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ポストコロナの価値観に向けて 記録し、貢献し、思考する(第1回)

生活者起点でのイノベーション実践を支援するUCI Lab.では2020年4−6月に、「コロナ禍による行動変容をケアするオンラインインタビューとその考察」と題した自主調査プロジェクトを実施しました。
ここでは、このプロジェクトの狙いと設計概要についてお伝えします。


いま・ここでできること ー プロジェクトの狙いと想い ー

2020年の春、私たちは新型コロナウィルス(COVID−19)によって、突如、一斉に、大きな行動変容を迫られました。それは見えないものに対応し我慢する日々であり、意外な発見や工夫を編み出す経験でもありました。

この数ヶ月と今後も続く新しい生活様式の影響は、「困り事」や「欲しいもの」といった表層的な消費スタイルに留まらず、もっと深く、私たちの行動の判断基準(規範や未来予想など)を大きく揺さぶっていくのではないでしょうか。

そこで私たちは、今ここで起きていることをできるだけありのまま受け止めて記録するために、オンラインでのIDI(デプスインタビュー)調査を13名に対して実施しました。大切だけど、少し経つと忘れてしまいそうな物事についての聴きとりです。

だから僕は今、忘れたくない物事のリストを一つ作っている。リストは毎日、少しずつ伸びていく。誰もがそれぞれのリストを作るべきだと思う。そして平穏な時が帰ってきたら、互いのリストを取り出して見比べ、そこに共通の項目があるかどうか、そのために何かできることはないか考えてみるのがいい。(『コロナの時代の僕ら』pp.109-110)

そして、このインタビューには調査以外のもう一つの目的がありました。それは私たちが日頃仕事で培っている専門技能を活用して、少しでもこの社会に貢献できないかという想いです。

UCI Lab.の「生活者起点」は生活の現場への調査に支えられています。これらの調査は従来のマーケティングリサーチをベースにしつつ、より広い視野で現象をとらえるために、臨床心理学や人類学などの学術的知見を取り入れて実施されています。

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ただ新型コロナウィルスをテーマにインタビュー調査をするのではなく、日常は商品・サービス開発プロジェクトのために活用しているスキルを、突然の強制的な行動変容で少なからず混乱しているであろう人々のために役立てたい。そのような想いもあり、今調査では「こちらが聞きたいことを直接聞き取る」構造を極力避けて、まずカウンセリング的意味合いの強い2つのワークをオンライン上で行うことにしました。そして、すべてのインタビューが終わった後、全員のテキストの集合から意味を解釈し事後的に構造を見出していくという方法を用いました。

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おそらく「あなたは“アフターコロナ“にどのように価値観が変わると思いますか?」と聴いてもまだ誰もうまく答えられないでしょう。
人は大きな外的環境変化に遭遇した時、まずは不安や反発といった心理面での「一次的反応」が表れ、次第に落ち着いてくると順応しようとする「二次的反応」の行動に移行していくそうです。今はまだネット上でも、様々な一次的反応(心理的ストレスの表明)やとりあえずの対処行動が蠢いている状態に見えます。
こうしたまだ全体像がつかめない大きな問題に出会ったとき、自分が知っている理解の枠組みへ拙速に当てはめるのではなく、わからない状態のまま開いておき、できるだけ深く思考するための設計哲学でもあります。


2つのワーク ー 調査概要 ー

調査はオンラインインタビューの形式で行われ、4月28日から5月26日にかけて断続的に13名の方を対象に実施されました(ご協力いただいた皆様ありがとうございました!)。

対象者は調査会社のパネル等は用いず、ラボメンバーの知人の方を中心にお願いしました。結果的にですが、研修講師や飲食店経営など様々な職種で、年代性別や家族構成なども幅広い生活環境の方のリストになりました。
インタビュー自体は基本1時間で、大石のNLPでの知見を活用した「優先順位のワーク」と、キャリア開発などで実施される「役割マップのワーク」を行いました。ワークを通じて対象者の方の価値観や環境を整理しながら、新型コロナウィルスの影響による変化についてお伺いし、今後の予測や意向とそのために活用できるご自身の資源をリストアップしていきます。

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先ほどは人々の行動変容による混乱をケアすると述べましたが、これはあくまで副次的な目的であり主目的はインタビュー調査です。13名の皆さんには、特にカウンセリング的な意図や想いはお伝えすることなく参加してもらいましたが、「次のアクションにつながるセッションだった」「いろいろ頭が整理されました」と言った感想をいただきました。

私たちの当初の貢献への想いがどれだけ実現できているのかはわかりませんが、少なくとも「こちらが欲しい情報をできるだけたくさん聞き出す」という主客の構造をできる限り避けた、対話的な場での言葉を記録できたのではないかと自負しています。

※ 今回の自主調査プロジェクトは一旦完了していますが、上述のインタビューセッションを受けてみたいという方については随時実施する準備があります。ご興味がある、必要とされている方はご連絡ください。

緊急事態宣言中の4−5月にオンラインで行われた2つのワークを通じて、一体何が浮かび上がってきたのか。続いての第2回では、調査の分析結果についてお伝えします。(つづく)


渡辺隆史 プロフィール
UCI Lab.所長(株式会社 YRK and)。
ラボ全体の司令塔的なひと。全プロジェクトの入り口での設計や調査やコンセプト創造における統合(Synthesis)のパートなどを行っています。
UCI Lab.のメンバー像「共感する人」「まとめる人」「絵で話す人」の中の「まとめる人」。

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