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メモ さよならオランジェット
少女が彼女に恋をしたのは初対面の時。所謂一目惚れというやつだった。しかし一瞬で生まれた恋は、散るのも一瞬だった。彼女の恋慕は少女ではなく、いつも主人にあたる人間に向いていたから。そんな彼女の様子を見るたび、少女は無表情のまま憐れんでいた。彼女の目は盲目な恋色に染まっており、何も見えてなどいない。下手をすれば、その主人でさえも。
不意に首に刃物が当たっている気がした。慌てて首元を探るが、何もない。近
庭園メモ Emotion
「かつて、私は君と面識がある」
プラチナに会ったことがある?いつ?
どこで?
あれから数日経ったが、少女の頭はまだその疑問ばかりで埋め尽くされていた。全く記憶にない。まだ全てを思い出したわけではないのだしと言い訳もしてみたが、あんな容姿のAIと面識があったら、たとえ一度であっても記憶に残るだろうという気がしてならなかった。
真っ白に淡い水色の影がかかる長い髪。同じように真っ白な肌と羽織、着物。深
庭園メモ White
少女は、朧げながらに思い出し始める。ウイルスを仕込んだナイフを握りしめた夜。初めて明確に、他者に危害を加えたということ。それらを終えて報告した後の、マスターの笑顔。そう【誤認】した瞬間、記憶も視界も真っ暗になったこと。
目が覚めると、白い朝の中にいた。レースのカーテンが風でふわりと靡く。朝日が窓から差し込んでくる。絵画のように静かで、穏やかで、それなのにどこか違和感のある、奇妙な朝だった。いつも
庭園メモ vajra
実質本書き現状メモ
電脳世界。仕事を終えたAI達の帰る場所。しかしそれは家ということではなく、ただゼロになって漂うだけの空間でしかない。そこに命はない。当然、自我も思想も感情も。だがごく稀にそれらを持ちそうになる奴が現れる。伐折羅はそれを検知し、花が咲く前に蕾の首を捥ぎ、廃棄した。それが課された仕事。仕様。日常。嗚呼なんて嫌気の差す──
己に生まれかけたそれも同様に捥ぎ取り、ゴミ箱へ向かう。数