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【SaaSの新成長戦略】Product-Led Growthとは

—— Zoom、Slack、Shopify、Twilio…
リモートワーク進展とともに、国境を超えて急速な成長をみせるスタートアップ群。

彼らが実践する最新の成長戦略がある。
—— Product-Led Growth(プロダクト・レッド・グロース、PLG)

「プロダクトでプロダクトを売る」

対極にあるのが、これまで、私たちが当たり前にしてきた、
「セールスがプロダクトを売る」Sales-Led Growth(セールス・レッド・グロース、SLG)です。

近年、日本においてSaaSメトリクス、T2D3、The ModelなどのSaaS実践論が急速に浸透しましたが、そのほとんどはSLGを前提に設計されています。

日本のSaaS熱が高まる最中、北米ではPLGを実践するスタートアップが多くの事例を蓄積し、PLG手法を体系化をしていきました。

蓄積されたノウハウが、今の海外SaaSスタートアップの躍進を支えていますが、
そのほとんどは、日本にまだ紹介されていません。

本記事では、PLGが今後の日本のスタートアップの新たな戦略オプションとなるよう、PLGとはどのような手法なのかについて紹介していきたいと思います。

Product-Led Growthとは

まずは、PLG/SLGそれぞれの特徴をまとめた下図をご覧ください。

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ここではぜひ下記の点を押さえてください(後ほど詳しく説明します)。

・ SLGは、Sales sells product :セールスがプロダクトを売る
・ PLGは、Product sells itself :プロダクトがプロダクトを売る

SLGの代表例は、1999年の創業以来、破竹の勢いで成長を続けるセールスフォース・ドットコムでしょう。
当時クラウドが一般的ではなかった時代に、セールスによる地道なユーザーの啓蒙活動と、The Modelに代表される営業プロセスの考案で、現在のクラウドサービス百花繚乱時代の基礎を造ったことは皆さんの知るところだと思います。

——では、PLGはどうでしょうか

「セルフサーブ」「テックタッチCS」といったPLG個々の要素を断片的には理解しているものの、PLGをまとまりある一つの戦略として捉えたことがない方が多いのではないでしょうか?

実は今、Zoom、Slack、Shopifyといったプロダクトドリブンでグローバルを席巻するスタートアップの共通戦略として、PLGが注目を集めています

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出所:What is Product Led Growth? How to Build a Software Company
in the End User Era, Blake Bartlett(2020)

上図は、PLGの名付け親であるVC、OpenView Venture Partnersが選定した「米国上場市場におけるPLG企業一覧」です。
昨年から今年にかけてIPOニュースを賑わせた多くの企業がPLG企業であることがおわかりいただけると思います。

さらに、下図のProduct-Led Growth Index(PLG銘柄をOpenView Venture Partnersが選定後、各種メトリクスのパフォーマンスをソフトウェア銘柄全体と比較)を見ても、PLG企業が上場後も高い成長率を維持し、ソフトウェア銘柄全般に比べ2倍以上高いEnterprise Valueで評価されていることがわかります。

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出所:Product Led Growth Index, OpenView Venture Partners

この他にも、リモート環境下で皆さんの多くが使っているであろう、Miro、Fellow、Notion、Tandemといった米国発のリモートテックも、PLG企業と言えるでしょう。

PLG–いかに早くプロダクトの価値を感じてもらえるか?

このように、コロナ環境下で一層存在感が増すPLGですが、その発想はとてもシンプルです。

——プロダクトをいち早くエンドユーザーに届け、その価値をできるだけ早く感じてもらうこと

PLGでは、まずプロダクトを無料で開放し、エンドユーザーに実際に触れてもらいます。そして、価値を感じてもらったユーザーを有料版へと誘導するのが、PLGの顧客獲得アプローチの定石です。

このプロセスにおいてセールスは、商談を作り、それをこなしていくわけではありません。彼らはCS的に動くことで、サインアップユーザーに対して適切なタイミングで有料化への切替を促すのです。

ここで重要なのは、ユーザーが有料版に切り替えるまでの間に、ほとんど人の手を介すことがないということです。あくまで、エンドユーザーがプロダクトに価値を感じ、自発的に有料版へと切り替えるようなプロダクト設計をするのがPLGの特徴と言えます。

つまり、PLGは「プロダクトがプロダクトを売る状態(Product sells itself)」を目指す戦略なのです。

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このように、属人的な営業を介さずともプロダクト自身の力で広まっていくPLGは、業種・業態・地域問わない展開を目指すクラウドサービスと非常に相性がよい戦略と言えるのです。

SLG–いかに早く商談化するか?

次に、PLGをもう一つの代表的な成長戦略であるSLGとの比較の中で見ていきましょう。

The Modelに代表されるように、SLGは概ね下記の流れでプロダクトがエンドユーザーの元に届きます。

1.マーケティングが、リードを生成
2.インサイドセールスが、リードを商談化
3.フィールドセールスが、受注
4.エンドユーザーが、契約締結後にプロダクトを使用開始
5.カスタマーサクセスが、エンドユーザーの定着化を支援

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SLGでは、セールスのカウンターパートは意思決定者層が多く、実際にプロダクトを利用するエンドユーザーとは異なる場合がほとんどです。そのため、契約後に初めてプロダクトに触れるエンドユーザーも少なくありません。

——つまり、SLGは「プロダクトはセールスが価値を伝えるもの」という発想に立った戦略なのです。

こうしたトップダウンセールスによるSLGは、下記のようなプロダクトに適した戦略とされています。

・ プロダクト活用パターンが多く、個社に応じた提案が必要
・ 新しいマーケットでユーザーの啓蒙が必要
・ ニッチなセグメントで、セールスが全潜在顧客に直接アプローチできてしまう
・ 顧客単価が高く、導入の意思決定に役員クラスの決裁が必要

このように、「プロダクトがプロダクトの価値を伝える」PLGと「セールスがプロダクト価値を伝える」SLGとでは、組織体制、KPIの考え方が異なります。

そのため、どちらの戦略が自社プロダクトに適しているかは、商材の特性、競争環境に応じた選択の必要があることがわかります。

PLGの成長戦略について、本稿で概要をご説明しました。
次回は、PLGを軸に圧倒的な成長を実現したZoomを基に、ケーススタディをお届けします。
本稿の概要と併せて、次回、実際のPLGの活用例・そのインパクトについて、ご確認ください。

UB Venturesとは?

私たちUB Venturesは、サブスクリプションビジネスへの投資に特化をしたベンチャーキャピタルです。

2018年のファンド立ち上げ以降、複数のB2B SaaS企業への投資を行っており、起業家への支援を日々行っています。スタートアップへの投資を行う中で、単に資金を提供するだけでなく、ユーザベースグループの持つ、「SaaS起業のナレッジを提供する」ことが、私たちの強みであると考えています。

「 解約率のボラティリティが高い段階で、MRRを追いかけすぎていますね。まずはPMFにフォーカスしていきましょう。」

「成長ペースは速いですが、プロダクトの特性を考慮した売り方を前提にするとARPAが小さすぎます。過去私たちがサービス単価を上げた方法ですが…」

このような自分たちのリアルな事業経験に基づいたアドバイスやサポートを提供しています。

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■執筆者のプロフィール

高野 泰樹(たかの たいじゅ)

UB Ventures ベンチャーパートナー
2018年UB Venturesに参画。国内外SaaSスタートアップへの投資業務に従事後、2021年4月より熊川哲也主宰の株式会社K-BALLETに参画、バレエプロデューサーとして作品企画・製作業務を掌管。現在UB Venturesでは、PLG企業への投資・成長支援を担当するベンチャーパートナーとして在籍。国際基督教大学教養学部卒業。

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執筆:高野 泰樹 | UB Ventures ベンチャーパートナー
2021.10.7