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第4回.言葉選びのセンスを磨くということ

1.なぜ言葉選びにセンスが必要なのか?

言葉にこだわる先生たち
先生方に対する振り返りインタビューで、強く印象に残った発言の一つに”言葉選びにはセンスが必要”というものがあります。

「言葉選びのセンス?何を大げさな」と言われるかもしれません。
また、「センスとはどういうこと?客観的に”正しく”記述するべきなのでは?」とも思う方も多いでしょう。

ここで言いたいのは、「キャッチフレーズみたいにかっこいい言葉を使うセンスを磨きなさい」ということではありません。
では、先生方がおっしゃった”言葉選びのセンス”とはどういうことなのでしょうか?

実際にアイデア創造の現場を観察していくと、先生方が執拗に言葉に対してこだわるシーンが沢山見られました。それらのシーンを例に、”言葉の選びのセンス”についてご説明していきます。

シーン①『発見クリップ』作成時
『発見クリップ』は、各家庭の動画から”気づき”や”引っかかり”のあるシーンを取り出し、ポイントを説明する言葉を添えてカード化したもので、後のビデオゲームやカードファミリーといったプロセスで分析の素材として使用されます。

『発見クリップ』は次のような流れで作ります。
・3~4名で動画(15~30分程度に編集済)を1~2回通しで見る。
・その後、動画を止めながら”気づき”や”引っかかり”のある部分をピックアップする。
※この時の視点は「①行為者の意図と実態のズレ、エラーが発生していること、②上手く環境を活用できていること」
・”気づき”や”引っかかり”に名前(キャプション)と背景の説明(プロパティ)をつける。

4回①+1

このような手順で1家庭分10~15枚の『発見クリップ』を作成するのに、3~4時間かかります。

なぜそんなに時間がかかるのか不思議に思い、振り返りインタビューで先生方に詳しく伺うと
「(発見クリップの)”気づき”を出すのは学生でもできるけど、どういうキャプションをつけるかはセンスや経験が必要。キャプションをつけるのに5分、10分考えたりします」とのこと。

この作業、基本的には先生(櫛先生・畔柳先生どちらか一人)もメンバーとして参加するようにしていましたが、どうしても都合がつかないこともあります。そこで、学生たちだけで作成した『発見クリップ』に関しては、後日先生方で「キャプション」の表現の仕方などについて1時間(!)近くかけて修正をしていたそうです。その際も、櫛先生・畔柳先生どちらかが一人で行うのではなく、お二人で対話をしながら表現を練り上げていたようです。

シーン②『ビデオカードゲーム』ワーク中
『ビデオカードゲーム』は調査現場で何が起こっていたかを客観化するグループワークです。まず先程の『発見クリップ』を使って内容が近しいものを分類(グループ化)します。さらにそのグループ同士についても、「グループAとグループBが相互に関係しあっている」「グループCの結果グループDになる」といった関係性を配置の中で表現します。そして最後に分類されたそれぞれのグループに対し名前をつけます。

4回

このワークは実際に現場で観察していたのですが、最初の分類の段階で「このカード(『発見クリップ』)は本当にこのグループに入れてよいのかな?」と何度も議論をします。さらにグループとグループの位置関係についても、「このグループとこのグループは近くにあるべきだね」といった形で何度も確認をしていきます。先生が答えを知っていて、正しい分類になるように先導しているというよりは、対話する中で最適なグループがどのようなものか、配置はどういうものかを、みんなで作り上げているといった印象でした。グループ名に関しても、「これってどういうことかな?」というやり取りを繰り返す中で何を意味する分類グループなのかが明確になっていき、対話の中から決まっていくように見えました。

4回②

なるほど、こうして二つの事例を見るだけでも、先生方は言葉の選び方・表現の仕方にとてもこだわっていそうです。
そして、詳しく見ていく中で、”言葉選びのセンス”には、どうやら着眼点であったり適切な圧縮の仕方が関係していること分かってきました。

2.意図が的確に伝わるか

伝えたいことは本当に伝わっている?
先程例に挙げた『発見クリップ』で詳しくご説明します。繰り返しになりますが、『発見クリップ』とは、動画を見ての”気づき”を切片化した(切り取った)もので、画像とキャプション・プロパティで構成されています。”気づき”を取り出すことが目的なので、何が起こっていたかという”現象そのもの”ではなく、”それが意味するものは何か”を表現する必要があります。

次の画像をご覧ください。

4回③

食事を全て食べ終わった子どもがお母さんと手を合わせている、何とも微笑ましいシーンです。

このシーンに対して、学生たちが最初につけたキャプションは『食事完了の挨拶』です。確かに食事完了の挨拶をしていたというのは”現象””としては間違っていません。

でも、この言葉では
「お母さんが残さず食べた子どもを褒めている」ということや
「全部食べたことによる達成感」
といったニュアンスは伝わりません。

そこで、『食事完了の挨拶』から『ハイタッチで褒める完食』と修正されました。

4回③-1

4回③-2

同じシーンの切り取り方も着眼点を変えると受ける印象がだいぶ変わっていると思いませんか?

3.端的に表現されているか

長い言葉は読み手の負担になることも…
伝えたいことをもれなく説明しようとすると、どうしても長文になってしまいます。
先ほど例に挙げた『ハイタッチで褒める完食』も、意図を事細かに伝えようとすると

『子どもが完食した際のハイタッチが、食事が完了したことを示すと同時に残さず食べたことを褒めているということを伝えている』

といったように長々と説明することができます。

書いている私ですら頭の中がこんがらがってきましたが、こうした説明文が大量にあったらどうでしょう。

ちなみに今回の発見クリップは一家庭10~15枚、7家庭分を合わせると全部で90枚あります。90枚分こんなに長い説明を読むとなると、かなりの負担ですよね。

また、文字だらけのものを目の前に出された時点で、そもそも読むこと自体を放棄されてしまう可能性もあります。(文字だらけの企画書を読んでもらえないのと似ているかもしれません)

だからこそ、必要な要素をぎゅっと圧縮して、且つ伝わる表現にすることが求められるのです。

もう一つ例をご紹介しましょう。下の画像をご覧ください。

4回④

作った卵焼きを、半分はトレイにのせ朝食用に出し、残りの半分は保存用にラップに包んでいるシーンです。(一度に出さないのは子どもの一食分には多いからだそうです)

丁寧に説明しようとすると

『調理者である母親がが作りやすい分量(卵一個分)と、実際に子供が一度に食べられる量には差がある』

となりますが、少し長すぎます。

そこでキャプションは『作りやすい量と食べられる量の差』、プロパティは「時間短縮・作り置きの確保・小分けにできない卵」と表現。

4回④-1

4回④-2

どうでしょうか。キャプション自体はだいぶ短くなりますが、プロパティで必要な情報を補足してくれるので十分に伝わります。このように、情報にメリハリをつけることで読み手の負担を減らし理解しやすく整理することができます。

一から十まで丁寧に説明することが必ずしも良いとは限りません。
伝えたいことを端的な言葉で表現する、その時にどのような言葉を選べば伝わるか、といった技量が試されるところです。

4.そもそもなぜ言葉が大切なのか

言葉は全ての起点になる
そもそもなぜ言葉を重視するのでしょうか?
答えは「言葉があらゆるものの起点となるから」です。

アイデアを出すにも、理解を深めるにも「言葉」がきっかけとなって進んでいきます。
前述の『発見クリップ』も『ビデオカードゲーム』や『カードファミリー』の素材となるため、意図と違う解釈のされ方をしてしまうとその後のプロセスが間違った方向に進んでしまう可能性があります。
だからこそ、誰が見ても誤解なく理解できる表現である必要があります。
人によって解釈の仕方にバラつきのある表現はふさわしくないのです。

4回⑤

どうすれば伝わる言葉になるか
では、どのように誰が見ても理解できる言葉を探せばよいのでしょうか。
そのヒントもプロジェクトの中にありました。

それは”ディスカッション”です。

前述した通り、『発見クリップ』の作成は複数名で行いました。”気づき”や”引っかかり”には多様な視点があることが望ましいという側面ももちろんありますが、複数名で行うことには「自分が感じた”気づき”や”引っかかり”をきちんと相手に伝えられるか」を対話を通じて検証するというチェック機能も持っていたのです。考えていることを正しく伝えるのは意外と難しいものです。どのような言い方(表現)をすれば誤解が生じないか、より良い伝え方はないか、ということを相手とのやり取りの中で探っていくことができるのです。

5.言葉のセンスを磨くということの意味とは?

なぜ言葉のセンスを磨く必要があるのか?
そして、言葉のセンスとはどのようなことか?
今回のまとめは以下の通りです。

言葉のセンスとは
・意図が的確に伝わること
・端的に表現できること
そして、言葉のセンスを磨くのは言葉がプロジェクトを方向づける重要な意味を持っているから。

言葉のセンスとは決してかっこいいキャッチフレーズのようなことではありません。

誰に対しても伝わる言葉を選ぶということが大切なのです。

だからこそディスカッションをする中で多様な視点に触れ、対話をしていくことで言葉選びのセンスを磨いていく必要があるのではないでしょうか。

次回は、「場を整えるということ」についてご紹介したいと思います。

大石瑶子
UCI Lab.所長補佐(株式会社 YRK  and)。
チーム内では「共感する人」として主に定性調査やワークショップを担当。
■全米・日本NLP協会認定マスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー、ワークショップデザイナー、リフレクションカードファシリテーター

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