見出し画像

話に花咲く毎日登山

大阪と奈良の境にある金剛山(こんごうざん、標高1,125m)には、「毎日登山」という文化がある。

肉体と精神を健やかに鍛えることを目的として始まったものだ。登山者は毎回の登山ごとにスタンプを押してもらい、登山回数を記録していく。

登山の記録や山の保善管理などを行う山岳会によって、山頂直下の広場には大相撲の番付表のように名前が掲示されている。

特筆すべきはその回数だ。掲示が開始される200回以上という人は珍しくなく、1,000回を大きく超える人も非常に多い。そして最多記録は15,000回以上という番付がされているのだ。この回数は365日欠かさずに登ったとしても40年以上はかかる計算になる。

これほど長く登り続けられる金剛山とはどういう山なのだろうか。

金剛山へは南海電鉄高野山線で河内長野駅まで行き、登山口行きの南海バスで30分ほど山道を揺られて行く。この時、南海電鉄で販売されている「金剛山ハイキングきっぷ」という往復の電車とバスがセットになった切符があるので、チェックしてみることをお勧めする。

さて、この山で最も人気のある登山道は千早本道というコースである。登山口には駐車場やトイレがしっかりと整えられている。大手登山ブランド「モンベル」の直営店があるのにはさすがに驚かされた。登山者数で日本一とされる東京の高尾山でさえも直営店は無い。この山の人気の高さを窺わせる。

千早本道は、ほぼ最初から最後まで木段と石段が続いており、登山道を外れた遭難は有り得ないと言っても過言で無いぐらい歩きやすく整備されている。

木漏れ日や霧に包まれた幻想的な雰囲気を楽しみながら、1時間半ほどで山頂の葛木神社に到着した。

金剛山には山頂から少し下った所に売店や広場がある。スタンプを押してもらえる窓口の人に、東京から初めて来たと告げると非常に驚いていた。金剛山は日本二百名山に数えられる有名な山である。大阪以外の登山者も多いはずだが、それでも珍しく感じられるのは地元の山として愛されているからだろう。

雑談を続けていると、毎日登山が続く理由も見えてくる。純粋に記録への挑戦や健康のために習慣として続けながらも、登山者同士の交流も含めて楽しむ人が多いという。

それは実際に登っていても感じることであった。黙々と独りで登る人。遅い方に合わせながらゆっくり登る夫婦や恋人と思われる人達。小さい子供を励ましながら登る家族。お喋りをしながら元気に登るご年配の団体。中には犬の散歩がてらという人もいた。

そして最終的に広場へ集い、各々でベンチやテーブルで食事を取ったり、景色を眺めたり、この山の名物であるライブカメラで記念撮影したり、たわいも無い話で盛り上がったりする。私がいた1時間弱の間だけでも、入れ替わり立ち替わり300人以上が広場を訪れたのではないだろうか。私のように独りで来た登山者は少なく、とにかく終始賑やかだった。

自然の景色を楽しむ山は数あるが、日々の交流の場として登山が親しまれている山はあまり登ったことがない。

私が金剛山を訪れたのは9月初旬だが、じきに紅葉の季節となる。こうした四季折々の変化も話の種となり、これからも賑やかに花が咲いていくだろう。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?