているわけではありません(とはいえ、実際は自分の専門領域や自分の常識で物事を考えがちな人が多いのも事実です)。

我々は、アイデア創造において「オープンマインド」を大切にしています。自分の意見や経験に固執せず、他者の意見や考えにも耳を傾け積極的に取り入れていく姿勢が必要だと思っているからです。そして最近では様々な場面でこの「オープンマインド」という言葉を耳にしますし、浸透しているように感じます。

でも「オープンマインド」を大切にしすぎるあまり「我を通さず、他者の意見を受け入れる」となると、参加者は「何故私がここに呼ばれているのだろう」「私がいる意味ってなんだろう」と、自分の個性や経験・知識をいつどこで発揮し貢献すれば良いのか分からなくなるかもしれません。

こんな例があります。アイデア創造の『カードファミリー』を作るワークを行う時に、多くの参加者の手がパタリと止まるのです。『カードファミリー』は、個人の視点でカードを4枚選び取り気づきを抽出するものです。よって、個人の考え(捉え方)が大きく反映されます(主観的解釈がキーになるからです)。『カードファミリー』で手が止まるのは、「先入観があってはいけないのではないか」とか「自分の考えを共有するのは恥ずかしい」と思うからなのかもしれません。

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先に、「我を通すことは望まれていない」と書きましたが、決して「自分の意見を言ってはいけない」ということではありません。

櫛先生にインタビューしたところ「”主観”はよくないと思っているかもしれないが、(カードファミリー前の)『発見クリップ』自体も”主観”で取り出したものだし、基本的に(様々なところに)”主観”は入ってくるもの。グループで行うので納得性・妥当性は担保するけれど、基本的には”主観”を共有している」のだとおっしゃいます。

アイデア創造では情報のインプットや共有の際に「対話」が多用されます。そして「対話」には自分の考えや個性は必ず入ってくるものですし、参加者の数だけ場に共有される”主観”は多様なものとなります。そして、その多様性は物事を様々な視点から見たり発想することに繋がるため、アイデア創造にはとても大切なものになります。

例えば、発想をどんどん拡げていく『アイデアブレスト』のシーンが分かりやすいかもしれません。『アイデアブレスト』では誰かが出したアイデアに乗っかって、まるで”しりとり”のように次々とアイデアを繋げて展開していきます。そこには参加者それぞれの個性(考えや経験、専門性)が大いに盛り込まれることが歓迎されます。誰かのアイデアと他の誰かのアイデアが化学反応して展開していくことで、面白い(画期的な)アイデアが生まれていくからです。

まとめると、「参加者それぞれの個性の出し方/貢献の仕方」とは、自分の考えや経験・専門性を場に出すのと同時に、他者の意見や考えを受け入れ化学反応させること。その化学反応の仕方に各自の個性がにじみ出てくる、といったところでしょうか(その際、くれぐれも我を通しすぎないように気をつけるようにしましょう)。

4.事前準備を怠らない

参照するものを持つ
参加者がプロジェクトに入る前に個人でできることがあります。
一つ目は情報収集です。

調査などで生の声に当たるのはもちろん大切なことですが、その前にインターネットや文献を見たり、身近な人に簡易インタビューをしてみるなど情報収集をしておくことも必要です。調査の際に先入観を持たないことは大切ですが、参照するものがないと調査現場に行っても何を観察したらいいのか、何を聞いたらいいのか分からなくなってしまうからです。また、「一般的には○○と言われているけど、この人は違うな。何でなんだろう?」といった違和感が、新しいアイデアのヒントになったりもします。

ちなみに以前UCI Lab.では「ジャカルタ(インドネシア)における食と健康」について自主調査を行いました(https://www.ucilab.net/)。
その時も、日本の場合は「食」に献立という概念があったり、食と健康が強く関連している、という”参照するもの(日本における食と健康)”があったので、「ジャカルタの場合はどうなのか」「どこが違うのか」「どういった背景からそのような事象が発生しているのか」といった考察をすることができました。

ある程度事前情報から参照するもの(自分なりの仮説)を作り調査現場に臨むことによって、上記のような発見(違和感)が際立ってくるのではないかと思います。
※ちなみに今回のプロジェクトのアイデアブレストの際、子ども用の食器など既製品をたくさん用意していました。何もないところからアイデアを発想するよりも、参照するものがあった方がやりやすいという点では同じことが言えるかもしれません。

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「かくこと」に慣れる
プロジェクト前に自分でできることの二つ目は「かくこと」に慣れるということです。
アイデア創造のプロセスでは絵を描いたり、文字を書いたりして情報を共有するシーンがたくさんあります。
しかし、いざ用紙に何かをかこうとすると意外と手が止まったりするものです。真っ白い紙に何かをかくということは、想像以上に勇気がいることなのかもしれません。

そこでファシリテートする側は、アイスブレイクでイラストや文字をかいてもらうなど、「かく」ことに慣れてしまう場を設けたりします。とはいえ、一回練習しただけですんなりできるとも限りません。

ではどうすれば良いのかというと、日頃からアイデアなどを表現する時に絵を描いたり、それを人に見せる(共有)する場を設けておくことをおすすめします。かくことや人に見せることに慣れておけば、いざプロジェクトのアウトプットする場になっても心理的ハードルがだいぶ下がった状態で臨めるのではないでしょうか。

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実際のプロジェクトに入る前に上記の2点を行っておくだけでも、アイデア創造の現場に参加した時の不安感は少し和らいでくると思います。

5.参加者が主体的であるとは

今回は参加者にフォーカスを当ててお伝えしてきました。繰り返しになりますがプロセスや場づくりがいくら整っていても、やはりアイデア創造には大きな影響を与えるのはそこに参加している人の存在です。

また、これまでの連載で述べてきた通り、プロジェクトに参加するからには”お客さん”ではなく当事者として主体的に関わることが求められます。せっかく主体的に関わるからには個人としても存分に貢献したいものです。そのためには事前準備をしっかりした上でオープンマインドで臨むのが良いでしょう。

とはいえ、多様なメンバーが関わるプロジェクトの醍醐味は個人が関わり合うことによる化学反応です。一人では思いもよらなかった発想にも、価値観が異なる人と一緒だからこそ辿り着けたりするものです。個人的にはそこがアイデア創造で最も楽しいところだと思っています。

慣れない時には不安を感じたり、良いものを生み出さなければならないと言ったプレッシャーを感じたりするかもしれませんが、ぜひその場で起こることを存分に楽しんでアイデア創造に取り組んでいっていただければと思います。

大石瑶子
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター



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