見出し画像

痛みのBPS modelコアアップデート


疼痛治療の基盤にBiomedical model(生物医学モデル)からBPS model(生物心理社会モデル)へのパラダイムの追加がされる様になってきました。
と、中々聞き慣れない用語でいうと分かりにくいので、ざっくばらんに言えば、痛みというものを理解して解釈して、臨床家として関わるときの土台が変化してきています

土台というのは、例えば骨格筋痛を臨床家がみる時は、解剖学やバイオメカニクス、運動学などを利用することがありますが、これよりももっと前提であるものです。多くの医療従事者は骨格筋痛を解剖学やバイオメカニクス、運動学などでみることが”当たり前で正しい”と考えている様子が臨床的に見られますが、その前提自体が変わるということです。

その土台として用いられている概念がBPS modelと呼ばれ、従来の土台がBiomedical modelと呼ばれているのです。

学生を含む医療従事者はBiomedical modelに囚われ、Biomedical modelの優位性により、BPS modelの理解を妨げられています[86]。

※参考文献は[ ]内の番号に対応して記事の最後にまとめています。

実際の体験として、BPS modelについての話を横で聞いていた医療従事者がBPS modelを心身二元論と認識したことがありました。

最近(2014年あたりから)ではいくつかの腰痛ガイドラインに腰痛の評価や管理、腰痛の分類にはBPS modelを取り入れるように記載されています[48,55]。

さらにIASP(国際疼痛学会:International Association for the Study of Pain)は2020年に痛みの定義を改定しましたが、その際、付記(note)として「痛みは常に個人的な経験であり、生物学的・心理的・社会的要因によって様々な程度で影響を受けます。(原文:Pain is always a personal experience that is influenced to varying degrees by biological, psychological, and social factors.[46,43])」と、BPS modelを反映する文言を付与しました。

私も2019年9月に疼痛リテラシーアップデートというタイトルでBPS modelには触れており、さらにBPS modelを疼痛に関して臨床的に解釈するための内容をまとめました。
本記事を書いているのは2020年9月なので、それから丁度1年たった訳ですが、少なくともTwitterを見ている印象としてはかなりBPS modelの話題に触れる人が増えてきたと感じます。
(去年はBPS model初めて聞いた!って声がかなりありました)

それだけでなく、最近では痛みに関する医学書や、腰痛のセミナーでもこのBPS modelに関する記載が増えてきています。

つまり、"実際の臨床現場"は別としても、少なくとも現在の医学はBPS modelに強い関心があることが分かります。

まずはこのBPS modelについて概説します。


BPS modelの概説

本記事の最初に「Biomedical model(生物医学的モデル)からBPS model(生物心理社会的モデル)へ」と書きました。

ということは従来はこのBiomedical model(生物医学的モデル)と呼ばれるものが、疼痛(を含めた西洋医学)の解釈の基盤にありました。

Biomedical model(生物医学的モデル)はBPS model(生物心理社会モデル)との比較のために従来の医学の基盤を意味する用語で、「すべての病気は体内の生物学的な原因に還元することができる」とする見解です[9]。
生物学とは、物理学と化学のことです。

BPS model[1]のBはBiological factor(生物学的要因)、PはPsychological factors(心理学的要因)、SはSocial factors(社会的要因)のことを指します(下図はこれらの相互関係を表しています)[44]。

画像5


「Biomedical model(生物医学的モデル)からBPS model(生物心理社会的モデル)へのパラダイムの追加」とは、Biomedical model(生物医学的モデル)の様な見方から、痛みに対する個人の経験と反応を理解するために、生物学的(Bio)、心理学的(psycho)、社会的(social)要因間の相互関係を考慮することの重要性を認識した見方(BPS model)へと移行することを目指したものです。

痛みに関して言えばBiomedical modelは患者の複雑な病態全体を生物学的な要素で分解し、細胞レベル、組織レベル、器官レベル、神経学で人を見ていました。
いわゆる骨格筋痛(この表現が適切かは分かりませんが)を見ようとする医療従事者に置き換えるのであれば、姿勢や関節や筋の剛性(Stiffness)、身体機能、体幹、筋膜(Fascia)、神経学といったものを主体とする様な見方がまさにBiomedical modelで、現在も(少なくとも)日本においてはそういった見方がまだまだ主流な様に見えます。

Biological factor(生物学的要因)は分子や細胞、組織、器官、神経系などの生物学的側面を指し、Psychological factors(心理学的要因)は個人の経験や行動などの心理学的側面を指し、Social factors(社会的要因)は対人やコミュニケーション、文化などの社会的側面を指します(下図参照)[45]。

画像2

BPS modelに関して

BPS modelを医学書や腰痛セミナーで聞いたことあるかたは思ったことあるかもしれませんが、BPS modelの説明って多少の差はあるものの、これくらいのものが多くないですか?

つまり何が言いたいかというと、BPS modelが大切だという人は多いけれど、肝心なそのBPS modelの説明は対してされてないことが多いということです。

なんというか、私としてはこれでは、「解剖学で体には筋があり体を動かすために重要であるとは教わるけど、その筋の詳しい作用については触れない」と似たような印象を受けるのです。

ってことでここでは「BPS modelをもっと深堀りしよう」をテーマにして書いていきます。

主な内容については目次を参照下さい。

※先ほど疼痛リテラシーアップデートではBPS modelを臨床的に解釈するための内容をまとめましたと言いましたが、本記事の内容とはほとんど被っていません

本記事を購入された方へ

本記事はBPS modelの批判的要素””多く含んでいます。これを書く上で意識したのは単に答えの明示ではなく、問題提起によって痛みに対する考えを深めることができる内容にしようと試みました。
是非読むに留まらず、思考を展開して見てください。

戦略的学習

本noteでは痛み治療を戦略的に学習できる様にコンテンツをいくつかに分けています。

『痛みのBPS modelコアアップデート』は「第4段:痛みの理解を深める」です。

第1段:痛みを知る『疼痛リテラシーアップデート
第2段:痛みへアプローチする『次世代の運動療法
第3段:臨床を見直す『批判的臨床推論
第4段:痛みの理解を深める『痛みのBPS modelコアアップデート

口コミ

null






Biomedical modelを理解する

ここから先は

39,318字 / 13画像

¥ 1,980

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?