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『皆勤の徒』があまりにも面白すぎて紹介文が異常繁殖して書き終わらない。(2015年の小説)

ああ与太話を何機も孕んだ感想文が育っている。耐塵地区のはずなのに。

よく来たな、お望月さんだよ。
チヤホヤの器こと冷蔵庫さんやタイムラインのSF好きがこぞってほめて(グェヴヴォヴォと呻いていた)いた『皆勤の徒』を後追いながら読み進めたところ、これがとんでもない大傑作であり脳の使っていない部分を賦活させてセスナ機を孕んだりしたので皆様にも摂取を推奨しようと思います。

東京創元社へのリンク

▼冷蔵庫さん激奨▼

なぜかいつもセールしている気がする。

作品の特徴

遠未来、宇宙規模で開拓を続ける棄業組織『禦』を中心にブラック労働や学生生活、昆虫人類の探偵業に塵にまみれた隊商の冒険を描くハードSFぬるぬる伝奇ストーリー。

機械や動力が生体部品や蟲に置き換えられた世界観(ぬるぬるパンク)が圧倒的な圧と密度で読者に襲い掛かる。線虫を結わいてミシンに掛けながら製臓業に勤しむ従業者、寝床はジュルジュルした閨房に頭から突っ込み目を覚ますと足を引き釣りながら何度目かわからない皆勤を続けていく。待ち構える社長は軟体組織を無理やり人の形にまとめ上げた会話の通じないヌルヌルである。こんな世界に誰がした。こんな会社になんで就職してしまったのだろう。なんでだっけ。ああ、また頭皮から半風子の卵が孵ってしまう。

▼ぬるぬるパンク(蒸気やサイバーの代わりにこの世界ではぬるぬるが動力となるのだ!)


非常に映像的な想像をしにくい作品ではあるが、精細な挿絵が理解の助けになるだろう。Kindle版で分かりにくい場合は、公式サイトの挿絵をチェックしてみるとよいと思います。

▼識者のアドバイス

挿絵紹介

各作品の感想

この辺はね、もうどんな話だと「読み取ったのか」を感じてほしいので、あまりネタバレとかを気にせずに語っていこうと思います。

『皆勤の徒』

表題作であり第一章の展開があまりにも完璧。始まりはどの一日でも構わない。ああ、あらゆる要素がこの1エピソードに詰め込まれている。すべてのエピソードを読み、作品資料を読んだ後に帰ってくると感無量の気持ちになる。まさに皆勤の徒だ。

内容は、ぬるぬるぐちょぐちょした生命体と機械の判別がしにくい社会で皆勤だけが取り柄の従業者(隷重類という凄まじい種族名)が日々のワーキングを過ごす姿を追ったものだ。ドキュメント72時間。

読み始めは、この作品で使用される単語「社長」「会社」「出勤」「巳針」「取締役」「製臓業」「外回り」「冥棘(めいし)」「頭取によるヘッドハント」等から(何らかのメタファーなのではないか?)(筆者・登場人物の視点から日常社会がこのように見えているだけなのではないか?)(これは悪い夢だ、そうだ、夢。)等と考えていたのですが、どうやら実体的に存在する世界を写実的に描写していただけということに気が付きました。

ならば、話が早い。ぬるぬるぐちょぐちょした描写をありのままに味わい、味のある挿絵や表紙の外回りを楽しもうじゃないか。そういうことになった。

終盤、社会を取り巻く要素やただのブラック労働作品ではないということを匂わせながら、盛大に終わっていく姿に思わず席を立ちブラボーと叫んでいました。時系列的には最も後ろに位置しており、他のエピソードを通過して帰ってくると本当に素晴らしい。

「ブラーボ!ブラーボ!」「おい、喪主の挨拶中だぞ」

『洞の街』

定期的に野襖(のぶすま)が降り注ぐ、すり鉢状の街で暮らす学生の視点から不可思議な世界を描いた作品。ひたすら皆勤する風景が描かれた表題作に比べて多数の人物の掛け合いがあり、ミステリー的な謎に迫りながら「皆勤の徒」の世界へ接続していく様子にゾクゾクしてしまいます。

ハニシベくんの周囲の一族、復命、仮粧、あまりにも多様性に富んだ野襖達、そして百々似。壮大なスケールのSF世界観が待ち受けます。

「水澄まし」という使役生物がいます。こいつは街では貴重な水を吐き出す生き物で家族のように扱われているかわいいやつだ。撫でてやると「トトトトト」と気持ちよさそうに喉を鳴らし家族も大切にしている。僕は器物への愛情やそれにこたえる姿に弱いんだ。

「いい水澄ましだったな」「うん、いい水澄ましだったね」

『泥海の浮き城』

その時、泥の海では「城」同士が結婚式を挙げようとしていた。忌むべき仕事=探偵業を行う昆虫人類ラドー・モンモンドは、謎の依頼者から様々な仕事を押し付けられ結婚式中の浮き城を彷徨ううちに、社会の成り立ちや生物多様性の謎、彼らの来歴について知ることになる。

昆虫種族間の人種問題や人権問題を絡めながら、人を食らう通信ネットワーク言媒網や蟲風呂やらステルス技術やらのSF的くすぐりも忘れない掌編で全体を通してみてもかなり毛色が異なる作品だ。

結婚式から逃げた男が、魅惑され「喰われてもよい」と考えるシーンなど、ハード外皮ボイルドで官能的な味付けも色濃い。

『百々似隊商』

最も世界観を理解しやすく読みやすいとされる。しかし、あまりにもネタばらし的な要素が多く、ここまで三篇の難関山岳(鬼スラ)を乗り越えてきた読者としては、初心者にはオススメしたくない。 でも、オススメしちゃう!

遠未来、役畜である百々似を引き連れたキャラバンが征く。彼らは蟲と暮らし塵機にまみれた荒野を詞と媒音の力で鎮め馴らしながら歩みを進めていく。若い隊員、謎の男ハニシベ、長の視点を借りて「世界」の「泥の海」の「智天使」の全容が明らかになっていく。

<若干のネタバレが含まれます>

「世界」は「外回りの営業活動」により維持されていた。「冥棘」を打ち込んで泥の海を「形相」し「勾玉」を「ヘッドハント」して回るのだ。世界に棲むのは「兌換」した旧人類。すなわち精神のみで暮らす者たち。
「泥の海」でのたうちまわり、肉体という枷を帯びながらも塵機(ナノマシン)に満ちた世界を進化の多様性で生き抜こうとする「社長」達、棄業の取締役達。

冒頭序文の言葉が完全に理解できる。シンプルにそれだけのことしか伝えていなかったことが、言葉はなく心で伝わる感動がそこにあった。

冒頭を読んで脳裏に浮かんだメタファーも正しい。実在描写も存在する。両方存在して両方正しい。では、読者の立場は? 我々は今どちらなのだろうか。 深い。あなたのその実在性は、肉体によりますか?

皆勤の徒、オススメです!

▼収録作品に対する一般読者のコメントが読めてカルマ調整ができます。感想の共有っていいよね!

設定資料集『隔世遺傳』(かくりよいでん)

これらの作品を網羅して、一字一句まで解説をする設定資料集が存在する。電子版のみで発売されているが、単語をタップすることで次々に記事を拾い進めることができるので非常に楽しい。

とにかく「これは遺伝子が知っている」と錯覚してしまうような、設定の受け皿の広さがあり物語の強度が高い。

詳細をいちいち語っていきたいが、これから読むであろう読者の方々のために部分的な紹介とさせていただきます。(ここから数千文字追加されるところでしたがヘルシーのために切断して鸚鵡にします)

オンラインゲームとも世界観の共通性がある。

設定資料集は好きかい? プレイしていないゲームの攻略本は? よろしい、ならば本編とセットで設定資料集も読もう!!

未来へ

これは脳髄を刺激されて生存のために反射で吐き出した模倣言媒なんですが、今後は『皆勤の徒』を名刺代わりの小説として座右に置きます。皆様もこの紹介のどこかにピンとくるものがあったら、ぜひ読んでほしい。

おまけ

元々、インタネットが断線してアレクサちゃんが沈黙した「日記」を書いていたのですが、気が付いたら皆勤の徒の影響を受けて永遠に巡り続ける皆勤の日々がインストールされたり、家庭内LANが家屋卵管になったりした「世界」の話がこちらとなります。アホみたいに面白い。そして、皆勤の徒を読んだ後に読むと冷蔵庫さんみたいに世界がバグります。

私は、万人ではなく百人に一人、千人に一人の貴方のためだけに文章を書きます。受け取ってくれてありがとう。

『皆勤の徒』オススメです!!オスススでででで(従業者が永遠に同じ話を続けるので社長により首切りをされて本記事は幕を閉じる)

ああ与太話を何機も孕んだ感想文が大繁殖をしている。書かなきゃいけないことが溢れだして一号線はもはや使い物にならない。汎材も賦活剤もないのにこれだとは。



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