メランコリック

『メランコリック』(2019年の映画)

都心に季節外れの大雪の降った日に『メランコリック』『岬の兄妹』の二本立て興行をみてきたのですよ。どちらも年間ベスト級の作品なんだけど、特に『メランコリック』はオールタイムベスト、心に刻まれたお仕事ムービーとなりました。3/19(木)までキネカ大森で二本立て名画座上映しています。足を運べるのであればオススメです。

オールタイムベスト。お仕事ムービー。緊張と鈍感と緩和。ベスト顔映画。笑って泣いて泣いた。-お望月さんのFilmarksのレビューより-

あらすじ

アルバイト先の銭湯は深夜に人を殺して処理する場所だった。

本作は、どうしても「気鋭の製作チーム」「低予算映画」のくくりで紹介されてしまうことが多い作品なんだけど、それを感じさせないスケール感の塩梅や主要登場人物の顔面が良い。どの人々もハマり役すぎて他の作品に別の姿で出てきたら気が付かないんじゃないかな、というくらい。

本作はお仕事ムービーとして群を抜いていて、アルバイトやお仕事の「アルアル」がふんだんに盛り込まれている。サラリーマン兼業監督というキャリアが活きているのだろうか。「殺し屋兼清掃屋」という「ナイ」職業に対して、ものすごく共感できてしまい、とても世知辛くも笑ってしまう。

ナイナイアルアルシチュエーションとしては「休みの日にアルバイトへ呼ばれたときにありがちなこと」が群を抜いておかしく

「休みにすんません」「いいよ」「俺、センパイと外回り(拉致)にいってくるんで」「ふーん、帰りは」「遅めで。ひとり(死体)連れてくるかもだけどいいっすか」「いいよ」「へへっじゃあよろしくおねがいします」「うん」

これは「これからツーマンセルの処刑人業務で死体を持ち帰るので清掃の用意しておいてね」という話なんですが、こんな感じでオフビートに善悪の歯車が摩耗した状態が日々が続いているんです。

登場人物に関しては、あまり先入観を持たずに見て欲しいので語るのが難しいんですが、主人公のふたりの関係をとにかく推していきたい。

和彦は東大出身の無職、松本は無学の金髪アルバイト、という両極端の関係で、松本は酒も女もやらない。「何のために生きてるんだ?」みたいなヤツ。一方で和彦も同じような立場なんだけど「清掃」の仕事へ協力するようになってから「人に必要とされるし金ももらえる」という生きがいを感じて内心では松本を見下している。

これが中盤で一変して、松本が裏社会のエリートコースを歩んでいることを知り嫉妬するんですね。「お、おれは東大だぞ!!」でも、裏の世界に学歴は関係ない。そして、裏社会には裏社会のヒエラルキーやルールがある。

このあたりニンジャスレイヤーの「キック・アウト・マザーファッカー」や「ナイト・エニグマティック・ナイト」等の普遍的なティーンネージャー向けの葛藤を感じさせるんです。甘酸っぱくほろ苦く、ただただ「鈍感」であった。そういう痛みを感じます。最終的には「ニンジャ・サルベイション」に匂いもする。(これを30歳がやっているのも批評性がある気がする)

「この人はヤクザ?」「ヤクザ」「オーナーはヤクザ」「違う」「僕はヤクザから仕事をもらう人」「ヤクザじゃない」「そう」「あいつはヤクザ」「そうヤクザ」「ヤクザにも色々あるんですね」「これ(死体)はヤクザ?」「知らなくていい」「考えないで仕事しましょう」「うーん」

後半、先輩が殺し屋と銭湯の両立ができなくなってきたので抜けた後の二人のやり取りがとにかくしびれる。心細い和彦を松本が気遣って応援するんですよ。連れてきた人を射殺じゃなくて絞殺して「オレ、掃除しやすいように工夫するんで二人でやっていきましょう」とか言い出したりして、こいつ……いいやつだなあ。逆境でこそカイゼンが輝く。

二人で風呂に入るシーン。二人で酒を飲むシーン。二人で横になって眠るシーン。それぞれの松本があり、和彦があり、同じ人間なのにグラデーションがある。

語りつくせないのであと2点だけ。

異常映画ファンが気にする「食卓の画面作り」についても本作の注目ポイントです。和彦の実家の食卓の食塩と醤油のイチ。ポジショニングが気になって仕方がありませんでした。物語が進むにつれて、どのように醤油と塩のイチがずれていくのか。要注目です(個人の感想です)

和彦は自らでは一歩も前に進みだすことができないことが判明する「自動車運転」の場面。どれだけ急いでも「アクセルはどっち!?」と泣き叫ぶ和彦の姿に人々は笑いながら泣きます。和彦は前へ進む方法を何も知らない。「よし、もうすぐ着くからな!(まだ1ミリも進んでない)」泣きます。和彦おまえはいいやつだ。東大卒なのに愚かだ。でも、いいやつだ。(この辺りは同時上映「岬の兄妹」にも通じるシーンでしたね)

ぜひ楽しんできてください。

最後の一秒までスリリングで泣き笑いさせる充実した脚本。工夫の行き届いた設定に役者の顔面の良さ。間違いなく私のオールタイムベストです。この設定の作品に対して銭湯側が協力してくれたというのもほほえましいエピソードですね。あと同級生役の女の子とかZOZO太郎とか……ごめん、もう時間がない!!いじょうです。

公式サイト

しばらくソフト化情報がなかったものの4/2からDVDレンタルが開始されるようです。ぜひとも!!


#コンテンツ会議 #映画 #メランコリック #松本 #NOTE映画部

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