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会ったこともない彼女なのに《ディスクライブ・メソッド・オンライン》第五話《水曜日のエッセイ by 逢志亭龍》

 
水曜日の記事は文章クラブ『放課後ライティング倶楽部』メンバーさんが担当です。だいたい2ヶ月くらいで順番がまわってきます。
 

 
一話
https://note.com/u_yasushi/n/n0cd3c35b3546
二話
https://note.com/u_yasushi/n/n9ec34cebce70
三話
https://note.com/u_yasushi/n/n505e96df31cf
四話
https://note.com/u_yasushi/n/n96b2aeabf004
 

あらすじ
 
気付けば見たことのない奇妙な世界にいた。
ひょっとこをかぶる人物から渡された『双眼鏡、ざっくり手描きの地図、ノート、えんぴつ』を手に、西の国に向かう。
"辞書"を入手するも同時に現れた誤字スライムと脱字スライムたちの群れ。
なぜだか辞書の使い方を誤ってしまい、叩き潰したら鬼の形相のキング誤字脱字スライムと対峙するハメになってしまう。頭の中に響いた声に誘われるまま窮地を脱して……
 

「私の名前は、マリー」
 
声だけが頭の中に響き、姿は見えない。
なんて凛としている声なんだと思った。
 
キング誤字脱字スライムの巨体を前に、力尽きかけた時はもうダメだと思った。走馬灯が今にも見えそうな中、声の導きが現実世界に意識を引き留めてくれたおかげでなんとか命を繋ぐことができた。
 
今は立っているのもやっとの状態だけれど、荒れる呼吸のまま命の恩人に御礼を伝えた。
 
「はぁはぁ……マリーさ……ん、ありがはぁはぁとうござい……ましたはぁはぁ」
 
言いながら自分で変質者みたいな最悪の御礼だな、と思って苦笑いした。
そのまま、ふと疑問に思ったことを口にした。
 
「はぁはぁ……どうして……オレをはぁはぁ助けてくれた……んですか?」
 

マリーは自分の部屋の中にいた。
背中は心持ちピンと伸び、動くたびにショートカットの髪がサラリと揺れる。印象的な大きな黒い瞳の奥には先見の明があり、口から出てくる言葉には利発さを漂わせる。
 
彼女が覗き込む先には、テーブルの上に乗った手の平よりも大きい真円の水晶玉があった。水晶の中にはひとりの男が変質者よろしく息を切らして問いかけている。
 
ー変質者みたいな最悪の御礼だなー
男の心の声が水晶玉から聴こえて、思わずマリーはプッと吹き出してしまった。笑いを堪えながら、男の疑問に答える。
 
「ククッ……私は旅人を……導く者。あなたがこの世界に来た理由は私には分からないけれど、あなたのような人を何人も見てきたわ」
 

頭の中に響く言葉の意味に衝撃が走る。訳のわからぬままこの世界に飛ばされた人間は、自分だけじゃないのか?
しかも、何人も導いてきたと言う……
 
声の主の姿は見えないけれど、誰かに「守られた」こと自体が嬉しかった。
 
元いた世界では、いつも自分のことよりも誰かのことばかり気にしていた。自分を傷付けて犠牲にしていることも分かっていながら無理して笑顔で接する。心の中では「タスケテ」を叫んでる。でも、言えない。誰にも伝わらない言葉は世界でカタチになることはなかった。だから……誰かに守られていると感じられない日々。
 
まだマリーがどんな人なのかも分からないのに、声しか聞こえないのに、不思議と会ってみたいと思う自分がいたーーーけれど、やっぱり言葉にすることは出来なかった……
 
幾分身体も休まってきて息も整いつつある。
 
「マリーさん、私のような人間が他にいるなら、どこに行けば会えるのですか?!」
 
「ちょっと待ちなさい。あなたに今必要なのは仲間じゃないの。先にひとりで学ぶべきことがたくさんあるわ」
 
「まずはその身体を少し休めなさい。そのあと西に向かえば、はじまりの街『ボウト』があるの。はじまりの街、の意味は行けば分かるから」
 

(つづく)
 
参考:
マリー=ポーリン・マリー・ファイファー

[ライター:逢志亭龍]

◆あとがき
ヤスです。次の街へ向かう回でしたね。「ボウト」ということは……大事なあれのお話かしら?

◆66日ライティング×ランニング〜シーズン2 《56日目》

参加者全員の記事はこちらに。

《こちらはシーズン1》

ひとりでなかなか頑張れないなら、私たちがいっしょに走るよ。

[画像協力:さちわ]

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