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第6回.メディアを変えるということ

1.メディアを変えるとは?

メディアとは何を意味するのか
アイデア創造において「メディアを変える」とはどういうことでしょうか。
「メディア」という言葉は、日常生活でもよく耳にすると思います。分かりやすいところだと、新聞やTV、ラジオといったものが思い浮かぶのではないでしょうか。今回は「手段」「方法」「媒体」といった意味でこの「メディア」という言葉を使用します。

さて、以前もご紹介しましたが今回のアイデア創造プロジェクトのプロセスは以下の通り。

#06挿絵

この中の『プロトタイプ』『シナリオ生成』『未来生活ムービー』に着目し、それぞれを「メディア」と表現したいと思います。
各メディアの目的と中身は次のようなものです。

『プロトタイプ』:商品アイデアを実際に具現化するための試作工程
『シナリオ生成』:未来生活ムービーを制作するためのストーリー、絵コンテの作成
『未来生活ムービー』:商品アイデアが実際にどのように活かされるのかがイメージできる動画(及びその撮影・編集作業工程)

このような説明をすると、『プロトタイプ』や『シナリオ生成』は単に『未来生活ムービー』を作るための一工程なのでは?と思われるかもしれません。
確かに表層上の手順の解釈としては間違っていませんが、「『未来生活ムービー』をより良いものにするための工程」という以上の意味合いがあったのです。

2.検証の視点が増える

フレームが変わると見えることが変わる
”書類をプリントアウトしてみて初めて、パソコンのモニターでは気がつかなかった文字間違いを見つけた。”
こんな経験をしたことがある方は案外多いのではないでしょうか。

メディアを変えるということにもアイデアへの様々な気付きを得るという点で同様の意味合いがあります。
例えば、プロトタイプを作るときには気にならなかったことに、シナリオを作ってストーリーにすると違和感が出てくる。シナリオ上は問題なかったのに、ムービー撮影の現場で演じてみると使い勝手が悪い部分が出てくるなど…。

6回①

上の図でも分かる通り、それぞれのプロセスで検証しているところや視点が少しずつ変わってきます。もちろん最初の『プロトタイプ』作成でも、使われ方は想定しています。でも、『シナリオ生成』や『未来生活ムービー』における使われ方のリアリティにはなかなか及ばないのも事実です。

このように強制的に視点を分けていくことで、見えていなかった問題箇所や修正点に気づくことができるのです。※ちなみにプロセス上は『プロトタイプ作成』→『シナリオ生成』という”順番”になっていますが、実際には上記のような多くの”気づき”(修正箇所など)があるため何度もこの工程を行き来します。

3.ブラッシュアップされ「精度」があがる

”生活者にとって”より良いものへ
先程の「検証の視点が増える」ということは、プロダクト自体の「精度」が上がっていくことを意味します。完成したコンセプトの一つである『もぐもぐカップ』ができるまでの過程を追いながら、どのように、”何が”精度アップをしていったかを見ていきましょう。

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『もぐもぐカップ』ができるまで
『もぐもぐカップ』は手づかみ食べができる器。ポテトサラダやディップなど様々な食材をのせることができるので普段の食事としてはもちろん、ジャムやフルーツなどをのせるとおやつにもなる食べられる器です。

第3回の記事でも触れましたが、このプロダクトの大元のアイデアは「子どもが手でポイポイ、口に入れられる」というところからスタートしました。

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『プロトタイプ』に移る前のブレストでは、「子どもが手づかみで食べられる」を切り口に、のり巻きや生春巻きのように巻いて食べられるものからトルティーヤやピタパンのように挟める(包めるもの)まで様々なアイデアが挙がっていました。

上記で出てきた食材に加え、試作の材料調達のために買い物に行った先で見つけた”湯葉”や”お麩”なども購入して『プロトタイプ』がスタート。湯葉やライスペーパーを焼いたり成形して、ニンジンなどを挟んでみます。すると、思ったより手間がかかったり、口当たりが悪かったり、おいしくなかったり(「ビニールみたい!」というものもあったようです)など…。実際に作って食べてみることで子どもに食べさせるにはふさわしくなかったり、忙しい朝食のシーンでは適さないものがあることが分かります。

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そこで、出てきたアイデアが「器」という形状。器なら、上に食材をのせればOKなので作る手間はかかりません。また、器自体が食べられれば片づけの手間も省ける! より実際の現場(子どものいる朝食風景)に即したものにブラッシュアップされているのが分かります。

とはいえ、その後の器タイプのプロトタイプづくりも一筋縄にはいかなかったようです。

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撮影現場で分かること
『未来生活ムービー』撮影現場では、出演してくれた子どもさんが甘いジャムばかりもぐもぐカップにのせて食べていたそうです。シナリオでは「朝食風景」のストーリーなので、できれば朝食らしいもの(コーンマヨやポテトサラダ)を食べている動画が撮りたかったようですが、なかなか思い通りにはいきません。

でもこれも、実際の現場で演じてみて(それも忖度を知らないリアルな子どもさんが演じたからこそ)分かったリアルな実態です。実際に商品化するならば、子どもが率先して食べるような味付けの工夫も必要かもしれません。

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確かに、プロトタイプや未来生活ムービーを作らず、アイデア段階のものを「コンセプトシート」などにまとめることは可能です。

でも、頭の中だけで考えていたら、果たして上記で出てきたような”気づき”を得られたでしょうか。実際に手を動かし、作り、食べてみたり、演じてみることでその中に潜む違和感・改善点に気が付くことができたのではないでしょうか。そして、そのことによりアイデア自体の「精度」があがったということができると思います。

また、ここで大事なポイントは私たちが考える「精度」のとらえ方です。通常「精度があがる」という言葉は、「ラフだったものがどんどん精密になっていく」(ex.ラフなデッサンから精緻なところまで描き込んで仕上げていく)という意味合いで使われると思います。これは、あらかじめ”正解”があってそれに向けて近づけていくイメージだと思います。一方で、アイデア創造においては決まった計画書通りに完成させていくのではなく、目指す完成イメージもどんどん変わっていきます。そして、その時の指標は「生活者にとってより良いものになっているかどうか」なのです。プロセスを通じてもっと「生活者にとってより良いもの」にしていくために、メディアを変え、様々な視点で検証をしているのです。

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4.メディアを変えるということの意味

なぜ、メディアを変える必要があるのか?
今回のまとめは以下の通りです。

・メディアを変えると見る視点が変わるので検証の視点が増える
・結果的に生活者の実態に即したものにブラッシュアップされていき、アイデアそのものの「精度」が上がっていく

繰り返しになりますが、この時のポイントはユーザーの視点で精度を上げるということ。「実際の現場では成立するか?」を念頭に、メディアを変えて作りこんでいくことで、より現実に即したリアリティのあるものにブラッシュアップされていくのです。

次回は、「未完成の段階で検証するということ」についてご紹介したいと思います。

大石瑶子
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK  and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター

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