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わたしの“一軍”香水、精鋭たち②
手持ちの香水、8本のうち、今日はシャネルの「31 rue Cambon(リュ カンボン)」を紹介したいと思う。
実はこれ、「手持ち」であって「愛用」ではない。
もっと正確に言うと、「格上すぎて未だにまとえない」のだ。
もちろん大好きな香りなので、いつか、とは思っている。
しかし自分がこの香りに見合うようになるには、少なくともあと10年は経験を積まないとならない(気がする)。
ぬるま湯生活では、香水から怒られてしまいそう。
「出直してきなさい」
いや、本当にこう言われるのだ。
今まで何度も手に取ったが、実際に「31 rue Cambon(リュ カンボン)」をまとって外に出たことがない。恐れ多くて。
「まとう人を選ぶ」とは、「31 rue Cambon(リュ カンボン)」のためにある言葉なのかもしれない。
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“レ・ゼクスクルシフ”シリーズとは、シャネルの高級フレグランスラインのことで、ブティックおよび一部百貨店にしか置かれていない。
シャネルの三代目専属調香師、ジャック・ポルジュが心血を注いで創り上げたアッパークラスのシリーズだ。
そのなかの一つ、「31 rue Cambon(リュ カンボン)」はシャネル本店の住所を示している。
……ここまでは「へぇ」で終わるだろう。
しかし、ひとたび着ければそれが「おっ」に変わる。
何はともあれ、この香り、戦闘力が高い。
しかも戦いなれている。
戦い終わって、今は画人か詩人でも目指してそう。
この香りの達観した感じを表すなら、芭蕉の名句がぴたりと来る。
夏草や つわものどもが 夢の跡
トップノートは、シャネル特有のアルデヒド。
カンヌ映画祭みたいに華やかなイメージがあって、レッドカーペットが目の前にパンッ! って開ける感じだ。きっとシャンパンも用意されているに違いない。
このイントロでは「旬」なイメージが匂う。
でも、決して派手ではない。
TPOに合わせて、ではなく、「わたしがTPOを作ってる」みたいな強い信念を感じる。
次に漂うシプレの骨格は、百戦錬磨のミドルエイジを思わせる。
バロック調で、ため息をつきながらカウチにもたれかかっている感じだ。
ただファッションとの相性はよくても、食べものとの相性が悪いから飲食店には向かないかな。(フランスだったらOK)
つけてから30分すると、トップの戦闘服は「真綿のローブ」に変わる。
それは、やさしいなんて言葉じゃ物足りない。
あったかくて、「誰のことも愛している」というような博愛の精神が感じられる。
そんなラストノートは7~8時間後、パウダリーの香りで静かに幕を閉じる。
ガブリエル・シャネルが21世紀に生きていたのなら、「これぞ私の香り!」って断言すると思う。
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しかし「31 rue Cambon(リュ カンボン)」は、全体的に孤高だ。
そして孤高でいることを隠さない。癒し系の香りになんか見向きもしない。
ベースにあるのは確固たる「自信」なのだろう。
ところが。
孤高の一部を担う「孤独」が、たまに本人を惑わせる。
後悔に泣く夜もある。
こんなはずじゃなかったと己を呪う日もある。
でも朝になれば、戦闘服を再び身にまとって出かけなくてはならない。
彼女は自分を慕ってくれる若い女性に言うんだ。
「万人受け? なんのこと? それって下心?」
つまり「31 rue Cambon(リュ カンボン)」には、“○○に見せたい”という下心がないのだ。
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イメージはカトリーヌ・ドヌーブ様だろうか。
20代30代じゃなくて、50代以降の。
年齢だけではくくれないが、心が成熟していないと本当に「出直してきなさい」って言われる。
「31 rue Cambon(リュ カンボン)」はたぶん煙草の香りとも相性が良いと思う。
しかし吸わない人にとっては、これは難易度が高い。
だからまとうには乾燥マックスな季節の、1月2月がいちばん良いだろう。
ところでシャネル本店がある31 rue Cambon(リュ カンボン)、パリのカンボン通りには、シャンゼリゼともサン・ジェルマン・デプレともまた違う、粋な雰囲気がある。
すごく小さなカルチエなのだけれど、漂う空気にシャネルの息吹を感じるのだ。
彼女はきっと、今もあそこに住んでいる。
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