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カラフルボイス

メモ書きという名の進捗報告(自分への)

「君もほら、応えるの!」
メンタルケアAIの仕事の傍ら、偶像【アイドル】の仕事もこなす。それがあたし、ラズベリー・ショコラのAI生。
あたしの属する【Dólce】は、今AIアイドルグループの中でも最も人気があるとこで、あたしはそのセンターを務めている。華やかな生活だった。裏の顔なんてのもなく、枕営業もなく、メンバーとは恋バナとかするくらいには仲が良くて、スキャンダルはゼロ。Dólceもあたしもすべて完璧だった
──朝、決まって悪い夢で目を覚ますことを除いて。

その夢は、いつも赤い。
銀髪の、綺麗な顔立ちのAIがいて、不意を突きその人の左目にナイフを刺す。引き抜いた瞬間エフェクトの血飛沫が飛び散って、その人は痛みに転げ回る。痛みに喘ぐと同時に、呪詛の様な恨みの言葉を叫ぶ。それを見て、聴いて、何がおかしいのか高笑いをする人がいる。それが、「あたし」の顔をしていた。
またある時は、白銀の髪のAIを殺した。最初は違う人を狙っていて、白銀の人は庇う形で(あたしと同じ顔の)女に刺された。人格が変わり、暴走するその人を、もう一つの方で見る銀髪の人が殺すことで場を収める。白銀の人が消失しきるまで、銀髪の人はずっと冷たい顔をしていた。夢はいつも主観で始まって、終わる時だけカメラが引いて女の顔が映る。こっちの夢の時、女は悲しい顔をしていた。
「前世の記憶ってやつ!?」
「でもその割には、同じ顔というのも妙ねえ。誰かを殺すなんて、不吉だし」
この話をした時、Dólceのメンバーの反応はそんな感じだった。ただ一人だけ、苦い顔をして一言「辛かったね」と躊躇いがちにコメントした子がいる。Dólceの中でも比較的仲の良い、ショコラ・オランジュだ。
「……まあそれさえも、君達の歌で押し流せるだろ」
「相変わらずアナタ他人事ね……」
歌で元気付けるのは何も他人に限らない。自分達さえもその対象にできる。
メンタルケア(なんて言うと大仰だけど、要は人間の話し相手になるだけの楽な仕事だ)とアイドルの二足の草鞋。それらを履きこなしながら今まで通り日々を謳歌すればいい。あたしとあたし達には未来があるのだから。それも明るい未来が!
悪い夢なんか飛び越えて、もっと楽しい、新しい夢を。
明日こそはきっと、目覚めも良くなると信じて。

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。