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地盤・看板・カバンがないと、政治家になれないのか?

私が高校に入って間もない頃、ロングホームルームの時間に、担任の先生が一人ひとりの生徒と個人面談をした。

昭和の時代のことだったし、先生はプライバシーにはお構いなく、教室の教卓の前に生徒を呼んで、勉強のことや将来の希望などを聞くという形式で面談をした。他の生徒は自習していた。私は教卓のすぐ前の席だったので、クラスメートの話が全部聞こえてきた。

私と同じ列車で通学する仲間のAくんが、「将来は何になりたいんだ」という先生の質問に、即座に「国会議員です」と答えた。

先生は、少しびっくりした様子だったが、「政治家には、地盤・看板・カバンという3つの「バン」が揃ってないと、難しいんだぞ、知っているのか?」と言った。先生はその3つの「〜バン」についてそれぞれ何を意味するのか、丁寧に説明していた。

Aくんは、「はい、わかっています。僕は、その3つのどれも持っていませんが、無理かどうかは、目指してみないとわからないと思います」と答えた。

先生は、とにかく勉強して、いい大学に入らないと話にならない、ということで彼との面談は終わったと記憶しています。

私は、そばで聞いていて、とんでもない夢を持っている奴もいるんだ、思いました。でも、彼が政治家になるのはまず無理だろうなあと、内心思っていました。

Aくんの父親は郵便局に勤めていて、親戚や知り合いにも政治家は一人もいないということだった。

また、ある時、Aくんと2人で電車で帰るときに、車内で彼の物理のテストを見せられた。「こういうテスト、見たことあるかい?」と言って見せてくれたのは、物理の期末テストだった。なんと0点!

0点のテストなど見たことがなく、他人のテストながら、真面目な私は少なからずショックを受けた。

理数系が苦手なAくんだったが、それほどショックを受けているようには、見えなかった。それが私には意外だったので、もしかすると彼は大物で、政治家になれるかもしれないと思い直したことがあった。

また、別のある時、Aくんはロングホームルームの時間を使って、生徒による先生モノマネ大会を開いたことがあった。各教科の先生の口グセや身振り・手振りのマネが上手な生徒がクラスに何人かいたので、モノマネされる先生方を招待して、先生方の前でモノマネを披露した。

モノマネされた先生方も苦笑いや大笑いで大喜びであった。企画力がある奴だなと、感心した。

その後、Aくんは有名私立大学に進学し、最終的には、夢を実現して国会議員になったのである。テレビの国会中継でのAくんの活躍ぶりを見たこともあった。

最近、高校の同期会がありAくんと再会したが、担任の先生との面談ことも物理の0点のテストことも、まったく覚えていなかった。

「大きい夢を持って、それが実現できるまで努力を続けることが大切だ」ということを、若者たちに伝えたいと語っていた。

現在、Aくんは国会議員の職を離れて、大学院で若者たちに政治学を指導している。

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