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中学受験社会の考え方 第3回「分析」

2023年の中学入試も終わりました。そこで、個人的に考える中学入試の社会で求められるものを5つに分け、それぞれのポイントを述べたいと思います。
第3回は最近出題が増えている「分析」について述べたいと思います。

※ この記事は実際の入試問題を用いています。しかし、入試問題で使われた画像をnoteではそのまま貼りつけることが難しく、見づらい記事になっています。記事を読むのが手間だと思ったら、以下のPDFから記事をお読み下さい。


1,分析問題のタイプ(文字資料・統計資料)


 「分析」する問題とはどのような問題か。それは大きく2つに分けられます。

(1)統計資料の分析

 地理分野・公民分野で比較的よく見かけます。今年の入試を例に取りましょう。

 例1 開成中
問 次の表1は、2021年6月1日と2022年6月1日における、原油1バレルの価格と、米ドル・日本円の為替レートを示したものです。1バレルは、約160リットルです。

(1)表1中の空らん(a)~(d)にあてはまる数字の組み合わせとして正しいものを、次のア~エから一つ選び、記号で答えなさい。
ア (a)=68   (b)=115  (c)=110  (d)=130
イ (a)=68   (b)=115  (c)=130  (d)=110
ウ (a)=115  (b)=68   (c)=110  (d)=130
エ (a)=115  (b)=68   (c)=130  (d)=110
 
(2)問題文中に示された数値および(a)~(d)の数値を用いて、日本円での原油価格が2021年6月1日と比べて2022年6月1日には1リットルあたり何円上昇または下落したか、小数第一位を四捨五入し、答えなさい。
 
(1)は時事問題など社会的背景が少し必要ですが、(2)は計算が求められます。この問のように知識を利用して解答を推測するといった問題もあります。
 
 
例2 暁星中 第1回
問 図3は日本人の年間平均労働時間を示しており、高度経済成長期をピークに労働時間は減少傾向が続いてます。また、図4はパートタイム労働者数と、全雇用者に占めるパートタイム労働者の割合の推移を示しています。子らについて説明した次の文中の下線部ア~エのうち、誤りを含むものを1つ選びなさい。


 ピーク時と比べると、ア.日本人の年間平均労働時間は約6割まで減少しました。図3と図4を踏まえると、イ.労働時間の減少はパートタイム労働者の増加が一因と考えられるほか、ウ.男性よりも女性の労働時間の方が短いと推測できます。近年では、エ.仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」の実現が重視されつつあり、働き方改革が進められていますが、依然として有給休暇取得率の低さや残業時間の長さなどが社会問題になっています。
 
  一部用語の意味が理解できているかが試されますが、多くは統計資料の読み取りが求められます。
 では、そうした知識以外の部分だけが問われる問題はいかがでしょう。
例3 桐光学園 第2回


1.3食について「全体」の項目を見ると「米食」が4割以上と最も多く、次いで「パン食」である。
2.男女別に3食を比較すると、男性は女性より「パン食」「麺食」が多い。
3.朝食では、55~74歳の「米食」が半数以上と非常に多い。
4.朝食の男女別では、男性の「パン食」の割合が4割以上と多い。
 
こちらはグラフの数値を正しく読み取ることができれば特別な知識がなくても正解を出すことのできる問題です。
同様の問題をもう1つ
 
例4 洗足学園 第2回
問 次の[資料]は、スポーツ庁が実施しした、全国の中学生の平日の部活動の活動時間についての調査結果を示したものです。[資料]から読み取れることとして誤まっているものを、次のA~Dの中からすべて選んでアルファベットで答えなさい。
(スポーツ庁「平成29年度運動部活動等に関する実態調査 報告書」より作成)


A 平日の実際の活動時間は、運動部の生徒の方が文化部の生徒よりも長い傾向にある。
B 平日の実際の活動時間は、運動部・文化部ともに、2~3時間と答えた生徒の割合が最も高い。
C 生徒が好ましいと考える活動時間は、運動部の生徒の方が文化部の生徒よりも長い傾向にある。
D 生徒が好ましいと考える活動時間は、運動部・文化部ともに、平日の実際の活動時間より長い傾向にある。
 
この問題も数字を正しく読み取ることができれば答えられます。ただ、先ほどの問題と異なり、当てはまるもの全てを答えさせる点で難易度が高いと言えます。
ここまでは数字を用いた統計資料を扱った問題を紹介しました。次に文字資料を読み取る問題を紹介します。

(2)文字資料の分析


 
例5 駒場東邦
問 隣り合い対立するAとBの2国があるとします。両国の軍事力は同程度ですが、この先、相手国を信用し軍備を縮小するか、信用せず軍備を拡大するか、その選択の組み合わせによる結果をまとめたのが表3です。表から読み取れることとして正しいものを、次のア~オから1つ選びなさい。
 

ア 「軍縮」を選択して良い結果につながることはない。
イ お互いに相手国の出方が分かれば、必ず「軍縮」を選択する。
ウ お互いに相手国の出方が分かれば、必ず「軍拡」を選択する。
エ 相手国に出しぬかれるのではという懸念があるかぎり、「軍縮」を選択するのは難しい。
オ 「軍拡」の内容が核兵器を持つことである場合、「軍縮」「軍拡」がどの組み合わせになっても核保有国が自国民を守ることにつながる。
 
 いわゆる「ナッシュ均衡」や「囚人のジレンマ」を素材にした問題です。これを素材にした問題は今年の入試でいくつか見ました。資料の内容だけでなく、選択肢も丁寧に読み込まないと答えられないところがポイントです。
 
文字資料を扱う問題は記述問題で扱われやすいです。そうした問題を2つ
  
例6 品川女子学院 第1回
問 日本国憲法第30条に定められている「納税の義務」は、「子どもに普通教育を受けさせる義務」や「勤労の義務」と並んで、国民の三大義務の一つです。日本国憲法には、政府がむやみに税を課すことを制限する内容がふくまれています。次の二つの条文を参考にして、政府がむやみに課税することをどう防いでいるか説明しなさい。
 
第41条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法  律の定める条件によることを必要とする。
  日本国憲法を素材にした文字資料の分析問題です。
 
例7 鷗友学園女子
問 次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。
2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻に対し、国際連合は有効な対策をとれていません。安全保障理事会で常任理事国のロシアが拒否権を発動しているのも原因の1つです。そのため、第二次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省をふまえて成立した国際連合は、機能していないのではという意見もあります。
 
 国際連合の安全保障理事会は常任理事国の拒否権を認めています。拒否権を認めていることには問題もありますが、利点もあると考えられます。利点とはどのようなことか、以下の条件に従って説明しなさい。
 
[条件1]国際連合が中心となって、国際的な諸問題を平和的に解決していくためには、どのようなことが必要かについて、述べること。
[条件2]第二次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省とは何か、具体的に触れること。
 
 資料分析に加え、時事問題、そして次回触れる「思考」にも通じる問題です。しかも多くの入試や模試では安全保障理事会や拒否権の課題を聞いてきたのに対し、拒否権の利点を考えさせる問題にしたのは面白いです。
 
 ここまで様々な資料分析問題を紹介しました。次に、こうした問題を紹介する背景と今後について述べたいと思います。
 
 
 
 

2,最近の傾向


  それではなぜそうした分析問題に注目した方がいいのでしょう?以前からこういう問題は出ていましたが、最近はその出題頻度が高まっているように思えます。それは、2021年から始まった大学入学共通テストが関係していると思います。
  大学入学共通テストの前身のセンター試験でもありましたが、大学入学共通テストでは知識よりも資料を分析する問題の出題が増えているように思います。ここでは、地理・日本史・現代社会の問題をいくつか紹介したいと思います。どれも中学受験を終えた子なら答えられると思います。
 
例1 地理B 第3問 問1
問 鹿児島県で生まれたカヲルさんは、1960年代前半に大学進学のため県外へ移動した。その話を聞いたミノルさんは、地方から大都市圏への人口移動について調べた。その話を聞いたミノルさんは、地方から大都市圏への人口移動について調べた。次の図1は、1960年と2018年における、日本のいくつかの地方から三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)*への人口移動とその内訳を示したものである。図1中のアとイは四国地方と九州地方**のいずれか、凡例AとBは東京圏と大阪圏のいずれかである。九州地方と東京圏との正しい組み合わせを、後の①~④のうちから一つ選べ。
*東京圏は東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、名古屋圏は愛知県、岐阜県、大阪圏は大阪府、京都府、兵庫県、奈良県。
**沖縄県は含まない。


1960年から2018年の移動手段の変化(発展)を参考にすると正解まで行かなくても2分の1にまで絞ることができると思います。
例2 地理B 第5問 問6
  ユキさんたちは、さらに考察を深めるために、先生のアドバイスを参考にして新たに課題を研究することにした。次の表1は、新たな研究課題に関する調査方法を、ユキさんたちがまとめたものである。研究課題の調査方法としては適当でないものを、表1中の①~④のうちから一つ選べ。


GISなど中学受験では見かけない用語もありますが、研究課題と調査方法の関係を考えれば適当でないものを選べると思います。
 
次に、日本史を2題紹介します。
 
例3 日本史B 第6問 問4
 次の表2と史料2に関して述べた後の文a~dについて、、正しいものの組合せを、後の①~④のうちから一つ選べ。

史料2 炭鉱における家族労働
 亭主は一足先に入坑し切羽(注1)に挑んでおる。女房は(家事の)あと始末をして、いとけない十才未満の倅に用事をおわせ、四人分の弁当(中略)担げて(注2)ワレも滑らず、うしろも転ばぬ様に気を配りつつさがり行く。此の場合大人がおんぶすれば安全だが何分坑道が低く、幼児が頭を打ち付ける。他人に幼児を預けると十銭(中略)いるから大変、よって学校は間欠(注3)長欠になるわけであった。(山本作兵衛「入坑(母子)」)
(注1)切羽:掘り進めている坑道の先端。切場。
(注2)担げて:肩にのせて。かついで。
(注3)間欠:一定の期間休むこと。
 
a 表2によると、いずれの炭鉱においても労働者の3分の2以上が勤続年数3年未満であり、1年未満が最も多かった。
b 表2によると、他府県出身の労働出身者が多ければ多いほど、金属年数が短くなる傾向があった。
c 史料2によると、炭鉱内に女性は入ることができず、炭鉱労働者の妻は夫の弁当を男の子に届けさせねばならなかった。
d 史料2によると、子どもの教育よりも家計を優先する炭鉱労働者がいたことがわかる。
 
① a・c    ② a・d    ③ b・c    ④ b・d   
 
  センター試験の頃から史料を読み取って答える問題がありました。ただし、そういう問題は数が少なくまた配点が高くありませんでした。しかし、共通テストになり問題と配点が増えたと思います。また、センター試験は史料のみを扱うことがほとんどで、この問のように数字を扱う問題はあまり見られなかったと思います。
  もう1問日本史で。

例4 日本史B 第6問 問6
問 カヅキさんは、沖縄国際海洋博覧会に関する複数の新聞を調べて、次の見出し一覧を作成した。そこから読みとれることに関して述べた後のa~dにちて、最も適当なものの組合せを、後の①~④のうちから一つ選べ。
 
見出し一覧
・1975年に「沖縄海洋博」復帰記念し大々的に(1971年3月)
・豊かな沖縄へのきっかけに 知事が談話(1972年5月)
・海洋博 基地脱却 東洋のハワイめざす(1973年3月)
・“沖縄の心”は揺れ動いている 「本土の人たちの祭り」「景気浮揚の起爆剤に」(1975年7月)
・海洋博2ヵ月 観光客は増えても本土の資本が吸いあげ(1975年9月)
・海洋博が去った沖縄 倒産・失業だけが残った 聞こえてくる本土への恨み節 基地居座りで「戦後」は続く(1976年9月)
a 海洋博の開催は、沖縄がアメリカ施政権下にあった時期から検討されていた。
b 海洋博の開催の検討は、沖縄の施政権が日本に返還されてから始まった。
c 海洋博の開幕で観光客が増えると、海洋博による沖縄の景気回復を歓迎する論調が優勢になlった。
d 海洋博の開幕で観光客が増えた後も、経済的な利益を得ているのは本土の企業であると、沖縄では不信感が募った。
 
① a・c    ② a・d    ③ b・c    ④ b・d   
 
  この問題は先ほどの問題と異なり、歴史に関する知識がそれほどなくても答えられます。こうした資料分析に関する問題は先ほどの駒場東邦の問題に通じるものがあります。
 
  それでは最後に現代社会の問題を。
例5 現代社会 第2問 問2
  帰宅したヤマダさんはインターネットでパーソナリティについて調べ、2018年度に実施された国勢調査の結果を見つけた。この調査では、各国の若者に「自分についての誇り」に関して尋ね、租の回答を集計している。翌日、ヤマダさんは、集計した結果の一部を次の表にまとめ、学校でサトウさんに見せた。表を参考にしながら、後の二人の会話を完成させるとき、  ア  には後のa・bの記述のいずれかが、  イ  には後のc・dの記述のいずれかが入る。その組合せとして最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。
表「自分についての誇り」に関する国勢調査結果(%)

(注1)値は、各項目において、「誇りを持っている」か「どちらかといえば誇りを持っている」と回答した人の割合を合計したものである。(注2)この調査における、イギリス、フランス、ドイツの結果おっよび「忍耐力、努力家」「賢さ、頭の良さ」「体力、運動能力」「容姿」についての結果は省略している。

我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度)
(内閣府webホームページ)の「自分についての誇り」に関する調査結果により作成。

サトウ:日本の若者は「やさしさ」の回答割合が一番低いんだね。
ヤマダ:そう?私は日本の若者は「やさしさ」の回答割合が一番高いと思ったけど。
サトウ:なるほど。  ア  したんだね。
ヤマダ:他の特徴も探してみよう。  イ  。
サトウ:そうだね。でも、この調査は自分自身について尋ねた結果だから、回答者以外の人が若者の行動を観察して評価したら結果が違うかもね。
  ア  に入る記述
a 私は国内の項目間で比較したけど、ヤマダさんは項目ごとに国際比較
b 私は項目ごとに国際比較したけど、ヤマダさんは国内の項目間で比較
  イ  に入る記述
c 各国内の項目間で比較すると、日本以外の国では、「やさしさ」に次いで2番目に回答割合が高い項目が共通しているね。
d 項目ごとに国際比較すると、日本は他の国よりもすべてにおいて回答割合が低いね。

① アーa   イーc    ② アーa   イーd
③ アーb   イーc      ④ アーb   イーd
 この問は統計資料を分析した内容を正しく読み取る問題です。そしてこの問も、現代社会に関する知識を幅広く押さえていなくても、数字を正しく読み取れば答えられます。

 先ほども述べたとおり、こういう問題はセンター試験でも見られました。大学入学共通テストにより出題量が増えています。加えて、国語でもこうした問題が見られるようになりました。そうした対策、能力を試すという点で中学受験からこうした分析問題を出すのだと思います。

 そして、今後こういう問題の出題は増えるでしょう。もちろん、大学入学共通テストを学校が意識しているのも理由の一つです。また、こういう問題は難易度の高い選択問題になります。受験生の学力は向上し、今までの問題を普通に解き、差がつきにくくなっています。そこで難易度の高い分析問題を出す機会が増やすと思います。しかも、難関校では複数の選択肢を選ばせるといった消去法が使いにくい問題を出すようになってきています。今後は複数選択の資料分析問題を通して受験生の差をつけてくると思います。

 

3,まとめー対策に変えて

 今回は実際の中学入試・大学入学共通テストを通して資料分析の問題を紹介しました。いずれの問題も特徴が似ていて、中学入試の問題を大学入学共通テストとして出しても遜色ないと思います。今後もこうした問題が出され、増えていくと思われ、対策が必要になるでしょう。

 では、どういった対策が有効でしょう。陳腐ではありますが、数字や文字資料に慣れる機会を多く持つことです。それに加えて、「資料の裏を読む」姿勢があるとさらによいでしょう。なぜそれを出したのか、資料を出した側の思惑を考えるといいでしょう。そしてこれは日常生活でも身につける機会を得ることができます。現在はインターネットを通して様々な情報が溢れるようになりました。その数多ある情報を分析し、有効な情報を読み取る。こうしたメディアリテラシーを身につけることが日常生活はもちろん、入試問題にも繋がることといえます。

 

 次回は「分析」にも通じる「思考」について述べたいと思います。 

解答

1,分析問題のタイプ(文字資料・統計資料)
例1(1)ア (2)47・上昇
例2 ア
例3 3
例4 B・D(順不同・完答)
例5 エ
例6 憲法では、国会のみが課税法を制定できると定められているため、政府が独自に課税することができない。
例7 平和的な解決のためには外交が必要である。国際連盟では、常任理事国である日本の脱退などにより、話し合いの場としての役割を果たすことができなくなった。拒否権の利点として、意見が対立した際に、大国が話し合いの場から離脱して、話し合い自体ができなくなってしまうのを防ぐことが考えられる。など

2,最近の傾向
例1 1
例2 3
例3 3
例4 2
例5 4

冒頭に載せたPDFを再掲します。
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