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天使からの贈り物。

 住んでいる町にはパン屋さんがない。いやある。けれど中々買いに行けるタイミングとお店の営業時間が噛み合わない。
なので、パンを食べたくなったら、車で20分の隣町へと向かう事が多い。


 昨日は久しぶりにがっちり寒くて、隣町はマイナス20℃とかってニュースで言っていた(キャー)
 そんな中、これまた久しぶりにパーマ屋さんに行く日で、朝からどんな感じにしようかなぁ…とウキウキ。結局のところノープランでセット台に座りお任せだったのだけれど(笑)髪を切ってスッキリできる!というテンションは、数ヶ月に一度のお楽しみの時間。猫っけで癖ありの髪の上、頭皮弱めには、ストレートパーマをかけるとか、ブリーチしてかっこよくキメてみる…という世界は憧れ中の憧れの世界。今回もなんとなくふわっとさせて終わってしまった。最初のウキウキは何処へ。


 さて、パーマ屋さんで一連の流れが終わりに近づいた頃、あることが気になった。


それは
『あの美味しいクロワッサン屋さんは今日はやっているのだろうか?』
ということ。あの美味しいクロワッサン屋さんとは、以前一度お土産でいただいた、あの美味しいクロワッサンである。その店はすぐに売り切れてしまう為、入手困難と噂の店だった。
 早速ネットで調べてみたらオープン12時とある。今は12時15分。
もしかしたら間に合うのかも??という期待とともにパーマ屋さんを出た。

 あの美味しいクロワッサン屋さんは『GEMINI』
 双子座なのだろうか…
 双子ならTwinsだ。

お店に着いたのは12時25分。駐車場は残り1台。
やたー!!と速攻車を滑り込ませ、いそいそとお店の中へ。

 目の前にひろがる空っぽの棚とレジに向かい並ぶ人々。
レジの横には申し訳なさげに目視で数を数えられそうなくらいのデニッシュ達。

 私の前に並んだおじ様がポツリと『ここはいつもこうなんですよ』『一人でやっているから』と仰る。その前のマダムに『前もって予約もできますよね…』とその前に並ぶマダムに話をふるが、マダムは会話に加わる気は無い様子で、まともな返答はしなかった。
 せっかく教えてくださった流れで、『以前ここのクロワッサンを戴いた事があって、美味しかったので来てみたのですが…すごいですね』と私がいうと『買えないこともありますよ』と。おじ様も何度もトライしているのだろう。それほどまでに人を虜にするクロワッサン。やばし。


 今並んでいる人数。残っている数。
 私のところまで…微妙。よ、読めない。

 
 観察すると、纏めて10個くらい購入する人もいれば、自分の分だけの人もいて様々。こんな時、自分の身勝手さをあからさまに感じる。本当のところ家族の分も…と考えていたが、私の後ろに並んでいる人の分は私が買い占めなくても手には入らないだろう。そんな中、


 普通のクロワッサンなくなりました〜。


 嗚呼…なんと切ない響きなんだろう。そんな微妙な空気の中、私の後ろに並んでいた人はちは、一人、またひとり…と帰っていった。
 

 私の後ろの人以降がいなくなった時、奥から8個ほどのショコラオレンジのクロワッサンが運び込まれた。矢庭に温かい空気を感じる。何だろう。もしかしたら買えるかも?という期待。
…がしかし、ここにもまたまとめ買いの方が間に挟まる。


 どうしようかなぁ…折角だから買えなくても見守ろう。そう決めたとき、先ほどのおじ様がくるりと振り向いた。そしてひとこと。

 

『僕、キャンセルします!』

 

と、私に宣言した。

あまりの突然で『あの…良いのですか?大丈夫ですか?』とワタワタする私。
 

『はい。前に詰めてください。』

 

(心の中/えぇぇぇぇ!)
『いいんですか?あ、ありがとうございます(恐縮)』と共に一歩前に。

そしておじさまは一歩前に進んだ私を確認してお店を出ていった。



あのおじ様は天使じゃなかろうか?とその瞬間思った。


天使が店を去った後、それでもまだ私の前には3組4人の人がいた。
8個、6個…
私の前の人は4個購入。そして私の番がようやくまわってきた。
その数は…


 
2個。

 
私の後ろには…あと一人(涙)。


ここで、1つにすべきか、2つにすべきか…ものすごい葛藤があったことは言うまでもない。


2個ください。


ここは潔く、自我の欲に忠実に従った。


だって、あの天使が外にいたら、『ありがとうございました。買えました』って渡せるではないか。(といういい訳を用意した)

店主は後ろの方に申し訳なさそうに、
『すみません…』と言いかけたところ、
後ろの方のかぶせ気味の

『予約でお願いしてますので』

…と言うひと言で



救われた。


長い戦いだった(到着から15分)
そして今日もあっという間の完売だった(…のだろう)


今朝
天使にもらったクロワッサンを頬張った。
天使にもらった、人を想う暖かな気持ちと共に。


それはメープルがけのクロワッサン。
なのにちょっと、涙の味がした。


サクッとして、程よいバターとメープルの香り。
最高。


新しい髪型は、いまひとつ。キマってない。

GEMINIのメープルクロワッサン

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