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虚業。呪いの言葉。実感が欲しい病。

私はいま、週に1回ほど、都内のシェアラウンジにきている。
会社を経営している知人から声をかけてもらい、使わせてもらっている。
オンラインでのミーティングに参加したり、アイディアの壁打ち役になったり。少しだけお客さんにメールを送ったりもした。

報酬はもらっていない。こんな行動がお金になるとは思えないから、断った。

周囲の人には、この時間を仕事と言っている。
「オンラインでMTGがあるんだ。」
「(都内某所)に行ってくる。」
「今日は、xxがあってね。」

見栄だ。中身はなにもない。
進んでいる感覚も、何も生み出している感覚もない。
仕事とはなんだろうか。
それっぽいことをしてると口で言う私は、何も生み出していない。
ちんちくりんな動きをして、創作ダンスなんだと言い張っている。

虚業。

虚業という言葉を初めて使ったのは、2017年だ。
そのころ私は、貧乏だった。
学費と生活費を自分で稼ぎ、生活していた。
親からの援助を断り、自分一人で生きている感覚になっていた。
朝から日中にかけて、ごみ収集の仕事をした。肉体労働だったが、毎日仕事をしている感覚があった。
夕方から、印刷工場で、印刷物の投入の仕事もやった。
夜は、パチンコ屋にいって、スロットやパチンコ台の入れ替えをやった。
そうやって生活していた。お金は、ほどほどにもらっていた。
どの仕事も、シフトは週1で提出。私は1週間単位でスケジュールを組み立てていた。

それ以上先を見るのは苦手だ。苦手なのか、やってこなかったから苦手になったのかわからないが、いまでもそれは変わらない。

そんな時に付き合っていた彼女は、AV女優だった。
月に1回、撮影があったらしい。
本人は嫌がっていたが、写真や映像に映る彼女は、乗り気のようにも見えた。
彼女と仲良くなり始めたころ、彼女は女優をやめようと悩んでいる時だった。

当時20代後半だった彼女には貯金が800万あった。
当時の私は、頑張って働いて100万くらいだった。
彼女は結局、付き合う直前くらいにAV女優を辞めたが、その後も事務所に所属して、元AV女優として、自宅でライブ配信をする仕事をしていた。
毎日、何をしているかわからなかった、話を聞いても働いているようにはみえなかった。
家は、徒歩15分圏内。だから、毎日会えた。
「パンを作るのが好きなの」といっていた。
それが転じて、女優を辞めてからは、近くのスーパーのパン屋さんでバイトを始めた。
女優時代には考えられもしない低い時給と、人間関係に疲れていた。
会うたびに、いつも愚痴を言っていた。

彼女とは、9か月で別れた。
金銭感覚や価値観が合わなかった。と思う。
彼女は大金を使うこと、自分のためにお金を使うこと、ブランド品を持つこと、良い食事をすること、に慣れていた。人にお金を使ってもらうことにも慣れていた。
私も頑張って見栄をはって合わせていたが、続きそうもなかった。
「xxが好きなの」
「香水はxxでね」
「あのお店はxxでね」
そういわれるたびに、昔知り合いだった金持ちと比較されている気がして、苦しかった。
単に自分が卑屈なだけかもしれないけど。

同棲しようという話も出た。でも結局しなかった。
「この条件や立地なら、私は実家に帰ると思うよ。」
物件選びをしているときに、この発言をされたことが、一番大きなショックだった。
実家に帰るのはいいけど、同棲ってそういうことなのかな、って。
二人でなんとかしていこうよ、利便性とか、そういうのもあるけど、私もまだお金ないし、あなたも働いてないし、身の程をわきまえようよ、と。
結局同棲はしなかったし、同棲の話を考えた数か月後に、いろいろあって別れた。

別れた後、知人や当時の会社の上司の人と食事にいった。相談に乗ってもらった。
お金の感覚が合わなかった、お金に限らず、いろんな価値観が合わなかった。
「彼女はAV女優だったんです。事務所にお金を出してもらって渋谷の駅近に住んで、レッスンして、エステをして、1か月に1回働いて、うん十万もらってるんです。人から高い食事をごちそうしてもらって、自分ではお金を出さずにいいものを食べる感覚が普通なんです。身体動かして、長い時間使って働いているのがバカみたいですよ。なんでそんなにお金が動くんですかね。」
上司は黙って聞いてくれていた。
私は最後に言った。
「虚業ですよね」

この言葉が、今の私に、重い呪いとして残っている気がする。
身体を動かして、時間をつかって、苦しんでようやく、お金が得られる。
そうじゃないものは、仕事じゃない。虚業。

よくわからない場所で、オンラインミーティングだけしている自分は、許されない。
資料を作るだけの自分は、許されない。
メールを打つだけの私は、許されない。
こんなものは、仕事じゃない。虚業。

お金を生み出してない、成果を上げてない。
仕事をやっている風で、抽象的で、何がお金になっているのか、自分が理解できない。
何かの役に立っている、成果を上げている実感がない。
というか、上げてないだけなんだろうけど。

虚業。働くのが苦しい。

短期的に、そして実感をもって、お金を得られないと、不安になってくる。
お金が生み出されても、実感がないと、怖い。
営業をやっていたときも、実感のないお金の引っ張り方がどうも苦手だった。
小さな金額で、確実にメリットがあり、おすすめできるものしか、売れなかった。
そして、長期的な何かのために、短期的な報酬という"手ごたえ"のないことをやり続けるのが、怖かった。

彼女がやっていたのは、虚業でもなんでもない。頭では理解できる。
でも、まだ心がわかっていない。

虚業という言葉が、いつも自分に張り付いている。
分かりやすい肉体労働的な仕事でないと、自分が働いてお金を得ていいと思えない。
彼女を蔑むために使った言葉が、私の人生を眺めている。
私の背中に張り付き、卑屈に微笑んでいる。

すべては、仕事で成果を上げられない言い訳だろう。
でも同時に、人に役立っている実感が欲しい。

これは全部作り話です。

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