書いても読んでもらえないと思ったらアイツと遭遇した話《ディスクライブ・メソッド・オンライン》第二話《水曜日のエッセイ by 逢志亭龍》
水曜日の記事は文章クラブ『放課後ライティング倶楽部』メンバーさんが担当です。だいたい2ヶ月くらいで順番がまわってきます。
◆◆◆
「さぁ、この広大で豊かな土地を自由に歩むがよい」
同じセリフを繰り返す"ひょっとこ"の仮面をかぶる謎の人物。
なんて無責任でなんて曖昧なメッセージ……あの日あのセリフを思い出すだけで怒りが込み上げてきた……いかん、落ち着け。
あのあと、地図を見ながら西へ向かおうと一歩踏み出したのだが、500メートルほど先にレンガ状の大きなアーチがある町を見つけたので情報収集のために訪れた。
飲食店にいた男女から『旅人オリジナルのエピソードを文章にして書いて、町の人に読んでもらう』と、面白さに応じてお金や経験値が得られると知った。
そこから数ヶ月間、ギリギリの生活を続けていた。
町の人々はかなりシビアだった。
手持ちのノートとえんぴつで自分なりに"面白い"と思う文章を書いて読んでもらうが、フフンと鼻で笑われて「これじゃお金はあげられないね」と言う。
しかも、大半の人が読んでいる途中で紙から目線を外して「ダメだ」の三文字で突き返してくるのだ。
(なんでだ! なんでなんだ?! いったい何がダメなんだ!?)
町の人に聞いてもいっさい答えてくれない。
なんだよケチんぼ! 教えてくれたってイイじゃないか!
それでもお情けのようなお金をくれる優しい人たちを歩き回った。命をつなぐのがやっとの毎日。その日も微々たるお金を受け取った。
♪チャララチャッチャッチャ~
軽快な音楽とともにメッセージパネルが現れた。
【 じしょ を てにいれた! 】
レベルアップしてどこからかアイテムが出現した。「辞書」を手に入れたようだ。
5センチはあるように見える、ずっしりと重厚感のある分厚い紙の束。
よりによってこんな重たいものを……ゲンナリとしてその場に佇んでいた。
すると、手に持っていたノートが急にブルブルと小刻みに揺れ始めた。
驚いて凝視していると、ノートの側面部分から青い光が漏れている。続けて、内側から風が螺旋を描くように吹き出し始めた。風はどんどん強くなる。
や、ヤバイ!
とっさに「離れなければ」と判断しノートを放り投げた。
投げたノートが地面に落ちた瞬間、その上にキュートですっとぼけ顔をした生き物が現れた。
ナンジャコリャ!
生き物の下にぴょこんと浮いて現れた「誤字スライム」の文字。
名前か?! これがコイツの名前なのか!
猫ほどの大きさで、青い雫のような形をしてぷよんぷよんと揺れていた。
潤んだ瞳で下から見上げてる。ウッ……
どうしたものかと思案していると、足元に落ちたノートが再び小刻みに揺れ始めて、今度は赤い光と渦巻く風が吹き出してきた。
今度もキュートですっとぼけ顔をした赤いヤツだ。
ぴょこんと浮いて現れた「脱字スライム」の文字。
二匹目登場。ガーーーーン!
安心するのはまだ早かった。
再び青い光が……三匹目。赤い光が……四匹目。
終わったと思ったらまだまだぁ!
青光りっ♪ 赤光りっ♪ 青光らないで赤光るっ♪
見つめる私の脳内は現実逃避するかのように旗揚げゲームの節が流れ続けていた。
足元一面に広がる脱字スライムと、誤字スライムたちの群れ。
潤んだ瞳で見つめられたオレはどうにかなりそうだった。
(つづく)
◆第一話はこちら
[ライター:逢志亭龍]
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