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第2回.ひとつひとつのプロセスを丁寧にたどるということ

1.なぜ多くのプロセスがあるのか?

UCI Lab.型プロジェクトの場合
通常、私たちがアイデア創造のお仕事をいただいた際、「ほどく」「共感する」「つくる」「届ける」という4つのプロセスに基づいて設計します。

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一見「なんだ4ステップか」と少なく感じるかもしれませんが、実際に設計するときにはそれぞれのプロセス内はさらに細かく分かれていたりします。

分解すると見えてくる細かなプロセス
さて、今回のオモテプロジェクトですが実際のプロセスは以下の通り。

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櫛研究室に依頼をした「アイデア創造」のプロセスだけでも9つもあります!
さらに期間でいうと、調査スタートが2019年5月、未来生活ムービーの完成が9月末と足掛け4カ月のプロジェクトでした。
※あくまで、”今回の場合は”という注釈つきです。

プロセスは飛ばせないのか? 
プロセスは多い、期間は長い、となると「これ、全部やる必要あるのかな?」とか「プロセスの最初の方で良いアイデアが浮かんだりすればそれで良くない?」と思われる方もいるでしょう。

でも、今回メタプロジェクトでの観察と分析を通じて(先生方に振り返りインタビューを行い)、これらのプロセスをひとつひとつ順に丁寧にたどることに様々な意味があることが分かったんです。

2.目の前のことに集中できる

自ら制約を作らないために 
日頃、メーカーの方と仕事をしている私が目にするのは、例えば、本来は自由な発想をするべきブレストの時にも先々のこと(製造工程、コスト、売り方…etc.)にとらわれているプロジェクトの参加者の姿です。
もちろん、それは商品やサービスを世に送り出すには必要な視点です。
しかし、「金型を一から作らないといけないからコストがかかる…」「うちの今の技術じゃ無理かな…」というように自ら制約という「枠」を作り、せっかく新しいアイデアが生まれる前に、出てくるアイデアの幅を狭めてしまうという危険性をはらんでいます。

そんな時、有効なのが「プロセスを分ける」ことです。
「今、この〇〇分は強制的に目の前のワークに集中する(それしか考えない!)」という時間を取ることで、先ほど出てきたような「枠」を一旦切り離すことができるのです。

みんなが目の前のことに集中する大切さ 
また、様々な考えを持った人たちがグループで仕事をするときに、各々がバラバラな方向を見ていてはいつまでたっても進みません。
ここでも、「気になることは後できちんと時間をとるので、安心して今は目の前のワークに集中してください」とプロセスを区切り宣言することでみんなが同じ目の前のゴールに向けて取り組むことができるのではないでしょうか。

3.ベースの情報を揃えていける

必ず生じる”情報”のバラつき
プロジェクトの初期は、どうしても参加者の情報量や前提知識にバラつきがあります。
今回の場合は、7家庭の動画を分担して観察していったので、メンバー全員が全ての家庭をしっかり見ていたわけではありません。
当然、自分の見ていない家庭の情報は明らかに不足しています。
また、アイデア創造を担ってくれたのは子育て経験のない学生たちです。
身近に子育てしている人がいないと「子育て家庭」に対するイメージがわきづらかったり、テレビや小説の中の「子育て家庭」を先入観として持ってしまう可能性もあります。

そんな情報量のバラつきや先入観を一気に解消するのは至難の業です。
でも、順序だてて取り組むことで、ベースとなる情報を揃えて行くことができるのです。

まずはベースを整える
例えば、最初に行ったビデオカードゲーム
(注:一次分析。調査現場で何が起こっていたかを客観化するグループワーク。)

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分担して作成した「発見クリップ」を元に、今回の調査で分かった「要はこういうことが起こっていた」という全体像をディスカッションしながらまとめていきます。

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このまとめていく過程で、様々なディスカッションを通じ不足していた情報を補うことができます。
また、今回の調査でどのようなことが言えるのかといった「共通のベース」(前提)が整います。

個人の”先入観”に気づく
そして、次はカードファミリー。(注:二次分析(統合分析)。主観に基づいたニーズの仮説)
先ほどのビデオカードゲームを通して得られた個人の気づきを共有します。
個人の気づき=主観に基づくものなので、創造的な洞察に近づく一方、先入観が大きく反映されるのもこのワークです。

文化人類学者の松村圭一郎氏は「これからの大学」という本の中で、「ゼミ」の役割について次のようなことをおっしゃっています。

それぞれの見解を示し合うなかで、相互の位置関係がみえて、ようやく自分が「まだ理解していなかったこと」を知ることができます。(中略)ひとつの意見を、まったく異なる角度から考えてみる。すると、まともだと思っていた見解にも、違う理解の可能性が出てきます。「わかった」と思っていたことが、じつはあまりわかっていなかったことも、この「対話」のなかでみえてくるのです。(pp.51-52.)

個人の気づきを共有していくことにより、自分が持っていた思い込み(先入観)に気づくことができますし、他者の視点も取り入れることができ理解の可能性が拡がります。

まずは、前提の情報をみんなで揃える(ビデオカードゲーム)、それから他者の視点を取り入れる/先入観に気づく(カードファミリー)と、段階を分けることで、全員の理解度がそろっていくのです。

4.情報が整理されていく

膨大な情報を理解する
今回のプロジェクトでは、7家庭分の動画が情報源です。
朝食準備から片づけまででだいたい30~90分ほど。それがリビングとキッチンの2拠点分。30~60分×2拠点(リビング・キッチン)×7家庭分の動画。
すべて目を通すには、ものすごい情報量です。

こんな膨大な量の情報を一気に与えられても、なかなか理解するのは難しいですよね。
頭の中がパンクしてしまいそうです。
かといって、参加者が気付いたところ(表層)だけを拾って進めてしまうと、取りこぼされてしまうことも出てくるでしょう。

プロセスによる整理
そういう問題意識で、今回のプロセスをみてみると、上手く情報が整理されていくようにデザインされているのが分かります。

一部ですが、抜粋すると以下のような感じです。

*********************
①ビデオカードゲーム
→客観的視点、一般化により「要はこういうことが分かった」という整理
②カードファミリー
→そこから得られた主観的な気付きの抽出、仮説的ニーズの量産
③ニーズの構造化
→カードファミリーの整理により、これからやっていくことの定義付け(アイデアのテーマ設定)
④アイデアブレスト
→アイデアのタネを量産
⑤アイデア統合
→量産されたアイデアのタネから、今回のテーマやニーズに基づき筋の良いアイデアを束ねていく
*********************

順を追うほどに情報が整理され、同時に次のワークにスムーズにつながっています。
ステップを細かく分解することで、大切な情報をとりこぼさないようにも工夫されています。

5.ワーク間の橋渡し

次のワークをいかにやりやすくするか
さらに、ワークとワークの間には橋渡しになるような工夫も見られました。
例えば「ニーズの構造化」から「アイデアブレスト」に移るとき。

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テーマと書かれた部分が、この後で行うアイデアブレストのテーマになります。
このテーマ、よく見ると問いがセットになっているのが分かります。

例えば、『食べ方』というテーマに対して「いかに子どもが自分で食べるか?」という問い。

これは、以下のような調査の気づきから出てきたテーマです。
・食事の途中で飽きてしまう
・手づかみ食べ
・食べるまでの準備
・食べやすいように調整

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少しの工夫がクオリティに影響していく
確かに、『食べ方』というテーマと上記の気づきの組み合わせだけでもアイデアは出せなくないでしょう。
でも、両者の間に「いかに子どもが自分で食べるか?」という問いが補足されることにより「飽きずに食べるにはどうしたらよいだろう?」とか「一人で食べやすくするにはどうしたらよいだろう?」といった踏み込んだ問いや、現場のシーンが思い浮かぶような具体的なアイデアが生まれるのです。

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ちょっとしたことですが、プロセスを順番に進めることで次のワークがやりやすくなる工夫がデザインとして盛り込まれているのです。

6.まとめ

ひとつひとつプロセスを丁寧にたどる理由
今回のまとめは以下の通りです。

・プロセスを分けることで「目の前のことに集中できる」
・順番に進めていくことで参加者の「ベースの情報が揃えられる」
・プロセス自体がうまく「情報を整理」できるようにデザインされている
・次のワークがやりやすいようワーク間の「橋渡しの工夫がある」

面倒くさいとひとっ飛びにせずにひとつひとつのプロセスの意味を考えながら丁寧に進め行くことが結果的に良いものを生み出すことに繋がっていくのではないでしょうか。

次回は、「プラットフォームを作るということ」についてご紹介したいと思います。

大石瑶子 プロフィール
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK  and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター

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