見出し画像

渦巻く感情を整理した先に見えてくること ー ポストコロナの価値観に向けて ー (第2回)

UCI Lab.では2020年4−6月に、「コロナ禍による行動変容をケアするオンラインインタビューとその考察」と題した自主調査プロジェクトを実施しました。
ここでは、調査の分析工程と結果の概要をお伝えします。


3つの領域で起きている変化

今回のプロジェクトでは、事前に細かな問いや分析設計をあえて行わないアプローチをとっています。そこで、全員のインタビューが終了した後、ひとつひとつの場面を思い出しつつ、テキストを読み込みながら、当日のワークの流れを解体して別の視点から「ここから何が読み取れるか」を探っていきました。

その結果、多様で混沌として絡み合った状況は、3つの領域で起きていることに整理できることがわかりました。つまり、テレワークなどでのzoomやSlackといった「情報空間」と、ステイホームで移動範囲を大きく制限された「実在空間」、自分自身の身体と精神を指す「主体(個人)」の3つです。

画像5

それぞれの領域で、行動変容によって失われたネガティブなことがあり、一方で効率化した部分などポジティブな側面もあります。さらに社会の活動が「一時停止」したことによる発見もありました。これらの大きなフレームに沿って、改めて13名分の発言を整理していきました。
ここでは、その整理によって抽出した38個の気づきに基づいた要点だけをご紹介します。

情報空間「オンライン中心の世界の出現と関係性の自覚化」

ふと気づけば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やOMO(Online Merges with Offline)などと一部の業界で提唱や予言されていた世界が、突然、単なるバズワードに留まらず、私たちの生活において中心的なものになりました。

仕事やプライベートでコミュニケーションの中心がオンラインツールになりました。学校などは混乱の声も多く聞かれましたが、仕事では「意外となんとかなった」という方も多かったのではないでしょうか。こちらの方が向いている業務に気付いたり、物理的距離を超えたつながりができるなど可能性も拡がりました。

一方で、仕事でつながっている部署内以外の声が聞こえなくなったり、何気ないやりとりがしづらいという声もありました。

そもそも、経営学の古典であるC.I.バーナードによると、組織の成立要件を最も研ぎ澄ますと「共通目的」「協働意欲」「情報伝達」の3つになるそうです。そう、実は組織には「場」は絶対に必要では有りません。しかしこれまでの技術は、情報伝達(コミュニケーション)が成り立つためには、場を共有することが最も効率的だったといえます。
オンラインがオフラインを飲み込んだ今、「なんとなく居合わせることで生まれる連帯感やすり合わせ、刺激」は無くなっていき、私たちはコミュニティについてより自覚的になっていくでしょう。日頃は意識しない内臓が、何か不調の際には突然ありありとその存在を感じられる時のように。

リフレクションを通じて生成されるコミュニティへ
このような「みんなが同じ時間に同じ場所に集まることで調整していた曖昧な部分」をオンライン上でどう埋めていくのかというコミュニティ・マネジメントの領域が、今後のイノベーションの切り口になりそうです。
それはおそらく、単に雑談できる場をオンライン上につくると言った「ハコもの」ではなく、何らかの協働の実践を通じた振り返りを通じて、本質的な雑談が発生するコミュニティが醸成されるように導く「ファシリテーション」がキーになると考えています。

画像1

実在空間「移動が自宅や近所に制限されたことによる関心の変化」

私たちにとっては「移動が許されない」こと自体が多大なストレス源になり得ます。一方で、都市部においては “あの” 満員電車で運ばれる必要がなくなったことは大きなメリットをもたらしたようです。心身の健康への好影響だけなく、移動時間がなくなることで時間の使い方が効率的になったという声が聞かれました。一方で、あまりに効率的に予定を組めてしまうので、うまく気持ちを切り替えられないという悩みもありました。
また、これまで帰って寝るだけの場所だった居住地「ご近所」を見つめ直す機会にもなったようです。日中を過ごすのであれば求める都市機能やつながり方も変わってきます。一方で、住居については、家族が「みんなずっといる」状況が派生しています。そのため、仕事をする場所の確保やWiFiの電波が届かないなどの困難があったようです。

まるでネットワーク上のように柔軟なリアル空間へ
これらの気づきや悩みは、そもそも戦後の都市計画と住居の設計思想において、自宅と居住地域が「仕事をする」ために設計されてこなかった「職住分離」の思想に起因しています。nLDKと表現されるような機能別で空間を仕切り、プライバシー確保のために(子供の)個室を用意する間取りの常識自体が、今後は変化していくことが予想されます。

その時、空間はもっとその時の利用方法に対応できるフレキシブルなものになり、近所とのつながりもグラデーションを持ったものになっていくはずです。住居と街と移動の在り方がゆっくりとしかし確実に再構築されていった時、今のモノやサービスはどう変わっていくのでしょうか。

また、オンライン飲み会を開くにあたって、事前に同じお酒を全国の参加者に送って一緒に乾杯するという素敵なエピソードもありました。この間の様々な工夫や発見を経て、これからのオンライン/オフラインは、二者択一ではなく、よりハイブリッドなものになっていきそうです。

画像4


主体(個人)「自分の身体との対話による気づきと回復」

満員電車での通勤や定例会議、判子をもらいに机に尋ねるネゴシエーションなど、私たちの日常は「人と会う」ための移動や調整に溢れていました。これまで当然だと思っていた前提の多くが無くなったり一時停止されたことで、「自分のペースで仕事ができる」「合間に家事ができる」と言った声も多く聞かれました。また、「じっとしていると思考も固まる」など身体と精神のつながりを改めて実感したようです。

こうして生活様式の判断の中心に「仕事をする場所と時間」を置き、身体的に無理な負荷をかけて、それをお金をかけてケアしていた…という事実に気づいたのが今回の経験の一側面です。期せずして身体の健康を回復した結果、私たちは何を得たのでしょうか。

加えて、今回のインタビューで印象的だったのは、多くの方が「今の仕事」以外のつながりの重要性を実感していたことです。ボランティアや副業で以前からzoomやSlackを使っていた、社外でのネットワークを活用できる機会になるのではなど、多様な環境に身を置いておくことが、これまでの慣習に捉われない対応力になったと意味づけています。

自分の身の丈から時間やお金やつながりの資源配分を決める
場所の制約がなくなり、現在の仕事が永遠に安定しているわけではないと気づいた時、そもそもどのように生活したいのか、どのようなつながりを持っていればいいのかについて考え直した人も多いのではないでしょうか。

こうした気づきが、忙しい毎日の「不」を商品やサービスで問題解決するような、或いはSNSの向こうを意識して「『コト』を購入する」ような消費スタイルを変えることになるのかはまだわかりません。ただ、居住地域や余暇の過ごし方など「自分にとって優先順位の高いこと」により素直な暮らし方を立ち上げていくきっかけになるとは考えられます。

自らで“あらゆる健康“を管理する(社会はその管理を支援する)
もう一方で、仕事や通勤が生活のペースメーカーにならなくなったことから、時間や健康をセルフコントロールする責任が、職場ではなく個人に移ってきたようです。管理主体が移行する中で「ヘルスケア」は身体的な健康だけでなくより広義に拡張していくかもしれません。メンタルはもちろんのこと、ファイナンスやコミュニティなど「X-Health Care」という概念です。こうした広義の「well-being」を実現するためのイノベーションもより加速していくでしょう。同時に、こうした管理を市場機会や自己責任だけで処理せず、自分“たち“の生活を自分“たち“でマネージしていく社会づくり、孤立を防ぎ共に解決していく取り組みもまた必要になると思われます。


これからのイノベーションにつなげるために

以上のような分析と考察は、特定の商品カテゴリーやテーマ領域を想定したものではありません。これから「ポストコロナのイノベーション」に取り組むには、ここからより具体的な行為や思考の変化を予測したり調査をして、仮説を創造していくプロセスが必要となります。

画像3


体験ワークショップを開発しています

UCI Lab.では、今回の調査で得た38の気づきをカード化して各社の仮説創造の導入をサポートするワークショッププログラムを、現在急いで準備しています。
ワークショップや調査結果の詳細については、以下にお気軽にお問い合わせください。

画像2

渡辺隆史 プロフィール
UCI Lab.所長(株式会社 YRK and)。
ラボ全体の司令塔的なひと。全プロジェクトの入り口での設計や調査やコンセプト創造における統合(Synthesis)のパートなどを行っています。
UCI Lab.のメンバー像「共感する人」「まとめる人」「絵で話す人」の中の「まとめる人」。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?