『王妃の帰還』読書感想文
著者:柚木麻子
出版社: 実業之日本社
あらすじ: 聖鏡女学園中等部二年の範子は、仲良しグループで地味ながらも平和に過ごしていた。ところが、公開裁判にかけられ地位を失った滝沢さんを迎えることとなりグループの調和は崩壊!範子達は穏やかな日常を取り戻すため「プリンセス帰還作戦」を企てるが…。女子中学生の波乱の日々を描いた傑作長編。
読み応えありますが、テンポが良いので1日で読んでしまいました!
女子中学生を経験した事のある方なら少なからず「わかる〜」となってしまうんではないでしょうか?
中学生ってなかなか絶妙な年齢ですよね。
何もわからない子供でもないけど、大人でもない。相手の気持ちも分かるけれど、自分自身も多感で繊細な時期だから、自分を守る為に無邪気に相手を傷つけちゃったりね。
この本を読んで「わかるわかる」となる反面、「いや、いくら何でもここまで酷くは無かったぞ」とも思ったけれども、いやいやいや、あったあった。記憶は綺麗になっちゃってるだけだわ。
確かにその頃「スクールカースト」って言葉は無かった。でも確実にクラス内に階級は存在してたなぁと思います。
いわゆる流行りに敏感で目立つグループ、大人しいグループ、趣味がハッキリしているグループみたいな感じで派閥があって、どっちが上、どっちが下とははっきり言わなくてもそういう空気がありました。
たぶん男子達は気がついてなかったけど、上位階級じゃなきゃ昼休みのボール遊びは出来なかった(ボール貸してもらえない)し、学年で人気の男子とちょっと喋るのさえ文句言われる世界だった。
あの頃の私たちにとっては教室が「全世界」だったし、何かしらのグループに属していないと生き残っていられなかった。
私は中学3年生の時にいわゆる目立つグループにいました。そのグループは外から見ると仲が良かったけれど、定期的に順番にターゲットが入れ替わってグループ内で軽い仲間外れみたいな事をやっていました。
リーダー格の子の態度で、「あ、今度はこの子がターゲットなんだ」と分かるんです。
積極的に参加もしなかったけど、それを注意もできなかった。
ある日自分の番がまわってきたので、あっさり私は脱退しました。脱退できて少しホッとした気もしたのを覚えています。
運良く他のグループに拾われたのと、あっさり抜けた事で焦ったのか、元々のグループの子達も元どおりに接してきたので、その後の中学生活は平和に過ごせました。
こういう人間関係のぐちゃぐちゃって、
大人になってみればなんて小さな事で悩んでいたんだろうと思うけれど、中学生にとっては人生を左右する一大事なんですよねぇ。
そういう中学生女子ならではの心情が決して暗くなくイキイキと綴られています。
全体的に爽やかで瑞々しい印象の文章です。
あともう一つ、すごく良かった事。
彼ら中学生を取り囲む大人たちの心情も同じように細かく描かれているので、大人になった今でも共感できる部分があるし、ぐっとリアリティー増すように感じます。
中学生当時は友達の一面しか見てなかったし、自分自身の事も一部分しか知らなかったような気がするけど、誰の中にもノリスケやチヨジやスーさんやリンダさんも王妃もアッコも黒崎さんも村上さんもいるって事。
比率は違えど、華やかなものに憧れたり、誰かになりたかったり、自分の好きなものを極めたかったり、友達と絆を感じてみたかったり、そういうのはきっとみんな持ってるよねと思いました。
今まさに人間関係に悩む中学生たちにも、
かつて中学生だった人たちにも、
そしてぜひ、年頃の娘の気持ちが分からないお父さんにも読んでもらいたい。笑
彼らの世界はとても狭くてとても広い。
最後がハッピーエンドなんだけど、元通りっていうわけじゃない、でも登場人物全員が少し成長して、初めよりは少し良くなっている感じも良かったなと思います。
不思議な爽快感がある作品でした。
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